フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』


本書との出会いは、リチャード・J・レイン『ジャン・ボードリヤール』(塚原史 訳)において、「シュミレーション」「ハイパーリアル」といった概念を説明するために扱われていたことがきっかけである。
 本書は、人間と人型ロボット(アンドロイド)との肉体的差異が外見からでは識別できなくなる世界、あるいは人間も相手がアンドロイドか人間かも分からなくなる(自身がアンドロイドか人間も分からなくなる)、そんな肉体的に生物と機械が交錯した世界(ボードリヤールのいう人間がモノ化したハイパーリアルの世界)において著者は果たして「人間とは何か」という問いを読者に突き付ける。そして人間性の本質を共感力に求め、現存在の人間性とアンドロイド性の両儀性を描き出すこの著書は、もはや娯楽的なSF小説の域を超え、哲学書と言ってよいものであった。この書の素晴らしさは訳者のあとがきで既に述べられているため、ここまでにするがこの書を書店で手に取る人はあとがきで語られるディックの世界を読むよりもまずはじめから最後まで読むことをおすすめしたい。まずは新鮮な眼差しで本書を通読したのちに読む方が新たな認識を手に入れたことを実感できるはずである。まだ映画版を見ていないが、ディックの名を国内に知らしめたのは映画化された『ブレードランナー』だという。SF特有の世界観で描かれるさまざまな道具や雰囲気は小説だといまいち想像しがたい(これが逆に著者の本質的なメッセージを受け取るのに有効なのかもしれないが)ため、どのように描かれているか楽しみである。この本が半世紀以上前に書かれていることに驚愕したが、それよりも彼が示唆する世界が現実になろうとしていることに言葉にならない恐怖を覚える。
2023/02/20

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