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『PLASTIC』宮崎大祐監督インタビュー【後編】

【前編】はこちら🔽

【後編】では監督が学生時代に見て影響を受けた作品や、いまの学生に見てほしいおすすめの映画についてたっぷりと語っていただきました!
最後まで必見です💭


(聞き手:さや)

チア部:監督が学生時代に見て影響を受けた作品は何ですか?

宮崎監督:やっぱりレオス・カラックスの『ポーラX』(1999)とか『ポンヌフの恋人』(1991)はすごく好きですね。あとは井土紀州っていう監督のソフトとかが出てないから見られないですけど、『百年の絶唱』(1998)という8ミリの映画があって、それがすごく好きです。あとは青山真治監督の『EUREKA』(2001)ですかね。結構シネフィルっぽい(笑)

チア部:それぞれの作品のどのようなところが好きですか?

宮崎監督:『ポーラX』は今に至るまである種僕の思想とつながっています。物語とか意味とか予定された感動とか、わかりやすさみたいなものからすごく離れていきたいというのがあって…それは音楽もそうなんですよね。だから当時そういう(今回エクスネのプロデューサーをやっている)石原さんのサイケとか聴いていたところもあると思うんですけど、わかりやすいものがそんなに好きじゃないというか…わかりやすいものを楽しむ自分もあるけど、わかりづらいことも存在していいんだということを見せたいとずっと思っていて。『ポーラX』はすごく長い映画なんですけど、大学の映画サークルの友達二人と見に行きました。彼らは「今年ワースト映画だ」って言ってたけど、僕は「全然意味わかんないけど最高だ」って思ったんですよね。「全然意味わかんないけど最高だ」っていう感想こそが僕は映画が到達できる最大の褒め言葉だと思っていて、それを目指して自分も制作してきたし、『ポーラX』はそういうものの最たる例というか…いまだに構成とか構造とか、あの映画が35ミリから後半16ミリになって色味が抜けてくとことかも多分『PLASTIC』は影響を受けています。
『ポンヌフの恋人』はわかりやすいし…ラブストーリー的なものもあるから、『ポーラX』よりはわかりやすいですけど『ポンヌフの恋人』くらいにまで自分も社会を許容できたらというか、物語を許容できたらとは思うんですけど。

『百年の絶唱』はマジで意味がわからなくて、7〜8年前に上映会があった時に井土紀州監督に「この中で一番この映画をわかっているのはお前だから、みんなに解説してくれ」って上映後に言われて、解説させられたんですよ(笑)シーンごとに。特攻隊長みたいな謎の肩書きがあって、僕は「多分日本で一番ファンだ」みたいなことを監督から認定されていて(笑)で、監督の前でみんなに僭越ながら説明させていただきました(笑)監督も拍手くれたんですよ、「よくわかった!」って(笑)それぐらい好きで。
あれも本当に意味がわからなくて、中盤ですごい話がバンって飛ぶし、僕がすごく好きな、実は準メンバーなんですけどファンカデリックっていうバンドがあって、中盤にエディ・ヘイゼルっていう人のギターソロが入るから多分上映できないんですよ、権利が取れなくて。そのエディ・ヘイゼルのギターの音色を聴いた時にカッコ良すぎると思って、劇場に「あの音楽なんなんですか?」って問い合わせたら、「わかんないです」って言われて、大学に行かないで新宿のタワレコで音楽を毎日ひたすら視聴してたんですよ。そこであのエディ・ヘイゼルのギターにぶち当たった時の奇跡というか、「すごすぎる!僕が最高に好きな映画のわかんなかった曲がたまたま新宿タワレコで聴けた!」っていう喜びを信じがたくて、その日は走って家に帰りました。そんな感じで『百年の絶唱』も本当に意味がわからないですけど、僕にとって最高の映画経験で。なんかわからないですけど、とにかくすごいんです。

『EUREKA』は当時あんな長い映画見たくないなと思っていたんですけど、すごかったですね。娯楽としてもアートとしてもすごいし、シネフィル的なものと音楽的なものと思想的なものとかいろんなものが安易には言語化できないけど映画でしか体験できない何かにたどり着いている気がして…。一つの僕の目標として存在していて。毎回映画撮影のクランクインをする前に『EUREKA』を見てクランクインするようにしていました。それくらいなんて言っていいかわからないけどすごい。最後の曲のユリイカが流れるまでゾッとするような時間が続くのがすごい。

この4本が決定的に自分に映画を作りたいなと思わせてくれたというか。この意味不明さが自分は果たして編み出せるんだろうかと思ったことがあります。でも結局音楽にしろ文学にしろ思想にしろ、僕が強く影響を受けたものってその頃心酔していた映画監督たちが好きだったものが降りてきている感じだから、若い子にこの本読んでとかこの映画見てっていうと大体みんな「意味わかんない」で終わっちゃうんですけど(笑)すごく影響は強くて、マジでいい時代だったんですよね。

