異世界転生者ルカの記憶の真実を巡る冒険譚
第一章:運命の出会いとは
光に包まれている……オレは……死んだのか?
光が語りかけてくる。
「罪人よ。お前に次なる生を与える。そこで己の矮小さを噛み締めよ」
「オレがなにしたって言うんだよ……」
そう思わずつぶやいた次の瞬間には景色ががらりと変わっていた。
これは?転生?
転生者ルカの新たな人生の始まりだった。
「ルカ!またなの!?」
「ほんと、悪い子だわ。そんな子はおしおきよ!外でバケツを持って立ってなさい!」
「ええ……」
「文句あるの?早くお行き!」
これは……
思い出した。ここは孤児院か。
オレはどうやら生後間もないようだ。そして、いきなり孤児院に入れられたらしい。まあ、珍しいことでもないだろうが。
「ルカ!ルカはどこなの!?」
「この子が窓から逃げたのよ!」
まずいな。またあのおしおきをやるのか。あの長ったらしい説教は聞きたくないんだが……
「また、お前か!この悪童め!いつになったら改心するんじゃ!」
オレは改心などしない。孤高に生きるのさ。きっと転生前もそうだった。
確かな記憶はないが、そうだと確信できる。
なぜならば、転生前も後もオレはオレであることは確実だからだ。
オレは自由を求めて生き続ける。その運命は変わらないだろう。
「まあ、いい。今日はこの辺で許してやるわい」
「ルカ!覚えておくのだぞ!今日だけだ!」
「ごめなさい……」
謝るなんてまっぴらだ。オレは自分の幸せのために生きているんだ。他人は関係ない。
そして月日が流れて……
そんな悪童と言われた少年も16歳を迎えた。人生を選ぶ時が来たのだ。
オレは心に決めていたことがある。さらなる自由を求めて冒険者になることだ。
それもそこらの冒険者じゃない。大金持ちの大成功した冒険者だ。
そのために、学園に通っていい成績で卒業して、いいギルド(就職口)に入る必要がある。
オレは心に決めていたことがある。学園に行くのだ。
そもそもどうやって入るんだ? オレは親もいなければ親戚もいない。
孤児院に拾われた身だ。冒険者にでもなって働きながら学校に通うしかないと思っていた。
だが、そんな時にオレの人生を変える出来事があった。それはある男との出会いだ。
「やあ!君、いい目をしているな」
「なんだ?」
「私は君のその目に可能性を感じたよ。どうだ?私の弟子にならないかい?」
「どうせ弟子をこき使う悪い師匠なんだろう?嫌なこったい」
「断るのかい?君は学園を卒業して大金持ちになりたいというのにかい?」
のちの師匠となるその人は占いの名手だった。およそ並ぶべく人もいないほどに。
この女の登場によってオレは人生の奴隷となったのだった。自由を目指していたはずなのに!
そして今日が入学の日だ。
何もかもが懐かしい……
「師匠は本当に人使いが荒い」
入学を支援してくれる条件として提示されたコトが一つある。
学園の併設図書館にある本をすべて読みつくすことだ。
卒業さえしてしまえば、フリーアクセスになるそこに通って、
何年かかってもいいから達成しろとのことだ。
まったく、多大な労力がかかるオーダーをもらったものだよ。とほほ。
しかし、満を持して入学なのだ。今日だけは胸を張ろう。
卒業すれば冒険者になれる可能性も大いにあるのだ。
そうすれば師匠も文句は言うまい。
「まずは図書館に行こう」
オレは逸る気持ちを胸に図書館へと向かうのだった。
しかし、まさかあんな出会いが待っていたとは知る由もなかった。
「ようやく着いたぞ、ここが図書館か」
学園の片隅にひっそりと建っているその建物は、まるで隠れ家のように佇んでいた。
いや、隠れ家そのものか。ここは学園の機密が詰まっている場所なのだ。
そんな場所には当然のごとく警備の者が立っている。
「やあ少年、キミは暇人か?」
「あいにく持て余す程に暇でね。少し分けてやろうか?」
長身、長髪、真っ赤なロングストレートに軽装備の鎧と槍をもった警備兵だった。
「利用許可証はあるか?」
「これだろ?師匠の手描きサイン付きだぜ」
「どれどれ……ワオ、お前、あの魔女の手先か」
「そういう事なので、暇は売るほどあるんだよ」
「なんていうか……がんばって生きてくれ」
どんだけ悪評をばらまいているのだあの師匠は……
図書館で本の閲覧の許可を得たので何を読むか決めようとさっと散策してみる。
小さな建物と思っていたけれど、一階全部に本棚が詰め込まれているのと
ロフトのような場所に梯子がかかっている。上は貴重な本がたくさんありそうだ。
適当に目星を付けて本棚から一冊引き抜いてみた。
ーーーそして少年は運命に出会う。
本のタイトルは、”異世界の門と私の関係性”である。
中身は日記のような文体だが、何かの調査資料かのように
時々図形が張り付けてある。
10分ほど読んでいて気になる文章を見つけてしまった。
「記憶を失った転生者が繰り返し失踪している。異世界の門と関係があるだろう」
「……オレのこと言ってんのか?」
「ねえ、キミ。顔が青ざめているわよ。大丈夫?」
ビクッ!としてしまった。
表情が見えるほどの至近距離に人がいても気が付かないほどに、
本の内容に熱中していたらしい。
「再度聞くけど、大丈夫?」
「ああ、問題ない。キミのおかげで助かったところさ」
