夢の舞台からクライシスへ。新潟、運命のラスト3戦
ファイナリスト。ただ、16位。
ここまで対照的な二面性を携えてシーズン終盤を迎えるクラブも歴史上、中々類を見ない事でしょう。一週間前はクラブ史上初の「ファイナリスト」として国立競技場へ足を踏み入れた新潟ですが、リーグ戦では16位・降格圏の2つ上という「クライシス」な状況下で今週末を迎える事となりました。
現在の順位表はこちら。現実性や終盤戦の勢いを加味すると、残り一つのJ1残留枠を新潟・柏・磐田の3チームで争う構図となっています。
磐田は8月末の台風の影響で延期となった未消化分が一試合残されているので後4試合・最大勝ち点を12まで積める計算ですが、ガンバ・マリノス・FC東京を残す対戦カードはやや厳しめ。16位とは既に勝ち点差が5も離れている事を踏まえると、新潟としては自分達が最低限度の勝ち点を積み上げさえすれば確実に残留圏に留まれると考えていいでしょう。
仮に磐田が今節ガンバ戦を落として、新潟が柏を撃破すると、磐田との勝ち点差は「8」に広がります。残り3試合・最大勝ち点9が課せられる磐田に対してその差を突きつければ殆ど勝負は決まったようなものでしょう。
もし磐田が今節勝っても延期分の11/16マリノス戦を落とすと残り2試合・最大勝ち点6。でも新潟が今節勝っていれば勝ち点差は5のまま。6に対して5も差があるのです。
要は、あと一勝さえ記録すれば新潟のミッションはオールクリアです。
それも一勝のタイミングですが、残留争いの直接対決となる今週末の柏レイソル戦で是が非でも掴みたいところ。大きなプレッシャーが与えられた日立台での決戦をモノに出来れば如何に楽な事か。その後の2戦に対して選手達が肩の荷を降ろしながらプレーできる筈ですし、単純に「17位のチームを下に突き落とす・自分達は事実上の別れを告げる」という精神的,数字的な優位性を確保する意味でも絶対に勝ちたい一戦となります。
‥と新潟に都合の良いケースを前提に話を進めてきましたが、ここで敢えてそれとは逆の新潟にとって都合の悪い世界線を想像してみてください。今節新潟が負けて必然的に柏が勝って、更に磐田まで勝ってしまったケースです。わざわざ説明しなくてもその深刻さ・残酷さを理解できますよね。
夢の舞台から一週間を経たずして頭を切り替えるには格好の状況です。というかこの順位表を見てしまうと切り替える他ありません。厳しい言い方をすると、負けてもポジティブな要素が浮き彫りになる先週末のルヴァン杯決勝とは裏腹に、残留争いでは負けたら正真正銘何も残りません。待っているのは最悪な結果のみです。この戦いでは勝つ事でしか新潟が望む未来を掴みとれません。
絶対に生き残る。新潟の意地と未来を懸けたラスト3戦が始まります。
柏、ガンバ、浦和
残り3戦のカードをおさらいしておきましょう。
・11/9(土) vs柏レイソル@A
・11/30(土) vsガンバ大阪@H
・12/8(日) vs浦和レッズ@A
こうして並べてみると、歴代として相性の悪さを感じさせるチーム達がここにきて揃ってしまった印象です。しかも最終節はリーグ戦で勝利実績が皆無なアウェイ浦和戦。今更相性がどうとか述べている場合ではありませんが、それでも埼スタで新潟が戦う姿を思い浮かべると、どうしても良いイメージは湧いてきません…。
残り3戦では最低でも1勝が求められる事を考えると、埼スタで勝利必須な状況に追い込まれる事だけは正直避けたいところです。そうなると日立台で直接対決を制することが残留への近道となってくると思います。後々の試合を考えると本当に大切な一戦ですね。
少しだけピッチ上のお話も。柏、ガンバ、浦和に共通するテーマとしては4-4-2を基調とするミドルブロックを敷いてくる所に行き着くと思います。
3チームとも試合を観ていると、ボールを持たれる事をさほど苦とせずに自陣に引いて守る時間帯を過ごしている印象がありますし、特に柏と浦和に関してはミドルブロックからハイプレスに転じて、奪った所からショートカウンターを発動する点に強みを持つチームです。
新潟としてはボールを持たせてくれる相手、それも得意である対4-4-2という事もあり、6戦勝てていないリーグ戦やルヴァン杯決勝よりは比較的戦いやすい相手が続いていくのではないかと思います。
そんな中、柏戦に向けた練習には東洋大学在学中のCB稲村隼翔が引き続き帯同しているそうです。
稲村の出場可能性というのはこれまでもそうですし、これからも攻守に渡ってポジティブな影響を与えてくれると確信しています。
特にガンバや浦和に見られる傾向ですが、守備ブロックを組んだ際、ボールホルダーとなった相手CBに対して出し所を片側に限定するようなアプローチを採り、保持側の選択肢を狭い方に追い込んできます。
これまでは左センターバックをそれぞれ右利きの千葉・トーマスデンが務めており、上記のようなアプローチを相手に仕掛けられると利き足の都合上、有効なパスを打てず簡単に相手の守備網にハマってしまうシーンが多発していました。
しかし、左利きかつ盤面の状況を観ながら適切なプレー選択を実行できる稲村が居るのなら話は別となります。片側に閉じられても運びながら逆サイドへ振ったり、或いは縦にも斜めにも奥行きへ高精度のロングパスを飛ばす事のできるモダン型CBの存在は非常に大きいはず。
(柏に勝って後は大学生活に専念させてあげるのが本望だけど…!)
