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出張ミニシアター巡り🚄【THEATER ENYA】(佐賀県・唐津市)前編

こんにちは。映画チア部大阪支部の(さや)です。
広島県・尾道市の「シネマ尾道」に続く、出張ミニシアター巡り第二弾です⭐️

今回お話を伺ったのは、佐賀県・唐津市で唯一の映画館「THEATER ENYA」支配人の甲斐田晴子さん。

記事は前後編にわたり、たくさんお話を聞かせてくださいました✨
前編では主にTHEATER ENYAについて。
映画館の歴史やこだわり、THEATER ENYAの魅力についてのお話を掲載しています!

ぜひ最後までご覧ください!


(聞き手:さや)

チア部:唐津のまちに22年ぶりの常設の映画館「THEATER ENYA」ができた経緯を教えて下さい。

甲斐田さん:もともとは私が経営するまちづくり会社・いきいき唐津が実施した商店街活性化のための市民のニーズ調査で「カフェ」や「映画館」というのが挙がっていたことがきっかけです。それで当時、西日本を中心にミニシアターを回って調査したのですが、すでに地方では映画館のビジネスモデルを成立させるのがとても難しくなっているということがよくわかったんですね。映画館を建設するのは最初にすごくお金がかかるので…イニシャルコストとランニングコストを考えたときに、映画館を早急に立ち上げるというのはリスクが大きすぎると判断しました。そこで、まずは市のホールを借りて、定期的な映画の上映会(唐津シネマの会)という形で始めることになりました。

チア部:映画館をつくらないことで、始めるリスクを小さくしたんですね。

甲斐田さん:そうですね、定期的な上映会のスタイルであれば映画館という箱を作らずにすむので、最初に借金をしなくていいし、ランニングコストもホールを借りるレンタル料だけで済みます。そうして定期的な上映会を市民の同好会の皆さんと一緒に7年くらい続けながら、少しずつ映画館を持続可能に運営できるための新しいビジネスモデルを作っていきました。

チア部:それはどういうことでしょうか?

甲斐田さん:映画の鑑賞料収入だけじゃなくて、地元の法人を中心にサブスクリプションの法人スポンサー制度をつくりました。地道な営業活動で、現在は100社を超える地元企業の皆さまに応援していただいています。それから、ふるさと納税を通して寄附を受けられる佐賀県のNPO支援という制度の対象活動として認定もいただいて、「鑑賞料金」「法人スポンサー」「ふるさと納税」というシアターエンヤサポーターズ制度の3つの収入源があれば、何とか映画館を建設して運営できるのではないかと考え、2019年11月に唐津に22年ぶりとなる映画館を復活させました。


映画館「THEATER ENYA」公式サイトはこちら🔽


チア部:そうはいっても、なかなか簡単に映画館はつくれるものではないと思います。

甲斐田さん:そうですね、映画館ができた背景には、同時期に経営するまちづくり会社が映画館が入居する商業複合施設KARAEという商店街の再開発事業を担っていたことも大きかったです。

定期的な上映会をしながら、しっかりと持続可能な映画の運営ができるという確信を持てたということ、そのタイミングでこの商店街の再開発事業を私たちが担っていたという2つの要素が旨くかみ合いました。

また映画の定期的な上映をやっていく中で、市民ニーズ調査をやり続けたんですけど、やっぱり「映画館」が欲しいという声が多く聞かれたんですよね。それはたぶん、定期的な上映会では流せないシネコンとかで流れている話題作や最新作を観たいとかが主な背景にはあったと思うんですけど。

あとは映画館は、飲み物を片手にお菓子を食べながらみんなで観るみたいな総合エンターテイメントの要素があると思うんです。定期的な上映会をしていた市のホールでは、飲食禁止だったりして、そういう空間創出は難しかった。なので、定期的な上映会をしているけれども「映画館」という市民のニーズが無くならなかったんですよね。その根強い市民ニーズも、私達のあと推しとなりました。

THEATER ENYA支配人の甲斐田晴子さん


チア部:映画館の内装デザインや、上映する環境などのこだわりはありますか?