友達とアメリカの監督ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』(1999)が出て上映時間が3時間ぐらいあって誰もきてくれなかったみたいなんで、友達と二人で行って、『マグノリア』見て僕はすごい「よかった!」と言ってテンション上がっちゃって「もっと映画見たくなっちゃったね」とか3時間見た後に言って。友達は「もういいかな、意味わかんなかった」って言って帰っちゃって、その後一人で新宿をぶらぶらしていたら、地下に向けて入り口が開いていたんです。誘われているような気がして近づいていったらそこがテアトル新宿で。何やっているのかなと思って降りていったら、ダンボールが置いてあって、なんだろうと思ってみたら白い台本が中に入っていて、手に取ってみたら『カリスマ』(1999)っていう表紙が書いてあって、そのバイトのお兄さんに「これ何の映画なんですか?」って聞いたら「黒沢清っていう監督の作品で」って。全然人が入ってなかったんで、テンション上がっているからそのまま「よし見よう!」ってなって、初めて黒沢清さんの作品に触れて、その名を知ったという体験もあります。別にドラマチックにしているわけではなく、導かれていることが多いような青春時代でした。

その劇場でそのあと、『EUREKA』をやるってなって、その一連の流れに遭遇したら映画をやらないわけにはいかないとなって。何度も挫けそうになりましたがどうにか今までやってきています。

チア部:大学は映画関係の学部ではなかったとのことですが…

宮崎監督:はい、全然違います。ロシア経済学専攻だった(笑)当時はマルクス主義的なことが専攻で、全然意味がわからなかったので離脱しました。でも1990年代後半はテレビが強い時代だったんですよ、だから大学にはテレビの仕事がしたくて入ったんですよね。別に政治とか経済の勉強がしたかったわけじゃないんですけど。ただ今思うとすごい勉強にはなりました。政治とか経済の要素って自分の映画にすごい入ってくるし、うちの学校は図書館がすごかったから、図書館でひたすら本読んでひたすらDVDとかレーザーディスクを見るっていう…レーザーディスクって死語ですけど、『電柱小僧の冒険』(1987)とかはレーザーディスクしか出てなかったの知ってます?あの作品をレーザーディスクで見て、塚本晋也すげえってなったのが学生時代でした。塚本晋也の『鉄男』はよかったし、先輩が海獣シアターとかthere‘s(ゼアリズ)でバイトし始めた時はすごく羨ましいなと思って。僕、塚本さんの『鉄男』のTシャツ着て、革ジャン着て、夏でも大学に行ってたので(笑)ノイズロックとかBLANKEY JET CITYとか聴いて、『鉄男』見て、革ジャン着て、夏でも授業中サングラスしてるっていうやばい学生だったんです(笑)ロン毛の金髪で(笑)


チア部:今の学生に見てほしいオススメの映画はありますか?

宮崎監督:実は最近遭遇しちゃったんですよ(笑)もうね、ブルーレイも最近買ってほぼ毎日見ているんですけど、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)っていう作品を見てほしいです。続編の『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)がちょうど公開するところなんですけど。あれはね…やばい(笑)アニメで、評判もめちゃくちゃすごいです。僕はアニメが苦手で、有名なやつは一応大体見るんですけど、そんなに自分から見ない人でもびっくりするぐらい『スパイダーバース』はすごい。多分めちゃくちゃ映画オタクの人が作っているアニメなんで、もう映画的シネフィル表現ばっかりなんですけど、素晴らしいなと思って。

この1、2年コロナが境なのか、映画がただの映画としては生きていけなくなって、みんながスマホの画面でYouTube見て、Netflixをスマホで見るっていうメディアが混じってきちゃっている時代なんで、そういう時代に映画に何ができるかなっていうのはすごく考えます。スマホで見る今の子達が楽しめる映画って何かなって考えた中で、『スパイダーバース』はすごいなっていう風に思いますね。非常に感動しました。最初から最後まで凄すぎて立って見ました(笑)あるんですよ、そういう映画。『ターミネーター2』(1991)もテレビでやっていてちょっと見ると、凄すぎて最後まで立ったまま見続けちゃう(笑)すごい映画は立って見る(笑)

『ボーンズ アンド オール』(2022)っていう映画もめっちゃよかったです。マスコミの試写会だったんですけど、終わった後ひとりだけ拍手してました(笑)素晴らしすぎて拍手してました(笑)あと『ノースマン 導かれし復讐者』(2022)もよかったですね。これも試写会で終わった後ひとりだけスタンディングオベーションしてました(笑)白い目で見られましたけど(笑)あれはめちゃくちゃ良かった。「ハムレット」の元が原作のインディーズ映画で90億円の制作費をかけてってすごいでしょ。

あとアニーシュ・チャガンティっていう監督の『RUN/ラン』とか『search/#サーチ2』(原題:Missing)(2023)かな。インド系のアメリカ人なんですけど、その監督がパソコンの中だけで完結する映画とかを作っていて、面白いですよね。チャガンティとかM・ナイト・シャマランとかインド系のアメリカ人の監督とフィーリングが合うというか。各カット割「そうだよね」「そこそこ!」みたいな感じになります。だからシャマランとチャガンティを目指していきたいなって最近は思っています。シャマランは好きですか?

