映画を観る海月

海月です。古今東西できるだけ広い種類の映画を観て感想を呟きます。

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『ドライブ・マイ・カー』私たちは相手の何を、どう理解すれば良いのか <★4.7/5、2022年4本目>

<映画情報> 『ドライブ・マイ・カー』2021年 監督: 濱口 竜介 <1文内容紹介> 妻を亡くした夫、母を亡くした娘、たとえ傷ついても相手に向き合い生きていく <ネタバレ感想> 3時間ある映画を3回観たが飽きずに違った楽しみ方ができる、これだけでもこの映画が持つ力強さが伝わるだろう。 家福の喪失 本作の主人公家福は演出家である。彼の劇は多言語劇で、各役者が異なる言語で台詞を話す。だから練習では徹底した読み合わせがなされ、自分のみならず相手の台詞を頭に入れることが求

    • 『パリ、テキサス』過去に向き合う終わりなき旅が未来をもたらす<★4.0/5、2022年12本目>

      <映画情報> 『パリ、テキサス』1984年 監督: ヴィム・ヴェンダース <1文内容紹介> 妻子と別れた男が、過去の自分に向き合い息子の未来をつくる <ネタバレ感想> 荒野を一人歩く男、トラヴィスからこの映画は始まる。彼が歩く目的はわからないが、行き倒れになったことでロサンゼルスに住む弟と連絡がつき、迎えがやってくる。 弟にすら目的を言わない、いや言えないトラヴィス。彼にはかつて家族があったが、崩壊してしまい心に深く傷を負ってしまった。 妻ジェーンの行方は知れないが

      • 『人斬り』目的なき行動の末路<★3.6/5、2022年11本目>

        <映画情報> 『人斬り』1969年 監督: 五社英雄 <1文内容紹介> 「先生」に唆された以蔵は、目的を説明できないまま人斬りを繰り返す <ネタバレ感想> 三島由紀夫が映画に出ていると聞いて早速鑑賞してみた。 「先生」である土佐勤王党の武市半平太に唆されるままに殺戮を繰り返す岡田以蔵が、思慮のない行動を繰り返したために疎まれ、逆上して自立を試みるも失敗、最後は覚悟を決めて罪を自白することでやっと「先生」と訣別する。 自分で目的を考えることなく行動すると、いかに実力が

        • 『Go!Go!チアーズ』 ミイラ取りがミイラになる<★3.8/5、2022年10本目>

          <映画情報> 『Go!Go!チアーズ』 "But I'm a Cheerleader" 1999年 監督: ジェイミー・バビット <1文内容紹介> 自覚がないまま同性愛矯正施設に送られたメーガンは、自分のセクシュアリティを自覚する <ネタバレ感想> これも日本では劇場未公開の作品。 メーガンはチアリーディング部に所属する女子高生、キスが下手な彼氏もいて順風満帆な生活を送っていた…と思っていたのは彼女だけで、周りはメーガンがレズビアンなのではないかと疑っていた。 決定

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        『ドライブ・マイ・カー』私たちは相手の何を、どう理解すれば良いのか <★4.7/5、2022年4本目>

          "To Sleep with Anger" 招かざる客は家族の不和を増幅する<★3.7/5、2022年9本目>

          <映画情報> "To Sleep with Anger" 『トゥー・スリープ・ウィズ・アンガー』 1990年 監督: チャールズ・バーネット <1文内容紹介> 招き入れた客は、見て見ぬ振りをしてきた家庭の不和を増幅させ、招かざる客となる <ネタバレ感想> 二日連続の更新になるが、日本で公開されていない映画を観る機会があったので、記録を残しておきたいと思う。 ギデオンは2人の息子を育て上げ、今は妻スージーと暮らしている。もう何年も会っていなかった古くからの友人、ハリーが

          "To Sleep with Anger" 招かざる客は家族の不和を増幅する<★3.7/5、2022年9本目>

          『ボウリング・フォー・コロンバイン』なぜアメリカでは銃を持って殺し合うのか<★3.8/5、2022年8本目>

          <映画情報> 『ボウリング・フォー・コロンバイン』2002年 監督: マイケル・ムーア <1文内容紹介> なぜアメリカでは銃を持って殺し合うのか <ネタバレ感想> 今回はドキュメンタリー映画なので、感想だけを記す。 まず面白かったのが映画の焦点の当て方。高校での銃乱射のような大事件だと、事件そのもの、特に加害者や被害者に焦点を当てた作品になりがちである。だが、本作品は事件を生み出したアメリカ社会そのものに「なぜ?」を問いかける。そこがまず他の多くのドキュメンタリー作品

