今年の「ピクセルアートコンテスト」開催見送りとその経緯

シブヤピクセルアート2023の開催方針

今年のシブヤピクセルアートは、2017年から毎年開催してきた『ピクセルアートコンテスト』を一旦お休みし、コロナ禍には実現できなかった交流イベントや多箇所でのアート展示を中心に開催いたします。ここでは、そのような方針に至った経緯や主催者の想いについてお話ししたいと思います。

これまでのお礼

まず、初めに、今年のピクセルアートコンテストについて「いつ開催されるのか?」「開催されたら、必ず応募する!」など、国内外問わず、多くのお問い合わせやご期待をお寄せいただいていること、心から嬉しく思います。

このように、2017年に試験的に始まったこのコンテストが、回を重ねるごとにピクセルアート界隈の方に(それ以外の方にも)広く認知され、今では世界20カ国以上から素晴らしい作品が集まる国際的なコンテストにまで成長できたことは、主催者冥利に尽きます。

これまでコンテストにご応募いただいた皆さん、限られた予算にも関わらず快く審査員をお受けいただいた皆さん、そして、僕たちのイベントの理念に賛同しご支援・ご協力いただいた企業や団体の皆さん、素人が始めたコンテストをこれまで応援してくださり、本当にありがとうございました。

コンテストの開催を見送った本当の理由

さて、今回のコンテスト開催の見送りは、これまで6年間継続してきた流れを止めることになり、皆さんのご期待にも沿うことができず主催者としても大変心苦しい状況です。ですが、このタイミングで、僕たちがこれまでに感じてきた「コンテスト運営の難しさ」を皆さんにも共有し、広く理解や意見を求めながら、今年のイベントの開催や来年以降のコンテスト再開(現段階では来年やるかまだ判断がついていませんが)につながればと前向きに考えています。

理由1:人手不足と資金不足による運営難

シブヤピクセルアートは、実行委員会のメンバー3名を中心に、ピクセルアートやアートに関心の高い有志が集まり運営してきました。これまでには、皆さんがよく知るピクセルアーティストが実行委員会のメンバーや外郭メンバーとして構成されたこともありました。もちろん、アート作品の展示や表彰式の運営、ウェブサイトの制作など、様々な方々にご協力をいただきながらこれまで実施してきましたが、それ以外は、ほとんど実行委員会のメンバーがこなしてきました。実行委員会のメンバーは、例にもれず、全員が本業の傍で、このコンテストやイベントの運営を行ってきました。

コンテストは、2ヶ月の応募期間だけでなく、半年前から準備が始まります。準備期間には、コンテストの応募概要や審査基準を固めたり、スポンサー企業に提案したり、審査員にオファーを出したりしています。「コンテストが盛り上がるために必要なことは何か?」「どうしたらアーティストがモチベーション高くコンテストに応募いただけるか?」など、様々なことを議論しながら進めてきました。
 
応募締め切り後も、全作品のデータ入力やスクリーニング、審査会や結果発表、表彰式、コレクションブック制作に至るまで、準備期間を入れるとおよそ10ヶ月のプロジェクトになります。本業の繁忙期と重なると、思い通りに計画が進まないことも多々ありました。
 
その一方で、コンテスト運営は支出がほとんどで、収入源は協賛金に頼るのみです。コロナ禍のここ数年は、十分な協賛金が集まらず、物品や場所の提供を協賛に代えるケースも少なくありませんでした。ですので、多くの協賛企業が並んでいますが、実態は資金面で大変苦しい状況でした。

そんな中で、審査員の皆さまには十分な謝礼もお支払いできず、1次審査、最終審査、表彰式への参加をお願いしていました。もちろん、文句を言う方はいませんが、主催者としては、とても心苦しかったです。

理由2:ピクセルアートをどう定義し、どう審査するか

正直に言って、現在の「ピクセルアート」は欧米のそれと異なり、その意味や定義はとても曖昧です。

僕たちのコンテストも「Pixel Art(ピクセルアート)という言葉から受ける個々の解釈に基づき自由な発想で応募してください」と規定し、これまでも「これは、果たしてドット絵なのか?」と思われる自由な発想の作品が優秀賞に選出されてきました。

その一方で、SNS形式のコンテストゆえ、本来の作家の制作意図を完全に汲み取ることができず、評価・審査する部分がありました。その場合、審査員のコメントを受賞者にどのように届けるべきか、またどう届けて行けば良いのか、いつも悩まされていました。
 
また、昨年のコンテストは最優秀賞を選出するのに大変苦労しました。11名の審査員による最終審査会(残念ながら、ロシア出身のwaneellaさんの参加は叶いませんでした)は、大幅に終了時間をオーバーし、最終的には2つの作品から多数決で1つの作品を決めることになりました。
 
本来、アート作品の良し悪しは、多数決によって判断されるものではないと考えています。なぜならばアートの評価は主観的であり、個々人の背景、文化、経験によっても評価が異なるからです。なので、熟議を尽くしたとは言え、多数決を取ることは避けたかったと言うのが本音です。いや、本当は「最優秀賞を一つ選ぶ」ということ自体がそもそも間違っていたのかもしれません。

