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青春思い残し症候群


何気なくおすすめで表示されたYouTubeの動画を観て、私は戦慄していた。


それは「思い残し症候群」という、幼少期に親から十分な愛情を与えられず子どもとしての欲求が残ったまま大人になってしまった人々の映像であった。大人になった今でも母(父)に甘えるように抱っこされてヨシヨシされたい、哺乳瓶でミルクを飲ませてほしい、眠れるまで歌をうたってほしい…などという願望を持っているということである。幼少期に消化されなかった思いがずっと本人たちを苦しめているのだという。YouTubeの映像はその「思い残し症候群」という病名(?)をつけた張本人が、それならば今消化させてあげよう!俺が父になる!という内容であった。(すごく簡単な説明で失礼)


驚愕したのは、哺乳瓶で本当の赤ちゃんが飲むガチのミルクを飲む成人済み女性の姿。よくあんなクソマズそうなものを……というのもあるが、本当に赤ちゃんのようになってよく知りもしない男にミルクを飲ませてもらっているその姿があまりにもショッキングだった。しかしそれだけではない。自作のおむつを履かせてもらっているのだ。内診台にあがってお股を診てもらう立派な医療行為ですら恥ずかしいのに、見ず知らずのおっさんを父親だと思って思い切りお股を丸出しにしているのだ。信じられない。おむつ自作できるならトイレに行けと言いたくなる。

モザイク越しでもわかる明らかな成人女性が「とーと、おうたうたって」「だっこ!」などと、口調まで幼児後退しているのだからこちらが驚くのも無理はないだろう。「赤ちゃん返り」という言葉はあるが、れっきとした大人の赤ちゃん返りはなかなかのエグさがある。
しかも何度も言うが相手は出会ったばかりの見ず知らずのおっさんだ。どうしたらそんなに早く切り替えられる?その順応性は絶対に他で生かした方がいい。普通は出会ってすぐのおっさんをすぐに血縁者だとは思い込めない。これには出会って5秒で合体のAVもびっくりだろう。



性格が多少(?)捻くれている私は「思い残し症候群とかそれっぽい名前つけてるけど、ただのお前の性癖じゃねえか」と思いながらしばらく観ていた。この活動は夫婦で行っていたのだが、相談者が男性の場合は妻の方、女性の場合は夫の方が請け負っていた。そう、相手が必ず異性になるシステムなのだ。もうこの辺りから私は正直頭の疑問符を完全に取り払えなくなっていたが、とりあえず黙って観ることにした。

私の疑問をよそに、映像の中の男性、女性はとても幸福そうだったのだ。「ずっと求めていたことが叶えてもらえた」と話している。私は「ただの性癖じゃねえか」という気持ちを一旦引っ込め、出来るだけフラットな目で見て考えてみることにした。



確かにその時必要な経験や欲求などを然るべきタイミングで与えられなかった者は後の人生に後遺症を残す場合があるとは思う。幼少期にジャンクフードを一切食べさせてもらえなかった人が大人になった時に大爆発してアホのように食べてしまうことがあるらしい。その時食べたかった気持ちをそこで消化しているのだと思う。


そうすると、私にも似たような経験があるのではないかと思い始めた。私は両親の愛情を十分に受けてすくすくぬくぬく生きてきた身分だが、自分に当てはまるのは恋愛の部分である。


そう、私は「青春思い残し症候群」だったような気がする。


どういうことか説明しよう。



私に初めて恋人が出来たのは高校一年生の夏。色々説明をすると恐らく読者が飽き飽きしてしまうくらい長くなるので割愛すると「罰ゲームでおっぱい触らせて」から始まった恋なのである。厳密と言うとそこからではないが、今思えばあそこからもう私の人生は狂い始めていたような気がするのだ。


まあそんなこんなで付き合うことになるのだが、この彼は一切デートなどしてくれない男であった。初めのうちは私も「ねえたまには外でデートしたいな(*^o^*)♫」などと提案していたが、毎度「めんどい」と断られるので心はいつしか折れてしまった。しかし外デートが出来なくとも、心底その彼を好きだったのだ。どのくらい好きだったかというと、15歳から始まったこの恋を27歳まで引きずるくらいに好きだった。もうこれだけで十分に伝わったであろう。
なので青春真っ只中のその時は外デートをしてもらえないという問題は私の中で砂粒程度のものだった。


しかしその彼とは別れる事になり、その後の恋人とも長続きせず、彼を想い続けたり続かなかったりして、他の人を好きになったりしたものの恋人にはなれなかったりなんだったりで





気付けば私はアラサーになった。



こうして文字にすると地獄のような恋愛遍歴である。


要は「恋人」というポジションの経験値を積まなさすぎたのだ。アラサーになっていた私は、ここへきて今までの欲求が滝のように流れ出してしまう。

「恋人っぽい、いかにもなデートがしてみたい!」

「夜集合じゃなくて昼間に会いたい!」

「呼んだらすぐ来る女をやめたい!」



それは青春時代の恋愛から「性交渉のない私」に時間を割いてもらえなかった代償が重くのしかかっているかのようだった。私は、本当の私はずっと周りの恋人のようにデートをしたかったのだ。原宿でクレープを食べてみたかったし、学校帰りにプリクラを撮りたかったし、昼間に会って夜解散してみたかった。それまで全くなかったわけではないが、そういうものから長年遠ざかってしまった私はアラサーになって「これは大変だ」と思い立ち、自分をきちんと恋人にしてくれる相手と恋愛をしようと心に誓ったのである。


そんな思いで付き合う事になった元彼こそ、私が今世界で一番憎んでいる相手なのだ。


付き合っている頃はそれはそれはものすごく大事に丁寧に扱われ、私が死ぬほどやってみたかったデートを全部やってくれた。青春の思い残しを全部叶えてくれた。
このように書くと全く恨む要素がないのではと思うかもしれないが、そんな感謝の気持ちも全て綺麗にひっくり返したのだから相当な事をしたのだろうなと捉えてほしい。

とは言えあの頃は確かに、青春を取り返すかのような気持ちだった。思い残したものが私はたまたま恋愛だっただけで、両親からの愛情に恵まれなければこんな風に思い残した気持ちを他人に託してしまうことはあるのかもしれない。
ゾッとする映像ではあったが、わからないでもない。それに私の恋愛遍歴も人から見たら十分ゾッとされるものだ。何事も知ることが大事。偏見も決めつけも良くない。








そうしてふと気になってこの「思い残し症候群」を提唱していた岩月謙司氏は今どのような活動をしているのか調べてみた。






すると、しっかり猥褻罪で逮捕されていた。








やっぱりただの性癖じゃねえか。
犯罪者に一時でも寄り添ってしまった自分を心で殴った。


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