軽口だと自分でも思う。
「そう!よかった!私の名前はセイラ!何かあったらいつでも相談しなさい!」
満更でもないようだった。ちょろいのか?いや、親切心にあふれているだけだな。
顔は良い。声も良い。体格も小柄だが恵まれているようだ。総じて印象が良い。
「ありがとう。オレはルカだ。これからよろしくね」
「ええ、こちらこそ!ところでそれ何の本なの?珍しいタイトルだけど」
「これは”異世界の門と私の関係性”という本だよ。知らなかった?」
「うーん……ごめんなさい聞いたことないわね……私の探している本は1階には無いようね」
そういってセイラは梯子を上ってロフトへと消えていった。
本の中身を紐解いて見れば見るほどに興味深い内容だった。
1:記憶を失った転生者は繰り返し失踪している
2:学園関係者は毎年の恒例行事化のように無視している
3:異世界の門を開くことができれば、消えた記憶の鍵が見つかる
「オレには取り戻すべき記憶なんてあるのか?」
自問してみたが答えは出ない。
第二章:生徒会との対立
「門を探すな、知るな、広めるな」
謎の標語が流行っていた。掲示板には張り紙が張られては剥がされて
シールの跡が残骸のように積み重なっていた。
オレは異世界の門の存在を知ってから日夜それを探し回っていた。
何かの懸念を抱いているのはオレだけじゃないようだ。
「ねえ。アレどう思う?」
「さてね。失踪者の血縁者とかが活動しているんじゃないか?」
図書館で出会って以来、交流があるセイラと廊下を歩いているときに
ふと標語の話題になったのだった。
「私はあると思うわよ。異世界の門」
「あれもあるなら見つけたいものだね」
「やっぱりそう思うかしら?アレって実は逆効果よね」
「ああ、オレもそう思う」
歩きながら掲示板を見ると、生徒会のメンバーが標語入りのポスターを
剥がしているところだった。
毎日まじめによくやるねえ……
「実は私、見つけちゃったのよね」
「何をだよ」
「異世界の門のことよ」
数日後、彼女はいなくなった。
「オレは必死になって彼女を探すべきなのかねぇ……」
ルカは食堂でカレーライスのスプーンをかじりながら呆けていた。
「行儀が悪いぞ貴様!学園を何だと思っている!」
「悪かったよ。気を付けます」
生徒会の会長だった。強きには屈するのが処世術なのだ。……昔は悪童だったのに。
「ところで会長。セイラって名前の生徒をご存じですか?」
「最近失踪した彼女だな。部屋から日記が出てきたとのことで生徒会で精査中だが?」
「オレはあの子と少しだけ交流があったので、気になるんですが…戻ってきますかね?」
生徒会長がひどく難しい顔をする。額のシワが深すぎて眉が繋がりそうだ。
「わからん……」
「何かヒントくらいほしいものですが」
「日記によれば、彼女は古代魔法について調べていたらしいが……
扱いの難しい魔法だから個人的な実験による事故という線もある」
「それで人が一人消えるものですかね?」
「魔法を使えばなんだって起こりうるさ」
その言葉を聞いて絶対に自分がセイラを見つけてやるんだと心に決めた。
理由なんてない。ただ、そう思ったのだ。
「さて、決めたのだからあとは行動するだけだな」
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも」
食事を終えて部屋に戻り、ルカはあるものを取り出した。
師匠から与えられたアイテムの一つである。
それは、失せ物探し物をするときに大変重宝されている
師匠の作品のひとつで、形と名前のわかるもの限定で
いまある場所を予言してくれるというアイテムだ。
普通に買ったら家が一つ買えるほどの値段だという。
「まあ、探し物があるのだから仕方がない、さ」
糸で編みこまれたような綺麗な布を開いた。
そして、虹色のインクに羽ペンを挿してしみわたらせ、書き込む。
「学園の女生徒、セイラの現在の居場所はどこですか?」
そして彼女の姿を強くイメージする。
布にしみ込んだインクが軌跡を描く。
方向が示された。そんなに遠い位置じゃないようだ。
魔法の布を持ってルカは走り出した。
そして、たどり着いた場所には……
「やあ。ルカくん……だったか。そんなに走ってどうしたんだい?」
生徒会長がいた。
彼は図書館の前で警備兵と話をしていたようだ。
「やあ、今日も精が出ますね。警備は順調ですか?」
「キミが気にするほどの事件は何も起きていないよ」
「そうですか?例えば、図書館の中に入った生徒がでてこない、とかは?」
露骨に顔に出るタイプの警備兵だった。
「何を言っているんだキミは……ワタシは仕事をしているだけだぞ」
「ルウはただの警備だ。事件とは関係ない」
生徒会長はちらとルカの手元をみて気が付いたようだ。
どうやら、師匠の話をしていたところらしい。
布の上で虹色のインクが踊っており、図書館の扉を指していた。
「まったく。ルカくん……やってくれたな!」
魔女のお墨付きと言われれば、この世に逃れる方法はない。
セイラは絶対に図書館の扉の中にいるのだ。
第三章:扉の開放
「仕方ない。一緒に見に行こうじゃないか」
あやしい。絶対に怪しい。
「彼女が扉の中にいるのは確実で、見事なナビがあるのだろう?