理由3:ある種の義務感やプレッシャーによる苦しさ

6年もコンテストを続けていくと、コンテストの応募数やRT数など数字でその規模感を測れるようになります。直近2年間はコロナの影響もあり、制作時間が増えアニメ作品などの大作も多く集まる一方で、応募点数は減少傾向にありました。

また、回を重ねるごとにコンテストはパターン化し、同じ方が何度も受賞する傾向が強くなっていました。僕たちが考える理想のコンテストは、毎年応募者が増え、受賞者の顔ぶれもガラリと変わる、そういうものを期待していました。ですので、応募総数が増えたとしても、過去に受賞歴のある方が何度も受賞されるのは望ましい結果ではありませんでした。

これらが良いか悪いかは別として、僕たちの中には「コンテストを継続していかなければならない」というある種の義務感や「なんとかいい結果を出さなければいけない」という見えないプレッシャーが常にあり、それらに押しつぶされそうになっていたのです。
 
さらに、もともとコロナ前には、コンテストはイベントの前哨戦であり、メインは渋谷の街を舞台にしたアート展示と考えていました。しかしながら、コロナ禍のイベントでは行動制限が多く、思うようなイベントができませんでした。特に、ピクセルアートを鑑賞する機会も限られており、作り手の作品に深く感動し、鑑賞者がピクセルアートの魅力に浸る場面もたくさん作れなかったと振り返っています。そして、いつしか「シブヤピクセルアート=ピクセルアートコンテスト」と受け止められていたかもしれません。

そこで、今年は、2018年に掲げたような鑑賞者の「リアルな視覚体験」に軸足を置き、アーティストの表現を深掘りし、鑑賞者を魅了する展示機会を極力増やしていければと考えました。

「ピクセルアート」とその可能性
「ピクセルアート」は、コンピューターの機能的な制約のもと生まれ、現在でも表現技法のひとつとして愛されている。本来、ピクセルアートの一般的な定義は、「画像を構成する最小要素としてのドット(ピクセル)が視認できる程度の解像度で描かれた作品」または、「升目に色彩を配置し構成される画像」とされる。

一方、現在の「ピクセルアート」は、従来のものから拡張解釈されており、もはやゲームやアプリの画面の中の表現にとどまらず、イラストから刺繍、アクセサリーに至るまで幅広く展開されている。今や、表現技法としての「ドット絵」から、「ピクセルアート」という視覚的解釈へと変わりつつある。

そこで、本イベントは、文字通り「ピクセルアート」を「アート」として解放し、その視認体験の中にある異質感、平面性、色彩に着目し、その本質や内部に迫ろうとしている。

その意味において、技術の進歩に伴って解像度が上がる最先端のデジタルアート(一般的に、滑らかで、直感的で、更新性の高いもの)とは対照的な部分を浮き彫りにし、機能的な制約がなくなった今でもなお多くの人を虜にする「ピクセルアート」の魅力を紐解きたい。

かつて、印象派のクロード・モネはとなりあう2つの色が「眼の中で溶けあう」こと(視覚混合)に着目し、光を表現しようと試みた。また、ポップアートの巨匠、ロイ・リキテンスタインは、印刷インクのドットを忠実に油絵で再現し、その視覚効果を種明かしした。「ピクセルアート」は、本来画面の向こう側にある光(色情報)で構成されたイメージであるが、具体的な部分をぼかして記号化し、限られた色彩によって見る側の想像を掻き立てる。
そうした視覚体験を、本来の「デジタル画面の世界」からリアルな街に引っぱり出すことで「ピクセルアート」を新しい体験として昇華し、「ピクセルアートとは一体何か」ということを改めて問いかけ、「ピクセルアート」の可能性を考える機会になればと考えている。

なお、本イベントは、機械的で制約的な「ドット絵」を否定するものではない。むしろ、「ドット絵」を肯定し、「アート」としての可能性を追求する。「渋谷」で開催される意味も、ここにある。多様な価値観を受け入れ、新しい価値や可能性を創造につなげるという意味で、この街を開催地に選んでいる

シブヤピクセルアート2018 / 開催にあたり

最後に

9月に開催予定のイベントでは、これまでとは異なる形式でイベントを企画・運営していこうと動いています。とはいえ、依然としてスタッフ不足は続くと思いますので、「ボランティア/アルバイト」をベースで僕たちと一緒にイベントを盛り上げてくださる方がいらっしゃれば、ぜひシブヤピクセルアート実行委員会(shibuyapixelart@gmail.com)までご連絡ださい。

また、9月のイベントでは、アーティストが主体的に企画する個展や展示なども積極的に支援できればと考えています。すべてが実現できるか分かりませんが、ご興味ある方はシブヤピクセルアート実行委員会までご連絡ください。

拙文ながらお読みいただき、ありがとうございました。引き続き今後のシブヤピクセルアートにご期待いただければ嬉しいです。


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