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#8 世界初の法則 - 一番手だけが手に入れることのできる力

みなさんは最近、腕時計をしていますか?私はコロナ前までは機械式のものをしていたのですが、リモートワークやスマホ生活の中で、「腕時計ある生活」をすっかり忘れてしまいました。むしろ最近はApple Watchをしている人が多いので、その誘惑を抑える毎日が続いています。

ところで、世界初の腕時計はいつ、どこで生まれたか、ご存知でしょうか?そのルーツはさかのぼること200年以上前のフランス・パリ。時計職人で、のちにその名前がブランドとなった「ブレゲ」にあると言われています。

(以下ブレゲのWEBサイトより抜粋)
パリのケ・ド・ロルロージュに構える時計師ブレゲは、1810年にナポリ王妃のための時計の製作に取り掛かりました。それはまさに、腕に着けて使うように考えられた時計でした。すなわち、世界初の「腕時計」とされるものです。
https://www.breguet.com/jp/歴史/年表/年表/世界初の腕時計#

ブレゲは今もなお、腕時計においては至高のブランド力を誇っています。伝統や格式がカギとなる宝飾品においては、この長い歴史や創成期のエピソードは、模倣しようとしてもできない「唯一無二のブランドストーリー」になるからです。これは「世界初」だったブレゲに限ったことではありません。パテックフィリップ、A.ランゲ&ゾーネ、パネライ、オメガ、ブライトリング… 欧州のブランド腕時計には、多かれ少なかれこういった唯一無二の物語があるように思います。人は腕時計そのものだけでなく、その裏にある物語ごと買っている、あるいは身につけている、と言えるのかもしれませんね。

ちなみにガソリン自動車の「世界初」は、言わずと知れたメルセデス・ベンツ。その祖であるカール・ベンツが1886年に開発した 「ベンツ・パテント・モトールヴァーゲン」だと言われています。

ベンツ・パテント・モトールヴァーゲン (1886)

屋根もなく三輪。今なら観光スポットの人力車としかお目にかかれなさそうな躯体をしていますが、そのパワートレインが、長らく人間を引っ張ってくれてきた「馬」でないという点は、当時においてはセンセーショナルな出来事でした。(余談ですが、自動車のスペックにおいては今もなお「馬力 = horsepower」が使われています) メルセデス・ベンツはその圧倒的な先駆者の歴史を活かしながら、現代史においても自動車の王道をひた走っています。本物・本格・本質 -「本」という字がつくような世界においては、創世記を形作る物語に、人は憧れや尊敬の眼差しを向けるのです。

そう考えると、日本人が生み出した「世界初」って、最近元気がないように感じます。「ウォークマン」はいつのまにかiPodやiPhoneに取って代わられてしまいましたし、「新幹線」は安価な中国のシステムに入札で敗退、「マンガ・アニメ」も著名な作家の訃報などで次世代に移り変わり始めてしまったり… ブランドとは「イノベーションの後にそれが神格化され、築かれていくもの」だとするならば、とてももったいないことのように思います。

日本から、世界初を生み出す。それこそが小手先のブランディングよりも、まず大切な第一歩なのかもしれません。

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