チア部:あんまり見たことがなくて…

宮崎監督:シャマランね、『シックス・センス』(1999)が見やすいですけど、一番多分いいのは『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006)。あと僕が飛行機の中で4回くらい号泣したのは『アンブレイカブル』(2000)という映画の続編の『ミスター・ガラス』(2019)っていう作品で、自主映画でヒーロー戦隊をやっているんですけど、傑作すぎて飛行機の中で号泣して、それもDVDを買いました。

『レディ・イン・ザ・ウォーター』も『ミスター・ガラス』もみんなに勧めるんですけど、みんなに「そんなに良い?」みたいなこと言われて(笑)ちょっとでもそういうところを大事にしたいです。自分だけが良いと思えるものを大事にしたいです。『スパイダーバース』は僕の生涯ベストワンかもしれないです。

あとあれもよかったですね。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)っていう映画があってスウェーデンのリューベン・オストルンドって監督の今年に『逆転のトライアングル』(原題:Triangle of Sadness)(2023)っていうタイトルで出た作品の一つ前の『ザ・スクエア』っていうのがこの10年で一番面白いんじゃないかな。大好きですね。Netflixで見られるんですけど、全カット最高でした。現代美術家のキュレーターの話で。そういうスノッビーな映画は若い子で嫌いな子が多いと思うんですけど、僕はすごく好きでした。たった2時間半です(笑)毎年僕の授業で見せます。

『フレンチアルプスで起きたこと』(2014)も大傑作です。家族でフレンチアルプス行ったら雪崩が起きちゃって、お父さんだけ逃げちゃうんですよ。で家族と気まずくなったっていう映画なんですけど、すごく面白いです。

僕は授業でアメリカン・インディペンデント映画についてグッチーズの参考書を使ってやっているので、見るのはアメリカン・インディーズが多いですね。今一番はアメリカン・インディーズじゃないですか。A24全部良いとは言わないですけど、良いのは多いですよね。ケリー・ライカートでは『ウェンディ&ルーシー』(2008)が一番好きです、オススメです。今言った映画はどれも絶対面白いと思います。

チア部:私も見てみます。

宮崎監督:ぜひぜひ。映画にハマっちゃうと思いますよ(笑)でも本当に若い方々が映画を見ているってだけでもありがたいですね。全然周りの子が映画を見ている体感がなかったんで…「映画とか見にいく?」って地元の若い子たちに聞くと「いやぁ、映画はやっぱ週末にスーパー銭湯のモニターで見ます」みたいなこと言われて、「あぁ、そうだよね、シネコン遠いもんね」って言って。そういうノリなんですよ。家系ラーメン食べながらスマホでネット・ドラマ見てるみたいな。だからスマホのサイズで考えなきゃいけないのかって…。

チア部:近くにミニシアターも無いんですか?

宮崎監督:ミニシアターはね、厚木に「あつぎのえいがかんkiki」というところがあるんですけど、相模川という川を渡らないといけなくて。川を渡るのをみんな嫌がるんですよ、町から出たく無いから。元々はシネコンがあったんですけどつぶれちゃって…。みんなに映画見てくれっていうのもなかなか…自分自身も言われてみればそんなに見ないなぁと思うし…。僕の代でそれなんで、皆さんの代の方は映画はどうなんだろうと思いつつ…。

チア部:そうですね…なかなか難しい問題です。
では最後に、これから『PLASTIC』を見る方へ向けてメッセージをお願いします。

宮崎監督:共感してもらえる映画かもしれないし、一方で若干暗い気持ち、どうしたら良いんだろうという気持ちになってしまう映画かもしれないんですけど、そういう色んな解釈とか受け取り方を与えてくれる映画を僕はずっと好きで、映画にしかそれが出来ないと思っていて。この作品もそういう映画だと思うので「良かった」「感動した」「へこんだ」「不快だった」等なんでも良いですけど、それは多分いずれも正解で。それぞれの受け取り方をして楽しんでいただけたらと思います!

チア部:ありがとうございました。


シネ・リーブル梅田前にて宮崎監督のお写真を撮らせていただきました!

映画『PLASTIC』は大阪シネ・リーブル梅田にて7月21日(金)公開です!!
ぜひ劇場でご覧ください!!

また、宮崎監督の映画『#ミトヤマネ』が今年の初秋に公開予定です🌟
今後映画チア部大阪支部でもご紹介したいと思いますので、こちらも合わせて要チェックです👀


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