繋がりに重きを置く時代のお守り

フラッシュバックに苦しみながら生きていた中で、神田橋処方という漢方の処方があるとネットで知った。それが神田橋條治というお医者さんを知るきっかけだった。あらゆる薬が効果がないか副作用だけかという状況で、神田橋処方が効いたことで私はその医者に感謝と信頼を抱いていた。そんな医師が複数の書籍を出していると知って、私はその本たちを読んでみたいと思った。私は図書館に本を読みに行った。

「神田橋條治 医学部講義」という本を読んだ。タイトルそのままの内容であり、フラッシュバックを止めるにはもう死ぬしかないのではと思っていた私にとって紛れもない命の恩人の言葉が入っていた本である。さっそく「診断者の感性」を読んだ。私はそのあと胸がいっぱいになって、まだ読み終わってもいないのに本を棚に戻し図書館を出て、少しだけ外をふらついていた。

そこには私の違和感への答えがあった。人が語るような人間関係の心地よさを見出せず、同性異性を問わず執着や嫉妬が湧き上がり、その独占欲を自分でも恐れて一人でいることにしか安息を見出せない自分に対する否定や戸惑い、いつまで経っても親や医師から信頼出来る人を見つけろとか、自分から話しかけろとか、人を好きになる努力をしろとか、人間関係のいい経験がきっと出来ると言われ続けた苦しみが、ようやくただそういう人なんだよと初めて許容され、その治療努力はもうやめたほうがいいと言って貰えたのだ。

図書館に戻ってまた続きを読んで、また胸がいっぱいになって外に出た。私がインターネットチャットをしていたことは正しかったのだとわかったからだ。私が母から同じものが好きな人のいる場所に行って自分から話しかければいいと不審者紛いのことを勧められて嫌だったことは気のせいではなく、私は私に必要なことを適切に出来ていたのだとわかった。私はネットで人の賑わいを眺めているくらいでちょうどよかった。

そうしてあまり読んでいないうちに家に帰る時間が来た。私は人からあまり人扱いされないので飲食店に入ることも避けている。帰り道は少し寂しいような、だけど胸がすっきりとしたような、熱のこもった身体が冷たい風を吸い込んだ時のような心地がした。今の時代は繋がりとか、成功体験とか、人が薬になるとか、依存先を増やした方がいいとか、あらゆる言葉がある時代で、理屈や道理は理解出来ても、私のように人と接すれば接するほど痛む人間に向けられた言葉はあまりなかったように思う。これからもそういう言葉を聞いては憂鬱になったり絶望したりするのだろう。そういう時にこの本の言葉をお守りにしたい。私は会ったこともない医師に、初めて私自身に話しかけて貰ったような気がした。またこの本の続きを読みたい。

#読書の秋2022  

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