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「長期停滞・低金利下の財政金融政策:MMTは経済理論を救うか?」をレビュー② 村瀬英彰論文編

こんにちは、望月慎(望月夜)@motidukinoyoruと申します。

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先日、慶應義塾大学にて、日本金融学会機関誌『金融経済研究』主催で、MMTに関するワークショップが行われたそうです。

ワークショップ資料として、各パネリストの論文が公開されておりますので、今回は、各者の論文を一介のMMT研究者として検討してみたいと思います。

(先んじて、拙note『Modern Monetary Theoryの概説』に目を通していただくことをお勧めします)

*併せて推奨:拙著『図解入門ビジネス 最新 MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』(秀和システム)(2020/3/24 発売予定)

第一回:①齊藤誠論文編

第二回は、村瀬英彰氏著『新古典派均衡モデルにおける MMT 支持的なケース:2 つのマクロ経済学の包摂に向けて』を取り上げます。




①ここでも「MMTの政策主張」への誤解あり

まず村瀬氏論文の序盤で目に飛び込んでくるのがこれです。

政治経済学的論争点(「インフレが生じない間は財政拡張を行い、インフレが生じたら拡張を止めればよい」という MMT の政策主張に依拠した政策運営は民主主義下では困難である)は、バージニア学派流(ブキャナン=ワグナー流)の「財政赤字の政治経済学」の系譜に属する論争点である。ただし、バージニア学派の主張は、主体の最適化行動から導かれたものではなく(財政錯覚や選挙民の非合理性の存在)、その後の「新政治経済学」による合理的主体を前提とした分析も民主主義が非効率な政策を採用する状況のモデル化を目的としており、現実の民主主義が効率的な政策の採用に失敗する必然性を示したものではない。その意味では、民主主義社会においてインフレは制御可能とも不可能とも断言できないというのが公平な見方であり、「インフレの制御不可能性」を前提にして MMT を批判するのは一方的であろう。

一見MMT擁護的に収めているように見えて、これは全く見当違いな論考となっています。

というのは、MMTerはそもそも、公共選択学派(ブキャナンら)が論難しているような裁量的財政政策について、概して批判的であるからです。

財政政策の手法、裁量的財政政策の忌避とビルトインスタビライザー志向

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