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戦争が終わったと伝えなかったら? 名作映画「アンダーグラウンド」感想

め~め~。

3時間を超える映画というのは、なかなか見る時間と体力を確保するのが難しいものです。

しかし、3時間という長尺が許されており、且つ、それが名作とされるにはやはり理由があります

一般的に、映画というのは短ければ短いほど映画館が喜ぶものです。

3時間の映画を一本かけるより、1時間半の映画を2回かけたほうが、映画館は儲かるからです。

さて、そんな中でも3時間を超える長さであるエミール・クストリッツァ監督の最高傑作と呼び声の高い「アンダーグラウンド」について、見たことのある人も、見たことがない人には、ネタバレになりつつ、感想とちょっとした解説をしていきたいと思います。

途中で、見たくなってきた人は、ぜひご覧になったあとに、本記事に戻ってきていただければと思っています。

戦争は終わっている?

本作品をどのような経緯で知ったかによりますが、映画「アンダーグラウンド」という作品の、いい意味で狂った内容に惹かれた人は多いのではないでしょうか。

本作品は、第二次世界大戦から逃れるために地下に逃げ込んだ人たちが、戦争が終わった後にも関わらず、戦争が継続しているように思わされながら生活している、という設定に、屈折した面白さがある作品となっています。

それだけが映画のすべてではないのですが、情報が制限されてしまった場合、いつ戦争が終わるかなんて、わかるはずもありません

「戦場のピアニスト」にしても何にしても、戦争が終わった、というのが本当かどうかは、半信半疑であるのが一般人です。

戦争が終わっていないと思わせておいて、怒られてしまう映画としては「ジョジョ・ラビット」がありますが、本作品は、「ジョジョラビット」における、少年による屈折した恋の部分を、一気に拡大したような作品になっています。

もっとも、「アンダーグランド」のほうがはるか先に作られた作品ではありますが、情報を制限することによって、自分にとって都合のいい箱庭をつくる、という屈折した喜びと、それに耐えられなくなっていく人間を描きつつ、ユーゴスラビアという国が亡ぶまでを描いているところに、ただならぬ作品の巨大さを見せつけられる内容となっています。

男と男と、女

本作品は、たしかに、ユーゴスラビアという国を描く物語となっていますが、基本的には、パルチザンとして、無茶苦茶をやっている二人の男が主人公となっています。

元電気工のクロという男は、とにかく豪快な人物です。

お腹が大きい奥さんがいるというのに、新進女優のナタリアに言いよって、奥さんが死んだら死んだですぐに結婚しようとします。

そのやり方も豪快で、舞台で演じているナタリアを紐でぐるぐるまきにして攫っていき、そのまま結婚式をはじめてしまうという、「マリオブラザーズ」でいうところのクッパ大王とピーチ姫のようなやり取りが印象的です。

それだけであればまだ、変な男の話になるのですが、もう一人の主人公であるマルコという男もまた、ナタリアに好意をもっており、クロという大親友であり悪友であり最高の友人に悪いと思いつつ、ナタリアを自分のものにしてしまいます。

この奇妙過ぎる三角関係や、共犯関係というのが、この作品の一つのミソとなっています。

巻き込まれるような形で二人の男の関係に入り込んでしまったナタリアですが、彼女もまた、非常にしたたかな女性です。

ドイツ人将校に好意を向けられればそちらに行き、クロに行き、マルコにも行く。

最終的には、マルコと夫婦のような関係になりますが、その依存関係は狂気ともいえるところです。

フェチズム

本作に限らないかもしれませんが、フェチズムの要素が随所にみえる作品でもあります。

マルコは、ナタリアの足に執着します。

脱いだ靴にお酒をいれて飲んでみたり、馬乗りになられてみたりと、マゾヒストな一面をのぞかせており、ナタリアもまた、その狂気に乗るような形になっています。

本作品は、かなり重たい内容になっているはずですが、登場人物たちの欲も悪くも、明るさと狂気が、映画のムードを重たくしていないのも特徴といえるでしょう。

音楽

本作品で面白いのは、その音楽でしょう。

ジプシー・ブラスと呼ばれることもある音楽のジャンルとなっており、永遠とリフレインするフレーズがいつまでも頭に残ります。

主人公たちの後ろをついてくる楽団の人たちが、同じフレーズを一心不乱に吹き続けるのですが、劇中のBGMの大半が、彼らの奏でているもので構成されている、というのがわかる場面は面白いです。