          『ボウリング・フォー・コロンバイン』なぜアメリカでは銃を持って殺し合うのか<★3.8/5、2022年8本目>

          『クレールの膝』中年男性の一夏の恋<★3.6/5、2022年7本目>

          <タイトル> 『クレールの膝』中年男性の一夏の恋<★3.6/5、2022年7本目> <映画情報> 『クレールの膝』1970年 監督: エリック・ロメール <1文内容紹介> 中年男性の一夏の恋 <ネタバレ感想> あらすじ 外交官ジェロームは独身最後のヴァカンスを過ごすためにアヌシー湖にやってきた。町を散策していると、偶然に古くからの友人オーロラに会う。作家である彼女もまたこの町にバカンスで滞在していたのだ。 オーロラが部屋を借りたのは、異父姉妹ローラとクレールを持つ

          『クレールの膝』中年男性の一夏の恋<★3.6/5、2022年7本目>

          『ライフ・イズ・ミラクル』人生の偶然を掴み取る <★3.6/5、2022年6本目>

          <映画情報> 『ライフ・イズ・ミラクル (Life Is a Miracle)』2004年 監督: エミール・クストリッツァ <1文内容紹介> スポーツ、戦争、恋愛、偶然がもたらす選択肢から選び取って人生を歩んでいく。 <ネタバレ感想> あらすじ セルビア人鉄道技師ルカは、オペラ歌手の妻ヤドランカのアレルギー治療と鉄道敷設のために、サッカー選手を目指す息子ミロシュと田舎にやってきた。 ミロシュは試合で活躍し、無事にサッカークラブからのオファーを受けるが、徴兵され捕虜

          『ライフ・イズ・ミラクル』人生の偶然を掴み取る <★3.6/5、2022年6本目>

          『トリコロール/青の愛』愛する人の死を忘れるのではなく、向き合うことで乗り越える <★3.7/5、2022年5本目>

          <映画情報> 『トリコロール/青の愛』1993年 監督: クシシュトフ・キェシロフスキ <1文内容紹介> 作曲家の夫パトリスを亡くしたジュリーが、彼の人生に向き合うことで死を乗り越える <ネタバレ感想> 愛する家族の死 主人公ジュリー、有名な作曲家の夫パトリス、娘のアンナの乗った車が事故に遭う。生き残ったのはジュリーただ一人だった。 この冒頭のシーンが過剰に芸術的に描かれている。ジュリーの瞳を大写しし、そこに話し相手の姿を写し込む。瞳に反射するのは、病床に臥すジュリ

          『トリコロール/青の愛』愛する人の死を忘れるのではなく、向き合うことで乗り越える <★3.7/5、2022年5本目>

          『Flee』 自分を偽ることで命を守り、自分に向き合うことで心を守る <★3.6/5、2022年3本目>

          <映画情報> 『Flee』2021年 監督: ジョナス・ポエール・ラスムーセン <1文内容紹介> 生き抜くために自分を偽り続ければならなかったアフガン難民アミンが、半生を振り返りつつ自分を取り戻すアニメ映画。 <ネタバレ感想> 主人公アミンは比較的裕福な家庭に生まれたが、1979年にアフガニスタンに共産党政権が成立すると父は逮捕され、さらにその後タリバンが勢力を伸ばしたことで、家族でカブールを脱出する。これが彼の長い難民生活の始まりであった。 アミン一家はモスクワにた

          『Flee』 自分を偽ることで命を守り、自分に向き合うことで心を守る <★3.6/5、2022年3本目>

          『アンダーグラウンド』 非日常が日常になる戦争、だがそこに悲壮感はなく狂乱が全てを爽快な舞台にする <2022年2本目、★3.9/5>

          映画情報: 『アンダーグラウンド』1995年 監督: エミール・クストリッツァ 1文内容紹介: 戦争に翻弄される3人の運命を、バルカン・ブラスの軽快な音で描く1995年パルムドール受賞作。 ネタバレ感想: クロはドイツ軍に抵抗する組織を同志マルコと共に率いている。酒も喧嘩も強い。ドイツ軍の攻勢が日に日に強まる中、浮気相手の女優ナタリアをドイツ軍将校フリッツに籠絡されたことに怒ったクロは、彼女の舞台に乱入して奪い取るという大胆な行動に出る。しかし、その行動がドイツ軍の反撃

          『アンダーグラウンド』 非日常が日常になる戦争、だがそこに悲壮感はなく狂乱が全てを爽快な舞台にする <2022年2本目、★3.9/5>

          『浮草』 親の心子知らず 、それでも子は親を乗り越えていく<2022年1本目、 ★3.8/5>

          映画情報: 『浮草』1959年 監督: 小津安二郎 1文内容紹介: ある町にやってきた旅劇団一座の人間ドラマ。 ネタバレ感想: 子供には立派に育って欲しいと考えない親はいないだろう。だが、その親心が子供とのすれ違いを生んでしまう。 主人公である嵐駒十郎は親方として旅劇団を率いている。劇団は方々の劇場を旅して巡り、映画冒頭の港にやってきた。団員は同じ釜の飯を食う家族とも言える存在だ。駒十郎も団員を大切にしており、厳しくも慕われる劇団の父である。 駒十郎がこの港にやって

          『浮草』 親の心子知らず 、それでも子は親を乗り越えていく<2022年1本目、 ★3.8/5>