十月の朝香

目醒めるときはいつも喧騒であった。もううんざりしていたが酷薄な私はひらくことしか許されなかった。しかし毎朝恐る恐る覗いても"削除されました"と刻まれているだけだった。


冷たい柱に括りつけられた私は焦点の合わない瞳を憎んでいた。だが祈った。両手首を支えている薄い布はやわらかく縛り方もゆるいので一人で解くことは易かった。地に戻り微笑みながら膝の上で布を畳む自分は一体何に見えるだろう。


陽の光がよく当たりますようにと窓を開け放されて落胆した。朝ごはんは何処にあるのかと問うても音を立てて戸を閉められることが連続する。這いつくばり草を引きちぎり数メートル進んだ後振り返ってみた。跡は歪み泥が混じっていて汚らしかった。


松葉杖をついている少女のような少年に「綺麗な花は咲いていますか」と言いながら傍にしゃがむと彼は右手に持っていた杖で私の頭を思いきり殴った。怪我をしている者とは一切口をきいてはいけない契約をしていたからだ。


誰もいやしない。捨てられゆくもの。在りし日の。

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