甲斐田さん:映画館の内装は、例えば椅子の色は寒色系とか暖色系、赤とか青とかあるんですけど、私達は大林宣彦監督の『花筐/HANAGATAMI』(2017)という映画をオール唐津ロケで製作していて、その映画のテーマカラーが赤だったこと、その映画の雰囲気に合った昭和レトロな内装にしました。あとは、直感的にこの施設や唐津のまちには、寒色系よりも暖色系が合うなと思ったことですかね。

また中高年の方がかなり多くなると思うので、座席と座席の間のピッチを通常の映画館より広くしていて、あとは、例えば杖をついてきても大丈夫なように、列と列の間も少し広めに開けて、横にも縦にもゆったりしていて映画を鑑賞するのにはすごく優しい環境を担っていると思います。

THEATER ENYAのスクリーン
車椅子席は入り口から段差の無い、列の中央にあります!
シートのピッチは広く、ゆったり座ることができます
最後列のペアシートは親子で見るときにあったらいいなと作られたそうですが、老夫婦が仲良く並んで座っている姿を見かけることも多いそうです。

それとこだわったのが、映画館の壁です。普通映画館の壁面はって吸音(の壁)なんですよね、雑談とか雑音が響かないように。だから映画館の空間って「シン...」ってしていると思います。もちろんTHEATER ENYAも吸音壁なんですけど、地方の映画館ってもうちょっとラフで雑味があって良い、シネコンのようにがんじがらめのルールじゃなくて良いと思っていて、例えば子どもたちが映画を観ながら応援し出したりとか、ちょっと映画を見ながら笑ったりとか、思わず感嘆のため息ついたり少し話をしたりとか。あまり迷惑な行為はしちゃいけないとは思うけど、そういう生身の人間が持つ雑味が殺されすぎないほうが良いと考え、映画館の壁の吸音を少し緩くしています。吸音しすぎない壁、それもひとつのこだわりですね。そうしたことで、いろんな子どもたちの発表会とか、バンドの演奏とか、THEATER ENYAで実施している上映以外の文化活動にとっても良い影響がありますね。

あとサウンドや映像もこだわりました。予算に限界があったので、松竹梅の「竹」くらいのスペックですが、ミニシアターにしてはすごく良い環境だと思います。

チア部:作品のセレクトについてのこだわり、方針などあれば教えて下さい。

甲斐田さん:作品のセレクトはいわゆるシネコンの商業映画と独立系のアート映画の間をいくようなイメージで行っています。シネコンが地域にないから、その役割も必要だし、シネコンでは上映されない良質なアート映画の上映をしていくのも大切にしています。ミニシアターというと、アート映画、とんがった映画をたくさん上映しているイメージがあると思いますが、長年映画館がなかった唐津で皆さんが期待しているのは、エンタメど真ん中な商業映画も多い。あんまり私達が突っ走ると、まちの人達が置いてけぼりになってしまう。だからエンタメ作品から上質なアート映画まで守備範囲をひろくして、時にはお客様の「こういうの見たいな」というリクエストも取り入れたりしながら作品を選んでいます。

チア部:確かになかなかミニシアターでは見ないエンタメ作品も上映されていますね。

甲斐田さん:はい、ただジレンマとしては、地方のミニシアターではシネコンでかけられるエンタメ大作の大半は上映できないんですよね。それは「シネコンで上映期間中は、シネコン優先でミニシアターは同時上映できない」という慣習があるのと、シネコンが終わった後にミニシアターで上映しようとしても、「1日2回必ず1ヶ月上映してください」みたいな縛りがあることも多いから。例えば人気アニメの『鬼滅の刃』をイメージするとわかりやすいと思うんですが、1日2回毎日1ヶ月上映しても子供達や若者が観にこられるのは学校や仕事がない土日だけですよね。すると、平日のメインの中高年のお客様が観る映画がなくなっちゃう。

更にそういう映画は、「ミニマムギャランティー」といって、お客さんの入りに関係なく支払わないと行けない補償金みたいなのがある場合がある。普通の作品だと、観客の入りに応じて、売上を配給会社と映画館で分配しますが、ミニマムギャランティーになると、お客さんが入ろうと入らまいと支払わないといけない金額があるから、映画館が赤字になるリスクがでてくる。

そういうことで、地方のミニシアターではシネコンで上映されているエンタメ大作の作品が上映できないことがしばしばありますね。個人的には、唐津の立地上、周辺のシネコンと競合はしないと思うし、シネコンだと交通費や食費などがかかり、お小遣いでなかなか行けない子供たちや、足が悪くて遠出できないおじいちゃん、おばあちゃんたちが地元の映画館だと来れるので喜ばれると思うんですよね。だからいろんな映画業界の慣習を地方のお客様目線で柔軟に対応してくれるといいなと願っています。これから少しずつ実績を残して、そういう地方の声を届けていきたいですね。

チア部:「映画館は、地域の大切な文化のインフラストラクチャー」とおっしゃっていますが、それがどのようなことか教えて下さい。

甲斐田さん:映画館が文化のインフラストラクチャーであるというのは、やればやるほど確信に変わっていっています。

まず背景として少子高齢化の中で、生活に必須でないという理由で文化や娯楽というのはとても弱いものになりやすい。例えば水道とか電気とかガスとか生命のパイプラインのインフラは、少子高齢化で行政の財源が縮小する中でも守られます。憲法でも保障されている国民の権利ですしね。そこで、財源が小さくなった時に何が削られていくかというと、文化・娯楽的なものが対象になっていく。

