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『PLASTIC』宮崎大祐監督インタビュー【前編】

映画チア部大阪支部の(さや)です。
大阪のシネ・リーブル梅田にて7月21日(金)公開の映画『PLASTIC』
公開に先がけて宮崎大祐監督にインタビューさせていただきました!!

『PLASTIC』は幻のアーティスト「エクスネ・ケディ」による1974年のライブ音源アルバム「Strolling Planet74」をモチーフにし、井手健介さんが本作のために結成した「PLASTIC KEDY BAND」が音楽を担当している青春映画です。

音楽がとっても魅力的で、この映画を見ている時は頭の中が音楽でいっぱいに…!
また、ストーリーや人物造形も素晴らしくて、主人公たちの感情に渦巻かれました💭

そんな見どころのたくさんある映画『PLASTIC』、そして監督ご自身について、
宮崎監督にインタビューしました!
記事は前後編に分かれています。
まず【前編】では映画『PLASTIC』を制作するに至った経緯やキャスティング、映画制作における映像と音のこだわりについて詳しくお話を伺いました!
また、監督にとって「エクスネ・ケディ」はどんな存在なのか?についても質問しました!

最後まで必見です!ぜひご一読ください🌟


(聞き手:さや)

チア部:どのような経緯でこの映画の制作に至ったのでしょうか?

宮崎監督:僕は自分から映画を撮りたい!って普段からわめいている人間で、人から映画撮りませんか?と言われるというよりは、撮りたいですっていろんな人のドアをノックしているタイプなんです。

今回も、僕が大学時代以来お世話になってる樋口泰人さんが社長を務めておられるboidっていう配給会社に、やりたい音楽映画の企画があるって言ってて、しかも文化庁から助成金が下りるらしいから申請してやらせてくださいって言ってました。それと、僕が教えてる名古屋の学校の何かの記念でお金が出るから2つの合わせ技でできるんじゃないかということで実現したという感じです。


チア部:若手俳優の方からベテラン俳優の方まで勢揃いのキャストで、一人ひとりが印象に残ったのですが、キャスティングについてお話を伺いたいです。

宮崎監督:キャスティングに関しては、もう本当に好きな俳優オールスターです。演出家としては、皆さんの芝居を僕の好きなトーンに揃えるっていう選択肢もあったんですけど、それってつまんないんですよ。それぞれの持ち味を全開に出してもらって、かつやり過ぎず違和感なくキャラとして見れるっていうラインの演出が僕は好きで。前の作品は全体的に抑えて自分の好きなトーンに揃えたりしたんですけど、今回はなるべくビビットに皆さんの魅力を出したい、なぜなら皆さん本人がすごく魅力的だからっていうことに挑戦しました。


チア部:映画における映像と音それぞれがとても印象的でした。映像は全編を通してレトロな雰囲気が漂っていて、デジタルというよりもフィルムのような、クリアというよりも少し雑味のある物質性を感じました。
撮影にはフィルターを使われたのでしょうか?また、今回の撮影におけるこだわりを教えてください。

宮崎監督:質感は、正直あんまり良いカメラではなかったんですけど、だからこそ16ミリっぽい質感にしたいなと思っていて、撮影時にもそれは言っていました。また、いつもカラーで撮った時は原色を強めに出して欲しいと美術の人や衣装の人に言っています。

仕上げの段階では16ミリのフィルムっぽく見えるようにグレインという黒い粒子を入れています。最近ずっとポルトガルで仕上げをしているのでリスボンのペドロ・コスタ監督の色を担当しているゴンサロ・フェレイラが全部フィルムっぽく粒子をつけてくれて、あの質感になっていった感じで。被写体深度とか後ろのフォーカスが微妙にボケてるのとかも全部仕上げでフィルムっぽくやってもらって、出来上がりました。
フィルムで撮るとなんでも良いみたいな文化がシネフィル界にあるんですけど、いまはフィルムで撮っても結局デジタル現像するので「それは結局デジタルだろうが」って僕は思って、だったらデジタルでフィルムっぽく撮ったら、ちょっと面白いかなというか皮肉が効いているかなと。

撮影技法に関しては、前作の『VIDEOPHOBIA』(2019)が寄りと引きが多くて、その時「寄りと引きだけしかほぼ撮らないで」ってカメラマンに言ったのは、今の世界がすごく狭いSNSとかの世界か、戦争が起きていますっていうようなデカい世界しかないと思ったので、それを映画のフレーム感としてやりたかったんです。
今回はそれよりもちょっと緩い感じで、俳優を活かす感じとか、動物や通行人がたまたま入っちゃったとかそういう世界のカオスを取り込みたいっていう話をしていたので、「これを見ろ!」というフレーム感よりかは「なんか変なことが起きないかな」ってフレーム感にしてくれっていうことは言っていて。あとは前半がちょっとラブストーリーというか、幸せな感じなので詰めたフレームで始まって、後半はコロナの時に僕が感じた、夜に散歩をしていて全然人もいないし灯りもついていないし音もしない感じ、なんか広いんだけどポツンと自分が孤立しているみたいな自意識にだんだん世界が広がっていく感じのフレーム感にしていきましょうと言っていました。あとカメラマンが青山真治さんのカメラマンの中島美緒さんだから、微妙に青山さんにオマージュを捧げるサイズ感とかもあったりしました。

チア部:それは具体的にはどんなショットですか?

