見出し画像

【小説】chapter9 スポーツショップにて

 水族館を出て大通りを二人で歩く。エミさんが近くのスポーツショップに入ろうと言ってきたので
 
「エミさんってスポーツとかするんですか?」

とちょっとからかうように質問する。自分と同じようにインドアな雰囲気を醸し出すエミさんがスポーツをするところなんて想像できない。

「彼氏の趣味がバスケなんだ。自分はやったりしないけど、たまに一緒に観に行ったりするよ〜」

急に知らされた彼氏の情報に胃がグッと持ち上がる感じがする。畳みかけるようにエミさんが言う。

「実は明日、カレの誕生日で……一緒にプレゼント選んでくれない?」

それって断る選択肢は僕にあるんですかと言いたくなった。ここでイヤですって言うのはあまりにも子供っぽい。

「もちろん、いいですよ!」

 全く縁のないスポーツショップは自信家な男の甘い匂いがする。エミさんの彼氏もそんな匂いがするのだろうか。僕はといえば塗料と本の香りが染み付いてる気がしてる。そんな僕だから何が彼氏の好みなのかはわからない。何がいいかと聞かれて腕時計とかいいんじゃないですかと適当に答える。腕時計が欲しいのは僕の方だ。
 そう言われてエミさんはなるほどと言う顔をしてド派手なピンクのG-SHOCKを選んだ。彼氏はそういうのが似合う男なのか。僕はその隣のネガティヴ液晶の方が欲しい。

 プレゼントを一緒に選んでくれたお礼にとエミさんはタピオカミルクティーを奢ってくれた。初めて飲むその飲み物は美味しかったが想像を超えてくるようなものではなかったし、味わって飲めるような気分でもなかった。

「この後、新幹線でカレの研修先に行くんだ」

「そうなんですね」

「改札の所まで送ってよ」

「はい」

 多分、あからさまにガッカリした顔をしていたんだと思う。エミさんが不意に体を寄せてくる。

「また、どっか遊びに行こうね。東京に帰ってきたら連絡するよ」

「はい。連絡待ってますね」

「うん。今日はプレゼント、一緒に選んでくれてありがと」

「いえいえ」

 お店を出て、駅に向かう。人混みの中をゆっくり歩いて改札に着いた。特にお互いに何か話すこともなく、じゃあねと言って手を振って別れた。ふと、プレゼント高かったなと思い出す。ああやってお互いの誕生日や記念日にプレゼントを送りあったり、サプライズを仕掛けたりしてるんだろう。こまめに連絡もして、週末には新幹線に乗って会いに行ったりもする。ちょっとめんどくさいなと思った。
僕は恋愛と言うガワに満足しているだけで中身は伴っていないのかもしれない。見た目だけ綺麗に見えるけど中はがらんどうなんだろう。この間作ったエンジンの入ってないスポーツカーのプラモデルを思い出した。

つづく

この物語は全てフィクションです。 

よければサポートお願いします。いただいたサポートでおいしいものを食べたいです。