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アトツギの挑戦#9「3代目は一人じゃない」3姉妹でつなぐ八女茶のバトン

新規事業や組織改革に取り組む筑後地区のアトツギ経営者にフォーカスする「ネクストリーダーズ」
第9回は全国に誇るブランド茶・八女茶を、地元から全国各地に届ける製茶店です。
これまで、毎回1人の主人公にフォーカスしてきた当コーナーですが、今回は少し違ったアトツギの形です。



力を合わせて経営に取り組む

(4月14日 岩崎園製茶Instagramより)

「こんにちは長女です」
茶畑の青々とした新芽を動画で発信したSNSの投稿。
岩崎園製茶(八女市)の3代目・平井恵美さんが自ら足を運び撮影したもので、収穫を間近に控えた茶葉の生き生きとした質感が印象的だ。
別日の投稿では・・・

(4月14日 岩崎園製茶Instagramより)

「次女です 先日お客様からお電話がありました」
こちらは、妹の緑さんが自社でセレクトした茶缶を使い企画したギフトについて紹介したもの。
緑さんも、恵美さんと同じく岩崎園製茶の「3代目」だ。
ここに東京在住の三女・利絵さんも加わり、岩崎園は「3姉妹家族が3代目」というユニークな事業承継の形を掲げている。

恵美さん
「3姉妹家族で力を合わせて取り組むことで、お客様により温かみや親近感を感じていただけたらと考えています」

その言葉通り3姉妹が協力し合い、新たなブランディングに取り組んでいる。
まずは、そんな岩崎園の特徴について見ていきたい。


確かな品質を、通販で広く届ける

九州を代表する日本茶の産地・八女市。
創業74年の岩崎園製茶は、中心地から程近い国道3号沿いに店を構える。
https://maps.app.goo.gl/5wMtk1dCVtMpnxF59?g_st=com.google.maps.preview.copy

岩崎園の特徴を3つのポイントで見ていきたい。
①ひと味違う「マイルド」なコク深さ
岩崎園のお茶は、「まろやかだけど後味さわやか」
お茶本来の程よい「渋味」と、八女茶特有の「甘味」の両方を活かした「コク深さ」が特徴だという。
変わらない味を全国のファンに届けるため、茶師と職人が伝統の味を守っている。

②いち早く通信販売に着手
多くの茶屋が個性を発揮する八女の地において、岩崎園は早い時期から「通信販売」に取り組んできた。
お茶においてはまだ直販が一般的だった1980年ごろ、顧客に対して季節ごとに手書きのチラシを封書に入れて送り、注文を受けるようになったのが始まりだ。

平井良太専務(恵美さんの夫)
「日本で通販は流行らないと言われていた時代に、2代目(現園主)が取り入れました」

2000年代に入るとネット通販もいち早くスタートさせた。
現在も直販の店舗は工場併設の1か所だけで、売上のほとんどを通販が占めている。
※自前のECサイトのほか、電話、FAXでも注文を受け付ける。

③オリジナリティのあるデザイン
品質だけでなく、オリジナリティのあるパッケージのデザインも特徴の一つ。

「和モダン」や「昭和レトロ」をキーワードに、お土産や贈り物としても喜ばれるような特別感のある茶缶が人気となっている。

ここがまさに、岩崎園に新たな価値を付与すべく3姉妹が取り組んでいる分野である。


3姉妹の役割

2代目・昭文社長の後を継ぐ3姉妹家族が、それぞれの担当分野で事業を支える岩崎園。
主な役割を聞いた。

恵美さん(長女)
2017年、家業に入る。会社のHPやECサイトのデザインや更新を自ら手がける。
夫の良太さんと共に経営企画・商品開発も担う。

緑さん(次女)
2018年、岩崎園へ。主に経理を担当。経営企画・商品開発も担う。

利絵さん(三女)
服飾系の大学で学んだ後、ファッション業界へ。その後自らの着物小物ブランドである、「ヰロハ狐」を立ち上げる。
東京に拠点を置きながら、岩崎園の商品デザインの監修を担当。


通販に取り組むからこそ分かるデザインの重要性

恵美さん
「ECサイトに取り組む中で、最初に“見映え”で引きつけないと、新しいお客様にご興味を持ってもらうのはなかなか難しいと感じました。
センスが良いけどおしゃれ過ぎず、昔からの文化も感じられる。温かみのあるパッケージを目指しています」

通販をメインに八女茶を売っていく中で、3姉妹は「品質と同じくらいデザインが大事」という信念を持ちながらブランディングに取り組んでいる。

新商品の開発に当たっては、三女の利絵さんのデザインが力を発揮する。
お茶と着物の客層は共通する部分も多く、その点でも利絵さんの意見は3姉妹の指針になっている。

緑さん
「姉妹だから『これは変だよ』とか、はっきり意見が言い合えるのもいいところです」

季節ごとのキャンペーンを積極的に仕掛け、それに合わせた新たなデザインを生み出すことで、3姉妹は家業をアップデートしてきた。


店舗で買い物をしているような温かさ 

取材の中で恵美さんは「温かさ」という言葉を度々使っていた。
岩崎園では、電話を受ける際などに「対面で接客しているような丁寧な対応」を心掛けてきたという。

事務的に注文を受けるのではなく、リピーターの顧客に対しては過去の購入履歴を参照しながら、一人一人に応じた会話を大切にする。

一方で、ネット注文が増え、顧客と言葉をかわす機会が減っていくことが予測される今後は、SNSも活用しながら「岩崎園の温かさ」を発信していきたいと考えている。

2021年のインスタ投稿。「3姉妹家族が当園を引き継いでいきます」という言葉を添え、初めて家族の集合写真を公開した。長年のファンからは「跡取りさんがいて安心した」と、好意的な声が多く聞かれた。

緑さん
「SNSを通して、若い人にもお茶が浸透するよう、手軽に飲める方法を動画などで伝えていきたいです」

恵美さん
「(この数年)ECサイトを伸ばすためにインスタに少しずつ力を入れてきましたが、結果的に直接の来店につながるケースもありました」

コミュニケーションや購買の手法が変容していく中、岩崎園は70周年(2021年)のタイミングで初めて役員家族の写真をSNS上で公開した。

それまでは「主役はあくまでお茶」という考えのもと、表に立つことはほとんどなかったが、現在は遠方の顧客にも「中の人」を知ってもらおうと、少しずつ発信の機会を増やしている。

八女茶の文化と品質はそのままに、3姉妹のアイデアで岩崎園製茶は新たな輝きを放ち始めている。

岩崎園製茶のHPはこちら!
https://www.iwasakien.com/

モトムットは筑後地区で新しいチャレンジを続ける企業を応援しています。


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