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写真展「流れる時間。」を終えて。

11月23日から25日の三日間、
「流れる時間。」という自身初の写真展を
福岡県久留米市に在るholmというカフェで行った。

3日目の朝に感じたことや、2日目の夕方に受けた自分にとって衝撃的な出来事を振り返るために書いている。

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朝の時間にこのカフェに来る人は、ゆっくりと流れるこの時間のうちに、各々がやりたいことを済ませるためにこの場に来ているのだと言い聞かせ、自分は店の端っこの席で空気になっているつもりでいる。

実際は、この文章を書いているのだから、黒い服を着た男性が店の片隅でカタカタと指を小刻みに動かしている。
気づかれないようにそれぞれを見ていると、カップから口が離れた時、キーボードから手が離れた時、本のページを捲る時に僕の写真が飾っている壁の方に向かって目線が動いているのを感じる。

僕の写真を見てほしいという願望がその目線にのっているだけかも知れない。

この時に一呼吸入れて、こんにちは。今日、写真を展示している松田です。と声をかけるのは、簡単なはずなんだけど、とても難しいものだった。というより、できるだけ声はかけないようにしていたつもりだ。

展示中の3日間、ほぼ全ての時間、会場に在廊していた。
今回初めて展示をしてみて、展示はギャラリーや美術館でやるのと、カフェでやるのとは全く異質なものだと感じた。実際は今回が初めての展示なので異質も何も違いは体感していないのだけど。

カフェでやる時に気をつけることは、コーヒーを飲みに来た人なのか、展示を見に来た人なのかというところを分別することだと思う。

ここに来ている人のほとんどは、秋か冬かよく分からないこの季節に流れるゆっくりとした朝の時間を過ごすためにここに来ているはずだ。

それが27になるおっさんが急に視界に入って展示の話をされても貴様は何者じゃ。と言われかねないな。と思って話すことが億劫になっていた。

カフェに来ている人との距離感の測り方が最も難しいことだった。それでも朝の空気が味方をしてくれたのか、稀に僕とコミュニケーションをとってくれる人もいた。

三日間を通して、人との距離感の測り方について、自分の中でとても気を遣っていた。

が、二日目の夕方、僕は失敗をした。

初日の朝、カフェの近くで美容室をされている方が飲み物をテイクアウトしに来店された。その美容室に行ったというお年を召した女性の方が、二日目の夕方に僕の写真を見に来てくれた。

展示に足を運んでくれた方が他の誰かに展示を紹介してくれたことに僕は感動していて、少し浮ついていたように思う。

「失礼ですが、日本の方ですか?」

「見りゃわかるだろう。」

「大変失礼しました。どちらの国の方ですか?」
「そんなことどうだっていいんだよ。」

多分その女性は、日本に来て何千回、何万回とこういったやり取りをしている。僕の浅はかさがはっきりと出た場面だった。

それでも女性は、席に座るや否や展示している写真をまじまじと見つめたり、徐に外を見たりしていた。

帰り際、3種類用意していたポストカードのうち、2枚を手に取り、買っていただいた。

その時、彼女は僕ではなく、オーナーに写真のことを尋ねていた。オーナーが僕に話を振ってくれたけれど、それでも彼女は僕にではなくオーナーに聞いているんだ。という。

もしかすると、彼女が聞きたかったことは、僕の写真がどんなものか。ではなく、なぜこの写真たちをここに展示させようと思ったのか。についてをオーナーに聞いていたかもしれないし、そうじゃないかもしれない。僕の憶測だけで書いている。

たった30分くらいの間の出来事だったけれど、今回の三日間の中で最も記憶に残る一場面だったように思う。

クヨクヨしていても仕方ないから、この話はここで供養して、
次なる写真展に向けて、大きな糧にしようと思う。

三日間という短い時間だったけれど、僕の中に流れ込んだこの時間は、とても密度の濃い時間だった。

2023年の初春、年内に写真展を開くことを年の目標にした。
そして2023年の7月にholmというカフェが生まれた。
初めて行ったとき、妻とここで展示ができたらすごく良さそう。という会話をした。
2回目に足を運んだとき、意を決して、オーナーに展示の打診をした。カッコつけて書いているけど、実際は妻からお尻を叩いてもらって、打診ができた。1人で来ていたら多分、何も言えずに帰っていたと思う。準備期間から展示が終わるまでの間、さまざまな人のさまざまな角度からの優しさに触れることができた。

展示のプロフィールには、今回の写真展が誰かにとっての何かの起点になれば嬉しいです。というおむつ袋に投げ込みたくなるようなセリフを載せた。
今、この文章を書いていて、その誰かというのは僕自身だったのだな。と心の底から感じている。

展示に足を運んでくれた皆様、来る予定にしていたけれどどうしても都合がつかないと連絡をくれた友人たち、holmに足を運んでくれたお客様、holmを立ち上げてくれたオーナー、そして家族に心からありがとうを伝えたい。

今回の展示を通して、学んだことがたくさんあるので
またどこかで写真展を開きたい。


お店の1番奥の席から。今の季節、彼女たちが座る席が1番暖かい。

追伸
額装したA3の写真3枚は、オーナーのご厚意で引き続きholmに飾ってもらっています。
期間中に足を運べなかった皆様もどうかholmというカフェを楽しんでくれれば嬉しいです。

フィルムカメラで写真を撮らせてもらった方々へ
現像が上がり次第、写真を送らせてもらいます。
今しばらく、お待ちください。

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