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追悼・ウィリアム・フリードキン監督

ウィリアム・フリードキン監督が亡くなった


こんにちは、入江悠です。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。

先週、ウィリアム・フリードキン監督が亡くなりました。
『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』『恐怖の報酬』などの傑作を撮ったアメリカの映画監督です。

数年前にどうしてもフリードキン監督の演出術を知りたくて、自伝を読んだことがありました。
「THE FRIEDKIN CONNECTION~A MEMOIR」という洋書です。
残念ながら日本語訳は出ていません。

Amazonで注文して、アメリカから届くのをワクワクしながら待ちました。
広辞苑並みに重たいハードカバーを毎日家の近くの喫茶店に持ち込んで、辞書をひきながら読みました。
京都で初めての時代劇ドラマ『ふたがしら』を撮った後の頃でした。
あまりに毎日通ったので、喫茶店の店員さんが雨が降ると傘を貸してくれるようになりました。

少し長いですが、わたしが当時書いた読書日記を引用します。
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ウィリアム・フリードキン監督の自伝(日本語未訳)を読む

フリードキン監督の自伝「THE FRIEDKIN CONNECTION~A MEMOIR」

ウィリアム・フリードキン監督の自伝「THE FRIEDKIN CONNECTION~A MEMOIR」をようやく読み終わった。
1日に1ページか2ページ。
自分の映画の撮影が入っている時や忙しい時は読書を中断して、足かけ1年半かかった。(『ふたがしら』や『太陽』などの撮影で中断した)。
これまでの僕の人生でもっとも時間をかけた読書かもしれない。

なぜそんなにかかったかというと、英語の原書だったから。
(残念ながら、日本語訳が出版されていない)。
かなり分厚いので最初は英文にためらったけど、どうしても『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』といった有名作の制作秘話や、フリードキン監督のフィルモグラフィの形成について知りたかったので、わからない単語についてはひとつずつ辞書を引きながら読み進めた。
なので、めちゃ時間がかかった。
英語力の無さを十分すぎるほど実感した。
その分、読み終わった時の達成感はこの数年でもっとも大きく、ひとつの長編映画を作り終えた時くらいの充実があったかもしれない。
読み進めた箇所は、ページに日付を書いて忘れないようにしておいた。

結論からいうと、本はとても面白かった。
予想を遥かに超えて刺激的だった。
アメリカを代表する映画監督の半生の自伝としても面白いし、移民の子として育った少年がドキュメンタリーのディレクターからハリウッドの映画監督にのしあがっていく成り上がりストーリーとしても面白い。

『フレンチ・コネクション』でのゲリラ撮影や、『エクソシスト』におけるイラクでの撮影秘話などは裏舞台も赤裸々に書いているので「そんなことがあったのか!」と驚きながら読める。
さらに、「あの映画では某俳優にオファーしようとしたがあっさり断られた」とか、「あいつはダメだったので現場でクビにした」とか、「アルパチーノが勝手に髪の毛を短く切ってきて、伸びるのを待つためにしかたなく撮影を延期した」などと、今の映画本だったら書けないようなキャスティング・スタッフィングの秘話も容赦なく書かれている。

映画宣伝時にもいろいろトラブルがあったらしく、「どこどこに訴えられた」とか、「ドイツの新聞は二度と取材を受けたくない」とか、思わず笑ってしまいたくなる子供っぽい愚痴も書かれている。
なにより僕がグッときたのは、インディペンデントの作家としてキャリアをスタートさせ、一時期はハリウッドの人気監督になったフリードキンが、メジャースタジオから次第に距離を取っていき、後期はまた小規模なインディペンデントな制作に戻っていくところ。

老いていくひとりの作家が、自分の「老い」と「遠ざかっていく流行」を見つめる視点には、普遍的な哀しみと諦観がこめられ、とても味わい深い。
名言も連発されている。

A life in film is like a long train ride.
Sometimes it's fast, othertimes slow.
People get on, others get off, and a few ride with you forever.
The thing is, you don't know where it starts or when it will end.

(映画の人生は長い列車の旅のようです。
時には速く、時には遅く。
人々が乗りこみ、他の人が降りていき、ほんの少人数がずっとあなたと一緒に乗り続けます。
大事なのは、それがどこで始まり、いつ終わるのかはわからないということです。)

長いキャリアを映画とともに過ごしてきた方だけに言える言葉。
現在の娯楽映画に愛憎なかばするフリードキンの言葉にもグッとくる。
脚本家やプロデューサーにもぜひ読んで欲しいところです。

The heros of today's films are super-heros.
The villains are super-bad.
The world explodes every day on a movie screen.
After total destruction and annihilation, what's left?

(今日の映画のヒーローはみなスーパーヒーローです。
悪役は超悪党です。
映画のスクリーンの中では世界が毎日爆発しています。
完全な破壊と壊滅のあとに、いったい何が残るのでしょうか?)

いま、日本の出版業界では映画本を出すのが難しいとよく言われるけど、この本はぜひ日本語版を出版して欲しい。
歴史に名を残す一人の映画監督が書いた制作裏話、映画演出論、アメリカの戦後映画史として、とても価値があると思う。
映画の世界に関わる者には勉強になるし、バックステージ物としても刺激的。
また一般の方々にも、「成り上がりもの」「ショービジネスもの」「芸術と作家」など、さまざまな切り口から十分興味深く読めるはず。
この読後の興奮をぜひたくさんの方に味わって欲しいので、ぜひどちらかの出版社の方、日本語版をなんとかよろしくお願いします。
僕でよければ、いつでも翻訳します(単語もすべて調べ済み)。

いやー、それにしても、フリードキン監督。
反骨精神と貪欲さとインディペンデントスピリッツ、本当に見習いたい。

2015年11月15日記
入江悠
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