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光が差し込む尾根道を歩く。

1人で山を歩いた。

前日の深夜に映画を観た。
観終わって身支度を済ませ、眠りに付いている妻と息子を置いて家を出る。

家を出る頃、新聞配達をする郵便配達屋と鉢合わせた。
当たり前なことに僕たちが眠っている間にも仕事をしている人がいる。

車を1時間半ほど走らせて、登山口に着いた。
登山口に着いて、少し仮眠しようと座席を倒してみるけれど、なかなか寝付けない。1人で山へ登る時は、寝坊するのが嫌でという建前で前日から山入りする。本当は、静かな山の中で過ごす夜の時間が好きという理由だったりする。兎にも角にも今回は日が昇るまでは登らないと決めている。

今回の山は、福岡県の糸島市に在る井原山だ。

沢沿いの道を歩いたり、オオキツネノカミソリをはじめ季節の花を楽しむことができる好きな山だ。

段々、夜が明けてきた。
寝付けなかったのはきっと、夜から朝に変わるグラデーションを見つめる時間が必要だったからだ。

重たい瞼を擦りながら、機材の準備をする。
今回やりたかったことは、中判フィルムカメラで山の中の写真を撮ることだ。三脚にそれをくっつけて、左肩に背負って登る。息子を背中に背負って登るのよりも遥かに軽い。質量もずっと同じままだ。首にはサンゴーをぶら下げているから、ほぼ両手は塞がっている。だからこそ、ゆっくりと歩くことが出来て、小さな変化を見つけることができる。雨上がりの路面に足を取られないようにいつもより慎重に登る。

2月の朝、山の中を歩いていると、大きな杉の根本に小さなつららが付いていた。そこにまだ昇り切っていない太陽の光が当たる。ゆっくり歩いていたからこそこういう光景に出会える。

山頂へ行くのを諦めて、尾根を下る。
広葉樹で構成された尾根沿いの道に光が差し込む。
その差し込んだ光が葉に遮られて木漏れ日になっている。
木の葉が谷から吹き上がる風によって、踊るように揺れている。

誰もいない山の中で、光が差し込む尾根道を進む。という贅沢をしてきた。




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