そういった中で、本当に文化がなくていいかと言ったら、実はすごく大事な要素だと思うんですよね。少子高齢化社会では、どうやって高齢者が健康に心豊かに暮らしていくか、そしてどうやって子どもたちに文化芸術的な機会をなくさず届けられるか。そこにすごく映画館って存在意義があると思っています。まちに映画館があるということは、年齢や性別を問わず沢山のかたが、いろんな文化や価値観に触れることができる、すごい財産だと思っています。それは人を豊かにし、まちを豊かにします。

地方で、文化が痩せていくのに対し対照的だなと思うのは、スポーツですね。「スポーツが人を育てる」ということを理解し、そういう機会を作ろうとする人材は地方でも結構いてくださるんですよ。小学校の折り込み広告にも野球、サッカーや柔道、空手、陸上など色んな案内が入っています。スポーツが人を育てるということは、割と地方は担い手も理解者もいるんだけど、文化が人を育てる、豊かにするという理解者や担い手が少ないなと感じています。スポーツは身体も強くなるし、結果も明確で、チーム一丸となって協力する、とか試合の結果とか、成長要素や成果が目に見えやすい。

その点、文化ってそれがどのようなものかを理解するのも時間がかかるし、担い手になるのにもちょっと専門性が必要になってきて、それを理解し応援する人口が地方は圧倒的に少ない。だからそういう人材は都市部に集中する。
それが現実だから、映画館があるのは、まちにとって凄く意味のあることだと思っています。映画は、もともと「総合芸術」といわれるくらいで、音楽や脚本、舞台とか映画美術とか、いろんなアートの要素が入っているし、唐津という小さなまちからスクリーンを通して世界中のどこにでも行ける。しかも「教育」などと押し付けがましい形ではなくて娯楽として楽しめる、敷居の低いエンターテイメントとして誰でも享受できる。

なので、映画を観る選択肢がまちにあるというのはすごく豊かだと思いますね。子どもたちや学生の教育の中に、スポーツとか色々あっていいけど、その中に映画館で映画を観るということがあったらいいなと思います。うちの高校生の長男にも、悩むことがあったら「映画観なよ」って、いつもいっています(笑)。

チア部:もっとも多いお客様は中高年層だと聞きました。高齢者の方たちにとってはどうでしょうか?

甲斐田さん:それも凄く大きな役割があると実感しています。お年寄りの中でも、いま独居老人の割合がすごく増えてきています。それは結婚していない人が増えたこと、長寿社会でパートナーが先に亡くなること、高齢者の離婚率が増えていることなど、いろんな要因があるのですが、そんな高齢者社会の中でどうやってその地域に暮らす人が孤独ではなく、豊かに過ごせるか。実際にシアターエンヤができたことで、お友達と会う口実ができて、引きこもり生活でなくなったおばあちゃんとかもいたりして、映画館が教育や福祉におけるセイフティネットや予防福祉的な役割を果たしているなと感じることも多々あります。

チア部:その他に「文化のインフラストラクチャー」ということについて何かありますか?

甲斐田さん:あと、キュレーションっていうのかな…
映画館を持つと、定期的な上映会というスタイルで活動していた「唐津シネマの会」時代とは、比にならないくらい配給会社から作品を紹介してもらえます。「こういう映画はどうだ」「ああいう映画はどうだ」って、どんどん配給会社が買い付けてきたり制作した映画をアプローチしてくれるわけです。
定期的な上映会は「非劇場」という扱いで、上映できる作品もかなりかぎられていたけど、映画館のハコを持つと、その環境が全く変わりましたね。自分で作った映画を持ち込んでくる方たちもいますしね。

自分達で見聞きして収集できる情報量と、日本全国の配給会社からたくさん提案してくれる情報量とでは、圧倒的な差があるし、その質においても配給会社はすでにその時点で、国内外のいろんな映画祭に行って、これはいいな、是非上映したいと思ったのを買い付けてきたりするわけで、すでにキュレーションをしてるわけよ。
そういうプロの人達が選んだり制作したりした作品を、さらに私たちの方で地方性を鑑みながらセレクトする。こういうことは、やっぱり映画館しかできないと実感します。だから、映画館がまちにあるってことは、全世界からの選りすぐりの映画の作品が集まるということなので、まさに文化のインフラストラクチャーたり得る存在になると思いますね。

後編ではオール唐津ロケで製作された大林宣彦監督作『花筐/HANAGATAMI』(2017)についてや、THEATER ENYAで開催されている「唐津演屋祭」について詳しくお話を伺いました!
ぜひ後編もご覧ください!

後編記事はこちら🔽


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