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佐織企画『個と場』を観て読んだ人間の言葉

 2023年9月22日19時の回を観劇させていただきました。いや~楽しかった!「面白い」というより「楽しい」という感想が即しているように感じる演劇は久しぶりでした。気持ちいいセリフの応酬と役者の緊張感がビンビンの『四つ辻』と、役者の個性や創作のプロセスをそのままお皿にのっけてどーんな『個と場』。演劇好きが演劇好きのために作ったような作品だなと感じたし、演劇初めての人にもおすすめできる…。すごい…。

以下ネタバレ含みます。

佐織企画Twitter


 まず、開場に入ったときの照明がめーーーちゃ可愛かったですよね。撮影OKだったので撮ったのがトップの画像ですが、オレンジに光る電球がいっぱいぶら下がってるのと、天井にフライヤーの円があるのと、いつか光るであろうミラーボールがあって。客席は、フルフラットのどらま館に、三面客席の演技エリアがある。

場内上面図。

 演技エリアと客席の距離はゼロ。ここまで近いのも久しぶりですね。私は上手側の壁沿いに座ったのですが、客席に行くまでにちょっと舞台面入らないと行けない感じでした笑。

 音響は、環境音みたいな音楽みたいな…なんだか不思議な音がかかっていた記憶。違ったらすみません。開演するぞ~ってなると大体音響がぐっと大きくなって照明落ちて始まるんですけど、その音響の煽りがかなりゆっくりだった気がして。私はなんか始まりがぬるっとしてるのが結構好きというか、今回の公演のコンセプトと合わせて、あ~いいな~と思ってました。

 5分前に諸注意とかを主宰の佐織さんが出てきて言ってくれるんですが、そこで客席に置かれた小さい紙の説明が。なんと好きな言葉を書いてほしいと。中から劇中に使われるかも、と。えー!エチュードするんだ!いいなー!と思いました。私も書いたんですけど、全然面白いこと書けなかったんでほんと反省しました。

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『四つ辻』

 いつもまず作品のあらすじを引用すること、なければ書くことから始めるんですがこれに関しては確実なことが言えないので、ちょっと省略。私個人の解釈で行きます。

 そこは四つ辻の、イコール十字路の、横断歩道が四角く渡った真ん中ではなくて、百本目と百引く一番目の白線の間の、彼岸であり次元の狭間。そこで出会うは、学ランを着た18歳の綾人と、セーラー服を着た辻神様の綾子。綾人にとっての綾子とは、綾子にとっての綾人とは、何なのか。他人じゃなかった二人の出会いと未練と別れを描く、会話の応酬劇。

 以下、観終わった直後、電車でのメモ。

   母と子、生き延びた命と死んでしまった命

   運命の分かれ目、二重螺旋とDNA

   他人ではない、繋がっていた、へその緒

   赤い糸との勘違い、セーラー服と機関銃

   母の胎内と18歳になってから、2回交通事故

 言葉遊び、見立て、言い換え、すごく野田秀樹リスペクトを感じました。内容が社会問題とかじゃなく、あくまで一瞬の出来事、大きな物語ではなく私的な話だったからついていきやすく、事前知識もいらなくて、より佐織さんの顔が見えた感じがしました。そこが野田秀樹との違いですか?有識者…。ドラマチックに刹那が延ばされていく感じ、力業で空間時間にメスを入れて、点と点をつなぐ感じ、よかった~~です。好きでした。

 情報量が多かった~~~~!美術なしのシンプルな素舞台、衣装も赤い刺繍が入っている以外は学生服っていうこっちが処理する情報は少ないはずなのに、役者から入ってくる情報の多さに呑まれました。言葉、身体の動き、表情。それからキャッチするものが多すぎた。勢いも怒涛だし、一回置いてかれたら終わる感じしたな…。それがほんとにきもっちええのよ。キャベツの千切りのASMRあと、たいな感じじゃないですか?聞いたことないけど。セリフがダカダカダカダカ聞こえてきて耳が気持ちいいし、脳みそもフル回転してるのがわかって、これこれ~!って。

 照明は巧みでした。横断歩道嫌いな人いないんじゃない?クソでか主語を許してください。作る側も楽しかったんじゃなかろうか…。

 身体の動きが言葉によって操られるように、すべての意味に引っ張られるようにつけられていたのが印象的でした。言葉発信に見えて、でも二人の動きも確実にリズムを作っていて。視覚的にも気持ちよかった。それを支える照明がすげ~~~よかったです。テクニカルのことには詳しくないけど、すごいことが行われていた気がする。電球の点いたり消えたりが細かすぎた(これは友人談)し、三つのどの面からみても印象は変わるが美しいのは変わらない感じ…。あと、脚本のト書きにも脚本家から照明への信頼が見えますね。うーんさすが。

