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『人事評価の誤謬』~人事評価を適切に用いるために~

こんにちは。
モチベーションLAB所長の吉川和利です。
今回のテーマは「人事評価」です。

人事評価の結果を何にどのように用いるかは企業によって様々だと思います。
一方、その使い方は経営やマネジメントの志向・方向性に照らして決めなければなりません。


人事評価の存在意義

マネジメント研修の際などで、「人事評価は何のために存在していますか?」という質問を投げかけるようにしています。
基本的には「人材育成のため」や「目標達成のためのツールとして」という答えを期待しています。
そして、そういった答えをしてくれる受講者は多いと感じています。

また「昇給や賞与査定のため」という声も少なくありません。
人事評価に基づき昇給させたり、賞与の査定には人事評価を用いるという考え方は合理的であり納得性もあると思います。
ただ、これはこれで間違いではないではないのですが、あくまで「昇給や賞与査定に用いることができる」という程度だろうと思います。

一方、「人事評価は昇進・昇格・任用を決定のために存在している」という理解をしている人も一定数います。
しかし「昇格や任用を決めるために評価を行う」となると、それに対しては異なった意見を私は持っています。
なぜなら、「昇進・昇格・任用」と「人事評価」とは本来は直接の関係にはないと思っているからです。



人事部の見方

例えば、係長として素晴らしい能力を持ち、抜きんでた素晴らしい成果を上げた人がいたとしましょう。

もう係長としての経験も十分で、周囲もそろそろ管理職(例:課長)に昇格任用されるのではないかと思っています。本人もその期待感で一杯のようです。

しかし、こういった場合でも人事部の見方は異なります。人事部では、一般的にはこういった見方をするはずです。

  • 係長としての能力が十二分に備わっているところは衆目が一致するところであり、これにより一定の成果を上げているところは称えられるべきだ。

  • しかし、そのことに対しては、昇給や賞与で報いている。

  • 課長に任用するためには、課長のスキルや適性を持っているかを見極めないといけない。


管理職に求められるスキルや適性の全てを事前に備えていないと任用しないということでもありませんが、少なくともその入口に立っているかどうか位は見極めないといけません。

中学校を卒業できても高校の入試をパスしないと高校生になれないのと同じで、昇格や任用の際にはその「入学試験」をパスしなければならないのです。


コカ・コーラでの事例

企業によっては、昇格試験や昇格アセスメントのような仕組みを設けているところもあります。
私が勤めていた会社(コカ・コーラ)では、「管理職アセスメント」という仕組みがあり、「管理職としての能力と適性の見極め試験に合格する」ことが管理職任用の条件でした。

そのアセスメントの受験資格は「近時2~3年間の高い評価」と「部門の推薦」により得られます。
ただし、これはあくまでアセスメントを受けることができる条件に過ぎません。

「近時2~3年間の高い評価」はあくまで現職位(係長)の卒業条件であり、
管理職に任用されるには、アセスメントという入学試験をパスすることが必要だというルールは、合理性と納得性がありました。
また、アセスメント合格を目指す受験者にとっては、日々の自己研鑽への取り組みにも繋がったと認識しています。

コカ・コーラの事例ほどではなくても、「その人は管理職として相応しいか」は、過去の人事評価とは別の判断基準に照らして決めるという仕組み・ルールの会社は多いと思います。


部下と本人自身のために

一方、このようなアセスメントへの取り組みは、任用の自由度の妨げになるという意見もあるようです。
「アセスメントの結果だけでは基準に到達できていなくても、誰もが管理職としての実力はあると認めている」
「〇〇を管理職に任用して報いてあげないと、○○のこれまでの功績に報いることができない」

私が人事部で仕事をしている時、管理職候補者の上司(役員クラス)からこのような陳情を受けたことは数知れません。

年功序列型人事制度の場合、一般職から主任職、主任職から係長職くらいまでは、過去の評価の積み上げで任用していくことに一定の合理性があると思います。またこういった施策は一定の納得性もあるでしょう。

しかし、管理職となると事情が異なります。
労働者から使用者に立場が変わりますから、知っておかないといけないこと、やってはいけないことなど、一定の知識レベルや、高い倫理性・厳格性が求められます。
「マネジメントは管理職になってから一所懸命に学べばいい」という考え方は明らかに間違いで、こういった安易な考えが取り返しのつかないリスクにつながった事例も数多く見てきました。

適性や能力を見極めずに管理職に任用し、そのことが原因で問題が起きた場合、その責任は本人に跳ね返ってくるだけのことです。
実力のないのに(その確認ができないのに)主観や感情で任用を求めて、ねじ込んできた上位者は、その罪を知るべきです。

逆に、真に実力が備わっているのにアセスメントという過程を経なかったために「下駄をはかせてもらった結果だ」という風評であったり、「上司に可愛がられたおかげであの人は得をした」との批判も生じます。
真に実力のある人がこのような批判を受けるのは、とても気の毒でもあります。


まとめ

というわけで、今回のコラムのまとめは以下の通りです。

  • 人事評価の第一義は人材育成につなげることである。

  • 次に人事評価は一定期間の「できた/できなかった」を見極めることなので、これを昇給や賞与の査定に用いることは合理的であり、一定の納得性もある。

  • ただし、人事評価は次のポストの能力や適性を見極めるためのものではない。

  • 昇進や任用を決める際には、当該ポストに必要なスキルや適性を備えているかを見極める仕組みを持つことが必要だ。

【結論】
人事評価の結果だけで管理職への任用を決めるのは危険極まりない。

というわけで、ぜひ一度、管理職任用における貴社の仕組みやルールを点検してはいかがでしょうか。

(おわり)



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