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とんでもない理由でゲイ嫌いになった人の話。



「ええー! お兄さんゲイなの⁉︎ うわー、そうかぁ……ゲイかぁ……」


 ーーこの前、たまに行く肉料理専門バーで店長とあたいとカウンターにいたお客さん同士で打ち解けて話していた時に、ふとしたタイミングでゲイバー街の話題になったので、あたいは「自分はゲイだからわりとその街には親しみがある」と伝えた。

 すると隣の30代後半くらいの恰幅のいい男性が、あたいに向かってゲイということに異様なほど反応を示したので、あたいは少し気になった。

 大抵の人は「そうなんだ〜(あんまり興味なし)」「はえ〜、ゲイなんですね(やや警戒・気を遣ってくれてる)」みたいな当たり障りない反応なのに、その人の場合は明らかにゲイに対して思うところがあるような反応だったから。

 すると、お兄さんはお酒の力を借りるように思い切った表情で、

「俺、実はゲイが苦手なんすよー。昔ゲイの人のせいでトラブルに巻き込まれて、めっッッッちゃ嫌な思いしたんで……」

 と話してくれた。

 あたいは「マジですか〜」と返して、向こうが続きを話すのを待った。別に無理に聞き出そうとは思わなかったけれど、せっかく話してくれるなら聞きたいと思って相手の出方を見た。

 ーーたとえば、あたいはゲイバーで働いている時にノンケのお客さんから「ゲイの人に銭湯でお誘いをされたことがある」とか「電車で男からお尻を触られたことがある」と話されたこともあるし、周りのゲイやバイ男性からも「昔、近所のお兄さんに誘われたのが初経験」「学校の先生が初めての男性経験」だとか聞いたこともあるので、社会や生活の中に同意ない加害や性的な誘いをする男性の存在は知っている。


 お兄さんのケースも、そういうことだろうなぁと考えながら、あたいでよければ話を聞いて、彼に連帯したいと内心では膝を乗り出した。

 世の中の男性は弱みを見せることや、とりわけ性被害を声に出して告発することに慣れていない。男性として強くあれと強いられていたり、無意識にも自分で強いているところがあるからだ。

 だけど異性愛者の男性同士や、異性である女性に対しては話しにくくても、同じ土俵にあらず見栄を張る必要のないゲイ相手なら、自分が遭った性被害を打ち明けやすいーーと話す男性も少なくない。

 すると、お兄さんは、あたいの方を見ながら、

「勿論みんながみんなそういうことをするとは思ってはいないんです。今こういう時代でこんなこと言うのも差別なのかもしれないけど。でもどうしてもずっと無理で。俺、ゲイの人にーーていうか“ゲイの人たち“に目をつけられて、仕事辞めさせられてしまったすよねー」

 と切り口上でつらつらと申し訳なさそうに、そしてどういったいきさつでゲイを嫌うに至ったか、語り始めた。


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ここはあなたの宿であり、別荘であり、療養地。 あたいが毎月4本以上の文章を温泉のようにドバドバと湧かせて、かけながす。 内容はさまざまな思…

今ならあたいの投げキッス付きよ👄