宮崎監督:横移動のショットとかですね、最初のチャリとか。でも自ずと青山さんっぽくなるんですけど。割と順撮りだったので、カメラマンとも息が合ってきたのがキラキラシーンが終わってからで、鬱シーンになってからは意気投合して、サイズ感も合ってきたという感じでした。

チア部:コロナ禍のシーンでUber Eatsの配達員さんが画面の右から颯爽と現れて、それもすごくリアルだなと感じました。

宮崎監督:あれは本当にUber Eatsをやっている人にお願いして出てきてもらったんですよ(笑)たまたまその時応援に来てくれた助監督の友達がUber Eatsをやっていて、やってくれって言って(笑)


©︎2023 Nagoya University of Arts and Sciences


チア部:映画内の音についてですが、ジュンがギターを弾いているシーンがすごく印象的でした。私はタブレットで視聴したのですが、ずっと頭の中で音が反芻しているような、今まで味わったことのない音の余韻を感じました。また、音楽が途中でぷつりと切れてシーンが移り変わる演出や、俳優さんたちのリップシンクの場面も非常に印象的でした。
この作品の中核ともいえる「音」や「音楽」の演出について、監督のこだわりをお聞かせください。

宮崎監督:「音」はそうですね…、昨年亡くなってしまいましたがジャン・リュック・ゴダールという監督が「映像と音は1対1である」ということを言っていて、我々って割と視覚で世界を認識するから、映画も9対1くらいでみんな画に意識がいっちゃうと思うんですけど、その1対1に映画の音と映像のバランスを戻したいみたいな意識が強くあるので、今回もそこはすごくこだわっていて、編集よりも音の仕上げの方に時間をかけています。

音楽に関してはミュージシャンの方とサウンドデザイナーの方と台本の段階から「ここはこうなんだ」「こういう演出をしたら面白いんじゃないの」みたいな話はしていて、曲も作り直したりしてくれていて。藤江さんがギターを弾くシーンに関してはすべて本人が弾いていて、本人が弾いてそれなりにかっこよく聞こえるとか、今おっしゃっていただいたように何度も反芻するようなレベルの演奏なんて、ミュージシャンでない限り難しいと思うんですけど、たまたま藤江さんがミュージシャンであったことと、ギターの音を後の仕上げですごいみんなで議論しながらつけていって今の形になりました。灰野敬二さんっていう日本のサイケデリックロックの神様みたいな人の、音色にしようって言って、グラムロックの合間だけどなぜかあそこだけサイケギターになっているっていう、気づいた人だけが笑える音色になっていて…。

これは僕の作品づくりの哲学なんですけど、物語が気持ちよく繋がっていって予定通り終わるとか、メロディが気持ちよく流れていって終わるっていうのを…それも多分影響源はゴダールなんですけど、なんかブチって切りたくなるんですよね。巧妙なプログラムとして良い物語、音楽がある…それを気持ちよく「よかったね」とする鑑賞法を僕はあまり良しと思っていなくて…それは動物の反応だから。例えば、トイ・ストーリーとかめちゃくちゃ泣けるけど、あれは泣くためのプログラムがすごい高度に作られているだけだと僕は思っていて。そういうところじゃないところに、混沌さとかよくわからなさとか、戸惑いとかつまづきに映画の面白さがあると思っているので、音楽もそういう意味でみんなが気持ちよく聞いているところでブチっと切れたりとか、「今なんか変なこと起きたな」っていう風につまづかせるっていうのを割と意識してやっていて。とはいえ曲は良い曲だし、映画の内容ともすごくシンクロしています。

ミュージカル調のシーンに関しては、(俳優)本人の声が入ってくるとことか、本人の声が抜けるところとか、タイミングによって微妙に何かの音が上がるといったことをサウンドデザインで巧妙にやってくれていたのに、またそれもみんなでスタジオで「もっとこっちの音上げろ」とか言いながら変えていきました。基本的には物語が出会えるか出会えないかわからないーそれがずっと枝分かれしていって続くーだけどまた出会えるかもしれないという話だったから、それをコーラス、リップシンクで見せるんだったら声がまさにクロスするところ、和音になるところというか。「なんか声が交わったな」って感じがするとか、気持ちよくなった気がするとか、出会えた気がするといった瞬間をリップシンクのシーンだと作れるなと思ってみんなで作っていて。僕はあの秒数で二人の声がハモった気がするとか、いやそこ全然ハモってないでしょとか…だけどどっかでクロスするといいなっていう微妙な作り方をしました。


チア部:現代を舞台にした作品において、音楽を聴く媒体として主要な位置を占めいているのが「レコード」なわけですが、CDではなくレコードであるということに何かしらのメッセージ性を感じました。レコードにこだわられたのはなぜですか?

