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「恋妻家宮本」鑑賞記録

「結婚できない男」で何やら阿部寛への興味関心が湧き上がってきたので、ひとまずNETFLIXにある他の作品を観てみようと思った。個人的に以前から少し気になっていたのもあり、天海祐希さんとの共演というのもあり、まずは本作を選んで観てみた。

原作は重松清大先生の「ファミレス」ということで。あれ、もしかして大昔に私読んだかも…?と思いながら、でも話を全然覚えてなかったので非常に新鮮な気持ちで楽しませて頂きました。

大学時代に出会い、できちゃった婚で始まった夫婦生活。早いもので一人息子は遠くへ巣立ち、子育てにもひと段落がついて、いざ2人きりの生活が始まるぞ、という頃。夫の陽平はしがない中学教師で、とても優柔不断。妻の美代子は明るくきっぱりした性格。対照的な二人だけれどとてもお似合い。でもある日、陽平は美代子が書いた離婚届を2人にとって思い出の品である志賀直哉の「暗夜行路」の中に見つけてしまう。

熟年離婚の危機に陽平はどう立ち向かうのか。大体はそんな感じなんだけれど、やはり原作が重松先生なのでね、それだけでは終わりません。夫婦の問題、親子の問題が宮本夫妻を超えて描かれてる。はたまた、陽平は中学校教師なので、教師と生徒のあり方についても描かれている。とっても広いのに、ちゃんと深みにまで下りてきて語り掛けてくれる言葉がある。その言葉の説得力は勿論言葉そのものの力もあるけれど、やはり阿部さんという存在が更に力強くしてくれているのだろうと。

映画の中で、陽平は何度も悩む。様々な選択において悩む。それは正しい選択をしたいから。でもその正しさは果たして誰にとっての正しさなのか。自分にとって正しいことが相手にとっては正しくないかもしれないとしたら、相手のために正しい選択をすることは本当にその人のためなのだろうか。

たとえ正しくなくても、優しい選択を、選ぶことができたなら。本当にその人のためを思った選択ならば、たとえ間違っていても、いいのではないか。

こんな風に重みを持たせながらも、かなりコメディタッチなのがこの映画の面白いところかな。最初原作はきっと漫画だなと思うぐらいコミカルな映像があり、個人的には楽しかった。

あと、重要なポイントとして、音楽を挙げたい。吉田拓郎の「今日までそして明日から」という曲が使われている。私は吉田拓郎の曲を殆ど知らないが、この曲は聞き覚えがあった。でも、歌詞はよく知らなくて、この映画を機にじっくり聴いてみたら、吉田拓郎の他の曲も是非聴きたくなってしまった。また吉田拓郎について語るnoteも書けるぐらい、色々聴いてみようかな。

ひとまず「今日までそして明日から」でびびっとなった部分について紹介してみよう。イントロから突然入る「私は今日まで生きてみました」という歌詞だけでもぐぐっと引き込まれるものを感じるが、その他の歌詞でこんなのがある。

私には私の生き方がある それは恐らく自分というものを 知るところから始まるものでしょう けれどそれにしたって どこでどう変わってしまうか そうです 分からないまま生きていく 明日からのそんな私です

物凄く等身大な歌詞だなと思った。教訓じみた曲も話も多い時代、こんな風に一緒に悩んだり、分からないとぼやいてくれる曲と出会えた喜びよ…そして何よりこのメロディだろうな、不思議なくらいスッと、言葉と一緒にしみこむ。

ああ、この人もまた優しい、と思えるのは”正しいかどうか”というところに判断基準を置いていないからかな。この歌は迷う人々に”正しい”言葉をかけて正しくあれるように導く歌ではない。迷う人々に”優しい”言葉をかける歌だ。それが果たして正しいことなのか、歌う内容が正しいことなのかは重要ではない。拓郎さん自身は単に自分のことをぽつりぽつりと歌ったつもりなのかもしれない。でもそこには正しいというおごりや自信はなくて、ただありのままにいる、その姿が本当に魅力的で、そうやっていてくれることが優しいと思える。

ううん、映画から脱線して拓郎さんの話をしてしまった。多分この話は私が敬愛するミュージシャンに共通している点のような気がして、どんどん派生して語れそうなので、この辺でやめておこう。

「恋妻家宮本」は、夫婦の恋愛模様だけではない部分の広がりを持った作品の割にはコメディタッチな軽さもあり、休日の午後に観るのにはぴったりな気がした。素敵な時間をありがとう。これから吉田拓郎を開拓していきます!





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