仮に柏戦のみならずガンバ・浦和戦まで帯同してくれるのなら彼が居てくれるに越した事はありません。その世界線が実現したら、これまで新潟が苦しんできた対策に遠慮なく有効打を放って欲しいですね。
また柏にはマテウスサヴィオ・ガンバには宇佐美貴史と、試合の中の文脈を無視して独力で膠着状態を破壊できるような強力なアタッカーが揃っています。
新潟としてはコンパクトなブロックを保つ事を前提として、最終ラインの高さをBox近辺ギリギリまで調節して相手攻撃陣をペナルティエリアから極力追い出すような守備網を敷きたいところです。
ただ、新潟がやるべき事を徹底しても尚、決定的な仕事をやってのけるアタッカーがラスト3戦の相手には揃っています。
ヤンツーこと柳下正明氏はルヴァン杯決勝を戦う新潟にこう言葉を寄せました。
「最後にCB、"踏ん張れ"」
クロスボールとマーカーを同一視野に入れながらマークを離さない、ホルダーの正面に立って気持ちよく足を振らせない。ヤンツーさんから頂いた言葉はこの最終盤でこそ活きてくるのかもしれませんね。
監督人事について
「今」に焦点を当てた残留争いについて話を進めていく中で、「将来」に焦点が当たるこのトピックスに触れるのは若干気が引けますが、個人的に思った事を少しだけ。
ルヴァン杯決勝の翌朝、松橋監督の去就について日刊スポーツからある一報が放たれました。
前提として松橋監督は毎年単年契約を結んでおり、新年も指揮を執っていただくにはシーズン終了が見えてきたタイミングでクラブが契約延長交渉を行って双方合意まで至る必要があります。
例年だと最終的に松橋体制の続投までこぎつける中で、特に障壁もなく交渉が進んでいき順調にゴールインを迎えているイメージがあります。ただ、監督人事の話に強い日刊スポーツ全国版から今回報じられた内容を鑑みると、来季に向けた松橋監督との契約延長交渉については正直上手く進んでいないんだろうなと真っ先に思いました。
そして、それは当然の事だと思います。まず肝心の来季カテゴリーが決定していません。J1なのかJ2なのか、現場の人間にとってキャリア形成を大きく左右する要素が依然として決まっていない状況下では、例え来季の契約に大筋合意していたとしても実際にサインして正式な物にするのは難しいでしょう。それは監督人事に限らず選手編成も含めて共通する話ではありますが。
また、松橋監督自身の目線に立つと、単身赴任4年目というプライベートな問題があり、また予算規模が限られている地方クラブで「J1昇格&J2優勝」「J1初年度10位」「ルヴァン杯準優勝」というある種の快挙を達成した今、彼にこれ以上アルビレックスで出来る事・果たす事が残されているのか?という見方だってできると思います。
更に、普段は監督続投に対して他の選択肢をチラつかせずに肯定的な考えを示す寺川強化部長ですが、新潟日報によるルヴァン杯総括記事内では少し含みを持たせたコメントを残している点も気になりました。
(有料記事ですが、会員登録すれば月5本まで無料で読めます↓)
報道ベースだと新潟の監督人事はまだニュートラルな状況にあるのは間違いありませんが、個人的な印象だと今季限りで松橋体制に一区切りがつくんじゃないかなと予想しています。あくまで可能性の話であって、現在の情報量なら事態を静観して続報を待つ事がサポーターとして適切だとは思いますが、この段階で結末を当てに行くのなら変化の側に針が触れ動くのではないかというスタンスを取っています。
勇退(+新監督招聘)か続投か。そんな、誰がルヴァン杯ファイナリストの指揮を執るのかという問題よりも、先ずクラブとして意図のある監督人事を行う事の方が大事であって、状況に左右されずに適切な旗頭を選定してほしいと心から思っています。
今オフは人の入れ替わりが激しくなる、それもクラブの変革期である19〜21年に主軸として活躍した選手達が複数抜ける事が予想されます。その上で2026年"夏"以降には秋春制へのシーズン移行など外的要因も重なって、雪国のクラブでもある新潟として来季は最前線への生き残りを懸けた大切なシーズンとなります。
そんな重要な位置づけが課せられた2025年に対しては、明確な強化指針の下で今後数年間に向けた新たな開拓者たちを核に据えて、強固なフットボールスタイルの形成に期待したいですし、その意思の表れが監督人事に反映されると良いなと思います。このトピックスについては近い内に新たな動きが表面化してくる筈なので、その際は報道の裏側まで読み解いてnoteなりスペースなり纏まった空間で自身の考えを整理するつもりです。
とはいえ幾ら未来に目を向けたとしても、今戦わない事には何も始まりません。最低でも1勝を記録しないと残留圏に留まる事は難しいですし、今回を機により明確となった優勝への道筋も、前提としてJ1に残り続けない事には夢が夢のままで終わってしまいます。
残り3試合となった2024年のアルビレックス新潟。果たしてクライシスを打ち破り、来季もトップリーグで戦う権利を掴む事ができるのでしょうか。光と闇の両方の側面を持ち併せた二面性について、今週末からは闇の部分に向き合い、そして勝つ事が求められます。