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私の専門

数値流体力学

 私は大学で教員をしていますが、時々「大学でどんなお仕事をされているんですか?」と聞かれます。私が「数値流体力学です。英語でいうとComputational Fluid Dynamics, 略してCFDです。」と言うと、大概「ああそうですか。失礼しました。さようなら」で会話が終わります。「もうちょっと、つっこんで欲しいなぁ」、ということで、もしよろしければ、私の専門のお話を聞いてください。

力学ってなに?

 まず、数値流体力学を分解すると、数値+流体+力学になります。力学とは、ちょっと乱暴な言い方ですが、「その前についている単語がどのように動くのかを学ぶ学問」という意味です。ですので、流体力学は「流体はどのように動くのかを学びます」ということになります。では、流体とはなんでしょうか? これはその名の通り流れるものです。液体の水や気体の空気は流体の仲間です。流体ではないものは固体といい、木とか鉄とか氷などです。これらはほおっておいても流れていきません。ちょっと専門的にいうと、流体とは液体と気体に属するものの総称です。

数学界の超難問?

 さらに、その前に「数値」という言葉がついていますが、これは「コンピュータを使って」という意味ですので、数値流体力学は、「コンピュータを使って流体はどのように動くのかを学びます」という意味になります。これが、私の専門です。なぜ、コンピュータを使うのでしょうか? 流体力学で習う方程式に、ナビエ・ストークス 方程式(Navier-Stokes equation)という方程式があります。これは流体の力の釣り合いをあらわす式で、この式を解けば流体はどのように流れていくのかが全て分かります。この式は、ナビエさんとストークスさんによって、すでに1800年代に提案されていたのですが、実はこの式は今日に至るまで、誰も解くことができていません。どれぐらい難しい問題かというと、2000年にアメリカのクレイ研究所が、「この問題が解けたら1億円あげます」といって当時未解決だった数学の7つの難題を提示しました。20年以上経った今も、7つのうち1つしか解かれていません(解けた一つはポアンカレ予想と言います)

解けない解けないと言っててもしょうがないよね

 でも、ナビエ・ストークス方程式が解けない解けないと言っていても仕方がありません。研究者たちは様々な工夫をしてこの方程式を解こうとします。その一つが、ナビエ・ストークス方程式そのものでは無くてちょっとちがうけど、ほぼほぼナビエ・ストークス方程式と思ってもいいという式に変換して、この式ならコンピュータを使うと解ける! という風にする方法です。この方法にもいろいろなやり方があって、差分法、有限要素法、有限体積法などと呼ばれています。これが、数値流体力学です。

そんなの私には関係無いし

 ここまで、お付き合いいただいてありがとうございます。ここまで読まれて「数値流体力学? そんなの私には関係無いし!」と思われる方もいらっしゃるかと思います。でも、実はほとんどの方が毎日、数値流体力学のお世話になっています。それは何かというと天気予報です。天気予報は地球上の風や雲の動きを予想するものですが、今日の雲、風、気温などのデータを元に、明日以降の天気を数値流体力学を使って予想しているのです。天気予報の一番重要な点は、明日の天気を予想するのに3日かかっていては何の意味も無いことです。天気予報は、計算する回数を多くすればするほど、正確な予想ができると言われています。近頃の天気予報は大体当たると思いませんか。台風が来ると言えば来るし、明日は猛暑日といえば大体猛暑日になります。しかし、私が子どもの頃は、天気予報と言えば当たらないものの代名詞でした。靴を蹴りとばして、「表なら晴れ」とかよくやっていました。近年、天気予報がよく当たるようになったのは、観測精度(アメダスや人工衛星からのデータ)が良くなったことももちろんありますが、早い計算機が開発されたことも非常に大きな一因です。ちなみに日本は今、世界で一番早い計算機を持っています。富岳(ふがく)って聞いたことありませんか? 一時期、口からの飛沫がどのように飛ぶかの動画を見た方も多いと思いますが、あれは富岳が計算したものも多いそうです。でも、その富岳でも今問題になっているゲリラ豪雨を正確に予想することはできないそうです。ですので、まだまだ速い計算機が必要になりますね。今、アメリカ、中国、日本などがこの早い計算機の開発にしのぎを削っています。

最後に

 最後までお読み頂きありがとうございました。今お話した内容はYoubuteにもアップしてあります。ご覧頂いて、もしご興味がありましたら、チャンネル登録や高評価を頂けると大変嬉しいです。
https://youtu.be/lx9D0F6ptrM

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