宮崎監督:僕が多分レコードを普通に買う最終世代くらいで。MP3になってレコードが滅びると言われていたのがおそらく2000年ごろくらいで、2010年くらいからはレトロファンがまたレコードを買っていて、HMVがレコード屋を始めましたみたいなニュースを聞いたんですけど、なんかマニアはレコードで聴くんですよ。オーラがこもっているみたいなことを言うんですよ。数字化できない何かがあるって言うんですけど、僕はそういうことを冷笑的にみてしまう人間ではあるものの、そういうものを信じたいところがあるんですよ。多分アナログレコードにはCDとかMP3に入ってない何かが入っている、ノイズが入っているということを信じたくもある人だから、やっぱり音楽マニアは音楽を聴くんだったらアナログの方で聴くんじゃない?って思ってあの設定にしました。

あとレコードが回転してグルグル同じところを回っているというのが、映画の全体のテーマに合うというか…ジュンは名古屋の同じ場所をグルグル回って、中心には近づききれない穴があって、イブキはまっすぐ東京に行っちゃうけどそこでも同じところをグルグル回って。そのグルグル回っている円と円が混ざるかもしれない、なんかそういうひたすら順繰り回っている映像、最近僕がちょっとハマっている村上春樹でいうと『スプートニクの恋人』という作品は衛星が交錯するタイミングが一瞬あるっていう話だったんですけど、なんかそのイメージがあったので、アナログレコードのあの感じは面白いかなと。あとは単純に鈴木清順という監督がすごく好きで、彼がレコードのアップをよく撮るんですよ。それへのオマージュという感じです。

チア部:冒頭にイブキが自転車を漕いでいるシーンではイヤホンをつけて音楽を聞いていますが、あれはどういった意味が込められているのでしょうか?家ではいつもレコードで聴いていて、外ではイヤホンで音楽を聴く姿が印象的でした。

宮崎監督:そうですね、なんか現実と理想(夢)という2つが世の中にはあって、どっちかしか詰められない人ってすごい人生が辛くなっちゃうと思うんです、僕の思いでは。だから、家でアナログを聴いているから外でもアナログを聴く人って普通に不器用な人だと思うんですね、持ち歩くのも面倒くさいし音飛びもするだろうから。
イブキは家ではレコードで聴くけど、外に出た時はiPhoneとかスマホで聴くっていうキャラクターだよ、現実を見ているけどタイミングを見て夢見がちな子だっていうのは撮影の前にも言った記憶があります。一方でジュンは不器用だから、ずっとアナログでしか生きなくて、アナログしか聴いてない。前半も車の中でテープで聴くんですよ、CDじゃなくて。ただ、時が経つとスマホで聴くようになっているという演出をした記憶があって。

チア部:ジュンが高校生で転校してきたばかりの時に部室の中でレコードで聴いていた時にどこから持ってきたんだろうとすごく不思議に思っていました。

宮崎監督:なんかね、住宅街とかの路上に「100円でどれか好きなものを持っていってください」みたいな中古品コーナーがなぜかあるのわかりますか?ガレージセールなのか、レコードとか文庫とか、よくわからないプラモデルとかが置いてあるんですけど、そういうイメージです。


©︎2023 Nagoya University of Arts and Sciences


チア部:次に『PLASTIC』というタイトルについてお伺いします。作品内でもPLASTICという言葉についての説明が何度か出てきたと思うのですが、この映画のタイトルを最終的に『PLASTIC』に決めた理由について教えてください。

宮崎監督:定まらないものが僕はすごく好きで、自分自身もそうですし、なるべく定まりたくない、固まりたくないなっていう意思が強いから、PLASTICの元々の意味である可塑的な、決まらない、ふにゃふにゃしてるっていう…フレキシブルともちょっと違うし、エラスティックともちょっと違ってPLASTICっていう定まらない答えの出ない感じのキャラクターたちと、映画自体も答えが出ないっていうイメージがあったので、それが第一の理由です。

あとは僕らの生きている時代が、偽物とまがいものとコピーとしかない、本物がないというPLASTICな時代だっていう現状認識がすごく強いんですよ。心斎橋とかに行ったら目に入るもの全部がPLASTICだと思うし…テナント店やお土産屋、みんなが着ている服も鞄もPLASTICだと思うし…PLASTICにまみれた世界で生きていかなきゃいけないっていう、悲しみと同時に永遠性みたいなものを感じたりするんですよね。自分が死んでもこのレコードは天災でも起きない限り消えない、自分が死んでも消えないもの、身近なところに永遠があるってちょっと面白いなっていう感覚からPLASTICに。あと響きがすごい好きです。「次の映画何やるの?」「PLASTICです」っていうのが好きです(笑)


チア部:この映画の制作を経て、監督にとってエクスネ・ケディというアーティストはどんな存在ですか?

