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『心と体と』鑑賞記録

今日は久しぶりに映画鑑賞の記録です。
映画『心と体と』を観ました。
2017年に制作されたハンガリー映画で監督・脚本はエニェディ・イルディコー。
アマプラで観れる映画を適当に漁っていたら、なんとなく内容に惹かれました。

舞台は牛の食肉工場。
そこで財務部長を務める孤独な中年男性エンドレは、ふと窓の外に佇む美しい女性に目を止める。
彼女は、女性従業員の産休取得の穴埋めのため雇われたマーリアだった。
内向的で人との交流が不得意なマーリアはエンドレにも最初は警戒を示す。
しかし奇妙な夢を通じて二人は少しずつ心を開いていく。

その奇妙な夢というのが、鹿の夢なんですよ…
エンドレは雄鹿、マーリアは雌鹿となり、共に森の中を探索するような夢。
そのシーンでは雪の積もるしんとした森の中に、本物の鹿が登場します。
その美しさ…
人間を捉えるカメラの視線もそうですが、動物を捉える視線にも愛が溢れているように感じられました。
毛並みのアップ、蹄が水際の柔らかい泥を踏む様子、わずかな目の動き、さっと動く耳。
些細な動きがしっかりと捉えられていて、鹿の存在感たるや…これは鹿映画としてもジャンル分けできるぐらいには鹿の映画でもあるかもしれません。

こうした大自然、その中で生きる鹿の凛とした美しさを描く一方で、家畜として食肉工場にやってきて肉片へと処理されていく牛の姿もまた衝撃的でした。
同じ映像の密度で、その死が淡々と描かれるのです。
食肉工場では毎日こんなことが行われているのか…
この事実を知らずに肉を食べてきた私はなんと命を軽く見ていたのだろう、と思わずにはいられないような、重々しく、けれどあまりにも軽い命がありました。
映画では実際に牛を殺し、つるし上げ、その頭を切り落とすシーンが描かれます。
刃物が肉を切り裂く音、切り落とされた頭が地面に打ち付けられる音、大量に流れ落ちる血の音。
そういったものがまるでその死の臭いまで伴ってこちらまで伝わってくるようでした。
そういったシーンがあると知らずに私は観たので、かなりきつくはありましたが、これは観るべきであると思いました。
ただもしそういったシーンが苦手な方は避けて頂いた方がよいのかもしれません。

こうした動物たちの生と死の物語がまずは自分としてはこの映画を語る上で見逃せない点だと思います。
続いてはエンドレとマーリアの物語について。

エンドレもマーリアも独身で、孤独を抱えた人たちです。
エンドレは片腕が不自由で過去に何があったのかはよく分かりませんが、何かを抱えていて、あまり人と積極的に交わろうとしません。
マーリアは、人が無意識に当然と思って振舞っている些細なものを無意識には振舞えないことから、周りの人とうまくなじめません。
そんな二人は夢の中で鹿になることで、人間の持つ複雑なコミュニケーションを必要としない世界で、ありのままに気の向くままに交流するのです。

二人にとってそれがどれほど心の安らぐ交流であったか…
そんな交流が実は鹿となり変わった実在する人同士のものであったと知ったときの二人の驚き、そして湧き上がる好奇心が少しずつ二人を近づけていきます。

マーリアは長らくセラピーに通っているようでしたが、どこか人との交流に諦めを抱いていたのではないかと思います。
しかし、エンドレと出会い、エンドレがどう思うのか、エンドレに嫌われたくないといった感情が芽生えてきたようで、それが彼女を少しずつ変えていきます。

しかし一方でマーリアのそうした努力はエンドレには見えにくいもので、互いに感情を表現するのが苦手な二人の間にはすれ違いも生まれていきます…

まあその辺は映画を観る時の楽しみにして頂いて、この辺でとめておきます。
この孤独な男と内気な女が、夢というとても内的な世界から現実という外的な世界で関係を築いていく姿を見ていると、自分もあまりこもりすぎても駄目だなあと思います。
きちんと外的な世界とのつながりを保たないと、生きていくならば。
ラストにはそういった人間の生と死についても描かれてるような気がしました。

あとこの映画は音楽も秀逸でした。主題歌のLura MarlingのWhat He Wrote。
恋したときに聴く音楽を探していたマーリアが女性店員さんのおすすめということでこの曲が入ったCDを購入するのですが、家に帰ってラジカセから流れてきた曲を聞いてびっくりするわけです…
店員がCDを手渡して試聴してみる?と聞き、いや、買うと即答したマーリアに対して浮かべた驚きの表情を考えると、多分長時間試聴してたマーリアへの嫌がらせのつもりだったのかもしれませんね。
でもこの曲自体はとてもいい曲だと思います。
声がすごくいい、そしてメロディも…

映画を観終わってからこの曲を聴いていると、たしかにこれはマーリアにとっては恋の歌になったのかも…?と思えるような、

それではそろそろこの辺で。また映画観て感想上げます!

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