実は、BGMが劇中の人が奏でていたっていう演出は、たびたびありますが、主人公たちの後ろを走らせたり、乱闘さわぎの中でも存在しているっていうのは、珍しいところではないでしょうか。

身勝手な男の物語

本作品は、たしかに上映時間は長いですが、テンポの良さもあいまって、体感時間としてはそれほど長く感じません

「あんたたち、本当に一心同体なのね」

とナタリアが言います。

まさに、この物語の二人の関係を言い当てているセリフです。

しかし、マルコは、ナタリアが欲しい。

クロが大けがをしたことをきっかけに、彼を地下の空間で生活をさせ、マルコは、地上の世界でメキメキと頭角を現していきます。

戦争が終わった後も、マルコはその事実を地下の住民たちに知らせず、武器を製造させ、武器商人としても力をつけていきます。

ちなみに、実際の映像に、登場人物たちを合成するという方法をつかっており、その演出が面白いです。

「フォレスト・ガンプ」なんかでも、この手法を使っていましたが、ここまで堂々とやるというのも面白いところです。

自分の映画を作らせる

戦争が終わり、国の英雄となったマルコは、自分とクロとの戦いを映画にしてもらいます。

映画の中で起こったことを映画内で映画にするという入れ子構造で思い出すのは、フィリップ・シーモア・ホフマン主演、チャーリー・カウフマン監督・脚本の「脳内ニューヨーク」です。

大金を手に入れた主人公は、自分の人生を舞台にした作品を作り続けるという、狂気を超えた内容となっています。

「アンダーグラウンド」は、そこまでではないですが、自分の人生を映画にするという構造の中で物語が進んでいきます。

罪悪感

しかし、そんなマルコや、ナタリアも、戦争が終わっているのに、多くの人たちを地下に閉じ込め続けることには罪悪感を感じています。

酒が飲めなかったナタリアは、すっかり、アルコール中毒になってしまっていますし、マルコもまた現実とのギャップに悩みます。

観客である我々は、地下の住人の反応と、地上のマルコ達との反応の差を楽しみながらみることになります。

地下では戦争を有利にするためと信じて武器を製造している一方で、地上のマルコ達は、音楽に合わせて踊ったりしています。

また、少しでも地下での生活と現実のギャップを埋めようとして、地下の時間と現実の時間をずらそうとする、という試みなんかもありまして、ほほえましいやら、恐ろしいやら、といったところ。

地下の町をどうするのか、という二人の決断もまたすさまじいものとなっています。

地下崩壊後

本作品は、地下の世界だけの話ではありません

ユーゴスラビアという国がどうなっていくか、というのも含めて描いているところに秀逸さがあります。

地下で生まれ成人したクロの息子の様子もなかなかのものですが、クロやマルコが、地下に求めていたものがなんだったのか、ということがラストになってわかります。

はなはだ、主人公にとって都合のいい話です。

誤解や狂気の中で、物語は進んでいき、すべての人が死に絶えます。

その後に待ち受けていたセカイこそが、彼らにとっての理想郷となっており、死んだ奥さんや息子、裏切ることになってしまった親友や、その妻となった元愛人。

みんながいる中で、幸せな死後を迎えるという、なんとも都合がいい話ではあるのですが、なんだかんだ登場人物たちに思い入れがでてくる3時間ですので、彼らの幸せを願いつつ、彼らの行く末を考えてしまうラストとなっています。

身勝手な男の友情物語

3時間にも及ぶ本作品を見るにあたって、ユーゴスラビアの滅亡を描く、ですとか、政治的な意味や意義なんてものを考えていると、素直に楽しむことができないかもしれません。

本作品は、もっと単純に考えたほうが面白いです。

これは、基本的には、クロとマルコの男の友情の物語であり、クロはマルコが友情を超えた情をもっています。

理想郷を求めて戦い続けた男が、本当の最後に理想郷にたどり着いたという話です。

どこまでも豪快な男であるクロ。

ナタリアもまた、自己顕示欲の強い女性ではありましたが、最終的にはマルコと最後まで連れ添っています。

ナタリアは死んでもお酒を飲もうとしますし、彼女の健康を気遣ってマルコは彼女からお酒をとりあげます。

歩けなかったナタリアの弟が歩き、脳性麻痺か何かの影響でうまくしゃべれなかったマルコの弟もまた、普通にしゃべっています。

なんとも憎めない人たちの、箱庭のような理想郷の中での物語が詰まった作品が「アンダーグラウンド」となっています。

長い作品ですが、あまりある魅力の作品となっています。

以上、戦争が終わったと伝えなかったら? 名作映画「アンダーグラウンド」感想でした!


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