あとは助け出すだけじゃないか。ついていってやると言ってるのだ」
正直、一人で探したかったが仕方がない。
「会長も一緒に探していただけるのですね」
怪しいが、その怪しさをいったん放置することにした。
まずは彼女の生存を確認するのが先決だ。
ルカと生徒会長は図書館の扉を開けて中に入った。
すると魔女の地図はより正確に正解ルートを導き出す。
まっすぐ行って床の上で止まっている。
下……?隠し扉か!
まるで古風なワインの隠し場所みたいな板張りの扉が隠されていた。
階段になっている……地図もまっすぐ階段の奥を指していた。
「行くしかない。か」
「明かりをつけてやろう。トーチ!」
光の初歩魔法を唱えた生徒会長だった。正直たすかる。
人一人がギリギリ通れる様な通路を抜けると、そこには広い空間があった。
これは?空間の壁は仄かに明かりを漏らしていた。魔法が無くてもよく見える。
そして、広間の真ん中に彼女は居た。
「セイラ!無事だったんだね!よかった!」
彼女に駆け寄って近づこうとしたが、それは叶わなかった。
ズドン!後ろから生徒会長が爆音を放ったのだった。
やっぱりね……死体の処理とか簡単だものね。誰にも見つからない空間で殺人をする、とかさ。
「くそ……」
「ははは!だまされたな!」
「痛い……いったい何をされたんだ?おいセイラ、聞いているのか?」
「うるさいわね。話しかけないで」
彼女の唇は枯葉のように乾いていた。そこから漏れる声も枯れはてていた。
失踪してからの数日間、食べ物はおろか飲み物も口にしていないのだろう。
良く生きているなこいつ。すごい生命力だ。
背中がじんわりと温かくなる。
シャツに血液が染み出して体温だったものが広がっているのだろう。
もう駄目かもしれない。
「どうせ死ぬなら、その血液を私に任せてみない?」
セイラが何か戯言を言っているのを聞いた気がした。
「魔法陣を書いたのだけど、この古代魔法っていけにえが必要なのよね」
「マジで何言ってんだよ!?」
「完成するのよ。そうすれば扉が開くわ。最後に見たいでしょ?」
はあ……仕方ねぇなあ。どうせなくなる命なら使い方を選んでもいいな。
それもまた、自由というものだ。
「貴様ら!瀕死のお仲間同士で何をしている!」
さすがに様子がおかしいことに気が付いたらしい。
だが、伺うだけで近づいてこない。なぜだ?とあたりを見回す。
ルカは気が付いた。自身がすでに魔法陣の内側にいることに。
そしてセイラが指を動かして最後のピースを埋める。
「陣は完成した!さあ!宣言しなさい!”捧げる”と!!」
「さ、ささげるうううう!!!」
否応なしの強制力を感じた。強いものには屈折せよと体が覚えているのだ。
主に師匠から与えられた修行によって。
ああ、オレここで死ぬんだな。最後に見るのが女性の顔で良かった。
陣が光りだす。そして扉が現れる。
瞬間、脳内に流れ出す記憶の本流……!
そうだ、オレは……ルカの前はアダムだった!!
前世の記憶……アダムは罪人だった。
類まれなる治癒の魔術を授かった男は、それにも飽き足らずに
あらゆる方法で人体実験を行い更なる研鑽を積もうとした。
男は罪人だった。
犠牲となった人々の血縁者により、死の魔術と呪いを与えられることとなったのだ。
犠牲者を思う人々は神に願った。
「あいつを今すぐ殺してくれ!しかし、永遠と苦しむようにしてくれ!」
神は男を転生させ2度目の生を与えた。神はそれが正解だと選んだ。
「もう大丈夫だよ。疲労も飢餓も傷も頭痛の種もオレが治癒してあげる」
「なんですって?」
元気になったセイラが自身が大きな声で叫んだという事実に自身で驚いたようだった。
「なん、で?空腹がどこかに行ったわ……?」
「ヒッひい!」
ズドンズドンズドンと三発の爆音が広間に響く。
全弾命中。ルカは大けがを負った。
しかし、無かったことになったかのように立ち上がる。
「これは初歩的な治癒魔法さ。ただし、ちょっと精度が違うが」
ルカが指を振るうと、生徒会長は泡を吹いて気絶した。
「脳内の状態を操作した。これは応用さ」
さて、寮に帰ろうか。
「あんた、転生者だったのね」
「知らなかったの?ならなんで異世界の門を開いたのさ」
「死者と出会えるという噂があったからよ」
セイラの兄は戦争で死んだらしい。別れが悲しくて、会いたかったのだ。と言う事だった。
後日談:
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