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『哀れなるものたち』鑑賞記録

2024年のアカデミー賞で11部門にノミネートされて話題沸騰中の『哀れなるものたち』を先日鑑賞してきました。
ヨルゴス・ランティモス監督作品は『女王陛下のお気に入り』『聖なる鹿殺し』『ロブスター』を鑑賞したことがあって、個人的なヒット率で言うと6:4ぐらいの期待感で公開を待っていましたが、鑑賞後10:0!!圧倒的怪作!!最高!!という気持ちでふわふわしながら劇場を後にしました。

予告編やポスターなど、プロモーションではダークファンタジー?衣装や音楽がすごそう?みたいな視聴覚の部分は十分に受け取ったのですが、中身のところはつかみかねていて、鑑賞当日もほぼあらすじをわかっていない状態でした。
視聴覚の部分については、プロモーション通りの圧巻のクオリティ、細部までこだわり抜かれたウィレム・デフォーの特殊メイク、エマ・ストーンの古風な中に新しさも感じる衣装、映像に色を足す不協和音を多用した音楽。
すごすぎる。
でもこの映画それだけで終わりません。
人間ドラマとしてもしっかり作りこまれています。
ファンタジー色が強い設定の中で、主人公ベラがこの世界を生きていく姿を、ファンタジーに甘んじることなく、描いています。
性描写にも甘さはないので(R18なのです)、一緒に観る人を選ぶ映画ではありますが、誰かと観てあーだこーだ言い合いたくなる映画です。

ここから先はネタバレも含みます。


この映画のタイトル「哀れなるものたち(原題:poor things)」にちなんで、登場人物の中の哀れなるものたちtop3を発表します!
 1位 ベラの元夫
 2位 ダンカン
 3位 ハリー
まあ皆さんも同じようなものですかね。
ベラが関係を持つ男性はそれぞれ方向性は違えど哀れでしたね。

特に元夫はもう人間としてどうよ、という点で最後はヤギの脳みそ移植されてもはや人間でもなくなりましたが…
ベラは「彼が死ぬのを見たくない」「進歩させる」みたいなことを言って元夫を救いましたが、あれでも生きている換算できるのと、以前の元夫はヤギ以下だったのだなあとか…(ヤギといわず虫ケラとも…)元夫は物語の中でもまともに相手しない(扱わない)、という感じでコメディでしたね。
出演時間としてもね、圧倒的に短いですしね、あれくらいの扱いでよいのでしょう。

ダンカン、彼は一番理解しやすい人間像だと思いました。
自分の中の虚無と向き合うことや、自分の物差しで物事をはかることを怠った人間の末路かと。
船上でベラがマダムやハリーと出会い、未知のものに触れ吸収していく姿に苛立ったりするのとかはまさにそこからくるコンプレックスの裏返しみたいでした。
自分の中が空っぽなんだということを認めたくないんだな。
ベラに執着し続ける姿はあまりにも惨めなのに、それを客観視できず、他人のせいにばかりして自分の内面に矢印が向いていかないのは哀れでした。
それでも元夫とは違って彼にはベラを物理的精神的に囲い込む鉄のような強さはなかったから、ベラにとっては煩い小蠅ぐらいだったのかな。

我らがマックスは、観客の役割を背負っているからかもしれませんが、個人的には1番近しい存在として見ていました。
振り回されるでいうとダンカンも振り回されているように見えますが、ダンカンの場合は、自分の中のベラ像に現実のベラを当てはめて見ているからであって、ベラはきっと振り回すつもりはないんですよね。
そもそもベラはダンカンとの旅を駆け落ちではなく冒険と認識しているし、ダンカンはベラの話す内容を自分の都合のいいように解釈してしまっているんじゃないかと思うんです。
マックスの方は、そういう意味ではベラと対等なコミュニケーションを取れている方だし、ダンカンとの冒険もそうだし、結婚式で面目丸潰れもあって、それらは全てベラが自分の意思で決断した結果です。
そういたいと彼女が願ってマックスはそれに振り回されて、それでもマックスは彼女を想うことしかできなかったのですが、これはこれで哀れなのかもと思います。
でもこれまた人間くさくて、そして1番愛を感じることでもあります。

こうやって映画の内容を思い出していると、ベラの決断はいつでも「逃げる」「避ける」からは程遠くて、対峙する姿勢があるなと思います。
元夫も、ちょっと考えたらやばそうなのは確実だし、マックスと手っ取り早く幸せになることも簡単だったろうに、敢えて元夫について行くことを決断します。
そうまでしても自分の過去を知ること、それと対峙することが、彼女にとって重要なことだったのでしょう。
この精神的逞しさは人一倍強い好奇心が生んでいるのかしら。
胎児の頭脳ということもあり、そういった好奇心が成人女性よりは強かったりするんですかね。

ベラを取り巻く登場人物で忘れてはいけないのがゴッド。
ウィレム・デフォーはどれだけ人間離れした見た目でも、圧倒的説得力をもってその存在を自然にしてしまう人ですね。
特殊メイクのこだわりも、彼の生い立ちや食事のシーンなど、彼に関しての設定の作り込み方が異常なほどというか、監督も特別な感情を抱いてそうな気がします。
彼についての番外編が見たいぐらいですね。
幼少期の父親からの虐待を経て彼の倫理観が形成されていくまでの過程や、これまで出会ってきた患者さんの話とか、気になりますね。

ぼちぼちまとめに入りますが、総じて大満足の映画でした。
私が触れていない側面として、ジェンダーや格差社会についての風刺的な部分からも観ることができると思いますし、他にも色々あるかもしれません。
人によって色んな見方ができるのがよい映画の基準なのだと思うので、そういう意味では大傑作なのかもしれません。
R18ではありますが、多くの人に届いたらいいなと思う作品です。
私はもうすでに観直したくなっています。
また劇場行くか…それで新たな発見があればまた更新します。

最後まで読んでいただきありがとうございました。




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