見出し画像

事業会社が自ら Vertical SaaS を作ると最強

医療、建設、不動産、教育などの特定業界向けに開発した SaaS は Vertical SaaS と呼ばれます。今回はそんな Vertical SaaS は、その業界に元々いるプレイヤーが立ち上げられるととても良い、ということを書きます。


なぜ最強か

スタートアップが社会課題を見つけそれをプロダクトで広く解決しスケールする状態までの道筋をスタートアップフィットジャーニーと呼んだりしますが、各ステップにおいて「プロダクトを作るのは事業会社自身」であることは様々な面で有利になります。

課題は自分自身が持っている

スタートアップはまず顧客を見つけ、その課題を解決できないか試行錯誤を繰り返します。どれだけ強い課題かそれを解決したときのインパクトがどれだけ大きいか、顧客とのヒアリングを繰り返す中で探ります。
この着目するべき課題をバーニングニーズと呼び、スタートアップはこれを見つけるために仮説を立て、質問事項をまとめ、顧客と対話します。

事業会社では日々主たるビジネスを繰り広げる中で自社が抱えている課題は常に目の前に存在しています。当たり前すぎて強く意識できていないこともあるとは思いますが、その課題がどの程度大きく、解決がどれだけ自社の業績に良い影響を与えられるかは誰かに聞くまでもなく認識することができます。

このように自社の課題を解決するという至ってシンプルな考え方ですが、そこに SaaS の横展開という意識を持つだけで大半のスタートアップがまず苦心する初期フェーズを完了することができます。

同業他社とのパイプ

SaaS を展開していく上でかかせないのは初期フェーズから協力してくれる複数の顧客です。業界全体でどのような課題があり、どのようなソリューションをどこまで平準化することが全体最適につながるのか。そういったことを判断するためには、インタビューに答えてくれたり製品にフィードバックをくれる顧客と巡り合う必要があります。

事業会社がその業界内で SaaS を立ち上げるのであれば、すでにある業界内の横のつながりをたどって協力者を探しに行くことができます。
スタートアップではそういったツテが無い状態でコネクションを探しに行くのでとても大変だったりするのですが、それも比較的楽に(自然に)クリアできてしまいます。

とは言えここも複数の同業他社を巻き込まないといけないかというとそうでもなく、それについても以下で記載します。

自社向けソリューションが MVP (プロトタイプ)になる

スタートアップではまず MVP(Minimum Viable Product)、つまり最小の機能で顧客の問題を解決できるプロダクトを作り、周辺の肉付けは後から実施しようという考え方があります。
事業会社であれば課題とその解決方法がわかったら、同業他社へのヒアリングなどなしにいきなり解決のための仕組み(システム)を開発し、その仕組みで自社の業績を改善する ということにいち早く着手してしまってよいと考えます。
というのもそもそも事業会社にとっては自らのビジネスを良くすることが最も優先される事項ですし、もしその解決策が自社固有のもので横展開できなかったとしてもそれは SaaS として展開することをやめるだけで、それ以上の損失はありません。

さらに、製品を展開する上でスタートアップはよくモックアップと称した紙芝居のようなものを描き、それを顧客に見せながら説明します。しかし上記のようにすでに自社で仕組みを構築できている場合、その動いているシステムをそのままプロトタイプとして顧客にプレゼンすることができます。

事例

実施に事業会社が自社の課題解決を仕組み化し成功した事例を紹介します。

iXacs

設備にセンサーを取り付けてトヨタ生産方式(TPS)に基づき稼働状況を可視化、改善活動に必要な人手を大幅に削減し改善効果を出しやすくするサービス。
社内で効果が出るのに 3 ~ 4 年かかったとのことで、通常のスタートアップの場合そこまで時間をかけて顧客と課題と解決策の検証を行うのはかなり難しいと考えられます。

陣屋コネクト

もともと家業の老舗旅館の立て直しのために構築したシステムを外販したということで、その創業ストーリーは 【第7回放送】株式会社陣屋の事業承継 - YouTube で詳しく知ることができます。
旅館の業務は全てがつながっていて、それぞれの現場や従業員、顧客の情報や状況をつなぐことで業務効率を改善したということですが、このように広範囲の業務を管理する全社システム(ERP)の開発はなかなか外部のスタートアップには難しいことだと考えられます。

EBILAB

伊勢ゑびや食堂を経営する中で様々な要素を数値化・見える化し、それを元に日々の店舗運営上の意思決定精度を上げるという取り組みからスタートしたプロダクト。
データを元に施策を展開し、さらに情報管理のありかたもブラッシュアップしていくという流れは事業会社だからこそ実現できたサイクルだと考えられます。

まとめ

ということで今回は事業会社が自ら SaaS を作ると最強ということを書いてみました。自社の事業改善や改革を進めた先に外販がある、というしごく当たり前の流れではありますが、もし自らが事業を運営している方の目にこの文章がとまれば、自社の仕組み化ができないか考えてみてもらえると嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?