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「キツツキと雨」鑑賞記録

この映画を初めて観たのは去年だったかな。たまたまネットフリックスで見つけてなんとなく観てみたのだが、それが私の人生観を揺るがすようなとんでもない出会いとなることなど、当時の私は知る由もなかった…

この映画と出会ってから言ってまだ半年とか、1年は経ってないのだと思うんだけど、この短期間で4回ぐらいは観ている。基本的に私は同じ映画を何度も観ることはあまりない。もう一度観ることがあっても、少なくとも半年はあけて観る。だから、個人的にこの頻度で同じ映画を観ることは結構稀なんだ。

「キツツキと雨」と出会うまでの自分は結構映画に関して曖昧な態度をとっていた、と今では思う。映画が好きだ、だからどんな映画でも好きでいたい。嫌いな映画なんてないと思っていた、思い込んでいた。だからどこまでも映画に対して中立というか曖昧な立場からしか意見を持てなかった。そんな私にとってこの映画との出会いはグーでガツンと殴られるような衝撃だった。

「最高だ!!!」

鑑賞直後は、もうその一言でしかこの映画を形容できなかった。本当に素晴らしい映画だったから。なんでこんなに好きなのかも分からないけど、とにかく好きだ!と全力で感じた。それから少しずつこの映画を通して自分と対話することを学んだ。

まず「君はこの映画のどんなとこが好きなの?」と自分に問いかけてみた。最初は全然言葉にならなくて「う~~ん、役所広司がね、なんかね、いいんだよね!」みたいなことになってたけれど、辛抱強く話を聴いてみると案外ちゃんとあったんだな。

この映画の好きなとこなんて挙げだしたらキリがないんだけれど、決定的なのはこの映画全体にある人や物語を描く距離感だと思う。私はここで描かれる距離感が大好きだ。

映画は時にナルシスト的に視野がグッと狭まったり、逆にめちゃくちゃグローバルになったり、本当に自在に色んな距離を作り出す。物語には起承転結があって、日常の些細なことにも何やら起伏が生まれる。だからドラマチックでどこか感動的にもなる。でも、私はそんな風なドラマチックなのが少し苦手だったりもする。以前の自分なら、苦手なわけがない!映画を全て愛しているもの!と思い込もうとしていたけど、やっぱりもうこれは決定的だから諦めようと思う。私は過剰な演出とかはあんまり好きじゃない。音楽で盛り上げたりとか。でもスピルバーグは大好きなんだからもしかしたら何か他の要素が苦手な可能性もある。それか他の要素と組み合わさっていれば過剰な演出も気にならなくなるのかもしれない。とにかく、「キツツキと雨」がとてつもなく優れている、と私が個人的に思うのは人や物語を描く距離感、そこにおけるバランス感覚だ。

深く入り込みすぎはしない、ただ優しく寄り添う。そんな絶妙な居心地の良い距離感を保って映画は進む。最高なんだよな。かつ、この映画は私に対しても最高の距離感で存在してくれているというか、この映画が私に居場所を与えてくれるというか、なんなんだろうな、そういう観客を巻き込む包容力がある気がする。少なくとも私はここに含まれているような、だから懐かしくて、愛おしくて仕方がない。

映画との出会いによって自分は色んな風に影響を受けてきたと思うけれど、ここまで凄い影響力を受けたのは初めてだと思う。私の中の映画に対する価値観をひっくり返したというか、むしろ元々あった価値観だけど自分で勝手に否定してきた価値観をこの映画が全肯定してくれたような気がしている。私は私が好きなものを好きでいていいと確信できたというか。

私は映画を作りたい、とずっと思いながら生きてきた。でも私にはそれを実行に移す勇気がなかった。技術や知識や人脈やお金といったものが足りてないことも理由に少なからず関係しているとは思うがそれら遥かに上回る理由はきっとこれだ。伝えたいことがない。映画において、何かを伝えること、表現することは、それが芸術でもあることから必然というか、当たり前だと思う。でも、私は伝えたいことが上手くまとめられなかった。まとめられないくらい沢山あるということは、ないということと等しい。どれも自分にとって決定的なものではないから。

「キツツキと雨」に出会って初めて私は心から「映画を作りたい」と思えた。こんな映画を私も作りたい、と思えた。私は映画に対してどこか凝り固まった印象を抱いていて、自分にはそんな映画は作れないから映画は作れない、と思っていた。でも多分違うのだと思う。自分が作れる映画を作ればいい。私には私にしか作れない映画がある。「キツツキと雨」のような距離感を、私は感じとることができる。きっとその視点が映画を作る時に活かせるだろう。もしくは映画でなくても、なんでもいい。私が見たもの感じたものを私が心地よいと思える距離感で描きたいし、伝えたい。

好きなものを好きというのが怖いということはよくあることだと思う。でもこの作品と出会って好きなものは好きでいていいのだと心から思えるようになった。沖田監督のまなざしが本当に好きだ。

結局「キツツキと雨」の魅力を語りきらぬうちにここまで書いてしまった。自分のことばかり書いてしまった。でも映画はそういうものだとも思っている。好きな映画なおさらだ。私にとって映画を語ることは人生を語ることに等しくて、だから人が映画について話しているのを聞くのが大好きだ。逆に自分のことを話さない映画の話ほどつまらないものもない。映画を語るならば、己の人生哲学を語るべし。

と、こんなことを思いながらも、どんな形であれ映画の話は全部楽しいと思っている。どんな映画も大好きだ。どんな映画の話も。その中でも特に好きなものはあるけれど、映画を色んな縮尺で観るのは本当に楽しい。だから、どんな映画も、どんな人生も、かけがえのない大切な視点で、面白い。

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