 音響は、正直演劇のBGMって難しいな~って思いました。今回に限った話ではなく。映像作品ほどずっと流れていない分、流れ始めると、あ~ここぞなんだねって冷めちゃうというか。音量も全体的に大きかったように感じて、好みによるけど、なんかもうちょっとやりようあったんじゃないかな…という感想です。効果音は気にならなかった、むしろ良かった気がするんですが…。これも客席によって聞こえ方にムラがあったら難しい課題かもですね。

 役者、私が拝見したのはAの方で、樺香[カコ]さんと川元優輝さんの回でした。

 私、もしかしてこの二人大好きなんじゃない?メルスもよかったのよ~~~。顔がまずかわいい。そんでもって呼吸もいい。身体の鍛錬の賜物だと思いますが、スローの動きも速い動きも質が近いのが、この演出と二人の血縁設定を成り立たせていると思いました。
 川元さんの一音目、いいですよね~~~。声質。丸いのに通る感じが、大きい声でも耳がびっくりしない不思議。長台詞ばっかりなのに、客席の集中力を切らせないぞという気概を感じました。
 かこ括弧カコ括弧閉じさんは、やっぱり芝居の勘がいい~。ちょっと滑舌というか、セリフ回し速足過ぎる気がするところもあったけど、「よつつじ」という「つ」が連続する言いにくいのに頻出する単語をめちゃくちゃちゃんと言っててひ~~ってなりました。あの~、樺香さんの、伏し目がちにニヤッとしながら振り返る表情好きなんですけどこれわかりますよね?


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『個と場』

 『四つ辻』の最後のセリフが終わって、綾人がはけていく、その動線をすれ違うように佐織さんが出てきて、「いい感じの芝居がいい感じで終わったところでごめんなさい」とか言いながらぬるっと始まったこの作品。まだ四つ辻をかみ砕きたいのに!休憩ないんですか?!まだ辻にいるんですけど私は!とちょっと思ったけど、でもなんか喋ってるから無理やり切り替えて(これも演劇体験として気持ちいい)、話を聞きました。

 主宰、佐織さんの話から、これからのシーンが顔合わせの記録の再現であることがわかる。実際見ていると、会話に確かにセリフにしづらいような喃語が出てきたり、身内ノリ感のある内容だったりする。制服着てて、学校の椅子と机を使ってるから、高校の教室にいつものメンツで集まってる感がすごい。かわいい。台本には、このシーンは「〇はじめるとはじまる」と書いてある。そうだよね、ここから始まるね、稽古って。

 みんなの好きなシチュエーションの言葉が、順々に舞台上に立ちあらわれてくる。これは、実際に役者から好きな言葉たちを集めたのだろうか?演出が演劇的で、キュートでした。机の上歩いてくの、好きでした。

 あ、SNSの言葉のときにミラボールが満を持して降りてきて(降りてきて!)、回り始めて(回り始めて!)、照明卓の照明さんが横揺れしてて(横揺れしてて!)、うーーんかわいいねってなりました。ラップもっとガチで聞きたい。

 そんなこんなでなんだか笑えて、ケタケタみんなの声を聴いていたら、周囲の顔が見える、いつのまにか客電がついててびっくり。『四つ辻』のときも見えていたけど、それは舞台の照明のせいだったから、こんなに自然に客電がつくのか…気が付かなかった…。これがぬるっとした始まりとか、芝居の影響なのかなと思いました。

 エチュード始まった途端に役者同士の身体接触が増えて、緊張するよね~って思ってニコニコしました。このシーンに関しては、斎藤真菜香さんの一人勝ちでしたね。面白かった…。なんでだろ、羨ましい…。あとマッギョ。

 場当たりのシーン、無いシーンの場当たりが一瞬で終わっていって、照明さんがいちいちいらん提案してきて、急にボケまくるからサイコーでした。ああいうの大好き。

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 とまあいろいろ書いてきて、ふと、制服である意味は何だったのかな?と考える。『四つ辻』の設定が高校生だから?『個と場』で立ち上がるシーンが過去の記憶をもとにしているから、大学生の現在から過去ってことで制服着てるのかな?とか。でも多分制服じゃなくても成り立って、あっと思い出したのは赤い刺繍で。男女でそれぞれ違うパターンが入ってて、それが何というか、縁を連想させて、赤い糸的な。その一点で『四つ辻』と『個と場』は繋がっていたのかな~なんて。いや、意味なんてないのかも。不条理かな。うん。不条理だわ!なあ!!!

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 はい。長くなりました。ここらへんで失礼します。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

瀧口さくら

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