宮崎監督:井手健介と母船名義で「Contact From Exne Kedy And The Poltergeists」っていうアルバムが2020年に出たんですけど、それをめっちゃ聴いてて好きで。なんでこんなに良いんだろうって思ったら、石原洋さんっていうゆらゆら帝国とかBORISとかOGRE YOU ASSHOLEとか僕の好きなバンドをプロデュースした人がプロデューサーとして入っていたんですよね。石原さんが入ることで何か劇的な変化が起きて、井手さんの世界がすごく広まったと思うんです。坂本慎太郎さん(音楽プロデューサー、元ゆらゆら帝国のボーカル)とはまた違うラインでサイケグラムを極めるっていうか。

この映画を作るってなって、井手さんと台本から一緒に作って、意見交換をして、当然音の仕上げもみんなで作るっていうプロセスを経て、めちゃ良い経験になりました。実は、去年の正月に出した『ヤマト探偵日記 マドカとマホロ』(2022)でも井手さんの曲を使っていて。20年後に振り返って宮崎の「エクスネ期」があるとするならば、今がそれじゃないかなって思ってるくらい、好きです。ジム・ジャームッシュの影響で割と1作ごとにアーティストを変えるのが好きなんですけど、しばらくエクスネ・ケディとやりたいし、またエクスネ・ケディに遭遇したいですね。


チア部:もしも5万年後に返事が返ってくるとしたら、監督はどんなメッセージを送りますか?

宮崎監督:僕はね、自分の映画がメッセージです。地球が爆発して、自分の映画がデジタル信号として世界に宇宙に飛び散っていって、それを宇宙人がキャッチして観てくれるなら、たどり着きさえすれば返事が返ってこなくてもいいって思っています。

自分の映画作りに関しては、映画の中でジュンが言っていることがすべてなんですよ。どこに届くかもわからないし、届くかもわからないけど、もし届いてくれたら本当に嬉しい。音楽とか文学とかとは違って、映画っていろんな人の手やお金がかかってできているからそんな届くか届かないかわからないことにお金や時間を使えて恵まれているっていつも思います。だからすごく意外な人が自分の映画を観てくれると最高に嬉しくて。2万5千年後や5万年後とは言わずとも、毎回結構そういう不思議な出会いがあって、思いも寄らないところに映画が届くっていう経験があるから、映画作りを続けられているなって思ってます。

『夜が終わる場所』(2011)は、東欧のとある山村に行った時に、そこに暮らしているおばあさんが観てすごく良かったって言ってくれて。映画祭にかかっていてそれで観てくれたみたいで。

『大和(カリフォルニア)』(2016)っていう自分の地元で撮った映画は、それを観てくれたインドネシアに住んでいる18歳のイスラム教徒の子が女性の権利について考えるきっかけになったみたいで、その後政治団体を作ったらしいんですよ。後から連絡が来ました。

そんなふうに、思いも寄らないところに届いてくれる。だから続けられているっていうわけではないけど、届いたら嬉しい。作品以外は、ツイートも日記も普段言ってることも、何にも届かなくて良いです(笑)。期待しないでください。僕は作品がすべてです。

チア部:インドネシアでそんな現象が起きたんですね!

宮崎監督:はい、インドネシアの島でそんなことが。あれは面白かったですね。招待されて行って、シネコンでの上映だったんですけど。上映前に映写技師の方が来て、火山が爆発しちゃってDCPが届かなかったから、YouTube上映でも良いですか?って。シネコンでYouTube上映するの!?みたいになって(笑)。先に言ってくれたらブルーレイかなんかで持ってきたのに!みたいな。でもその時に観た子が、政治団体を組成したと。感動的ですよね。Q&Aで最初に質問してくれたフランスからの観光客の方が、なんでこんなに画質が悪いのかって聞いてきて(笑)。火山が爆発しちゃって仕方なくYouTube上映になったんですって、なぜか僕が説明するという(笑)。


ここまで読んでいただきありがとうございました🌟
続く【後半】では監督が学生時代に見て影響を受けた映画作品についてや、
学生に見てほしいおすすめの映画についてたっぷりと語っていただきました!
こちらもぜひご覧ください!!


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