秘密捜査官、プロ野球に挑む『パワプロクンポケット8』

突然だが、あなたは野球ゲームはお好きだろうか。私はそんなでもない。しかし、そんな私に毎回新作をゲオとかで予約させ、楽しませ続けてくれた野球ゲームのシリーズがある。『パワプロクンポケット(以下パワポケ)シリーズ』だ。

今日はそのパワポケシリーズから一本取り出し、お話しさせていただく。

このゲームの概要

パワプロクンポケット8(以下パワポケ8)は2005年に発売された、ニンテンドーDS用の野球バラエティゲームだ。「バラエティ」の名の通り、メインの野球以外にも複数のモードが用意され、長く楽しめるのが特徴となっている。

例を挙げると、野球選手を育成するサクセスモードや、一選手の視点からペナント生活を楽しむ俺のペナントモード。銃撃戦や爆弾解体を楽しむミニゲームモード……そんな感じだ。だが、今回は一番やり込み、おそらく一番力の入っているサクセスモードに限って話を進めたいと思う。

サクセスの概要

サクセスの舞台は、2005年の日本とさして変わらない。だが、一つ大きな違いがある。パワポケ8の世界では人体の機械化=サイボーグ技術が高度に発展しており、摘出した脳を新たな体に埋め込み、蘇生することすら可能となっているのだ。

無論、それだけ高度な技術は、すぐに犯罪者たちに目をつけられる。皮膚下に装甲板を埋め込み、人間を素手で文字通り『叩き潰せる』膂力を得て、体内に火器を仕込んだようなサイボーグたちが、社会の闇へと広がりだしたのだ。

事態を重く見た政府は、これを取り締まるために秘密機関『サイボーグ対策室』を設立。違法サイボーグを逮捕し、人間に戻す手術を受けさせることが彼らの任務である。このサクセスの主人公も、そんな秘密捜査官の一人だ。

彼が野球の世界に飛び込むきっかけは、容疑者から押収した一枚のメモリーチップにある。そこにはプロ野球球団『大神ホッパーズ』の詳細なデータがあった。そして追跡調査の結果、容疑者は何らかのサイボーグ組織の一員であり、球団への潜入を試みていたことが明らかになったのだ。

プロ野球球団とサイボーグに何の関係が? 事態を訝しむ主人公に、対策室は球団への潜入捜査を命じる。昼は野球選手、夜は秘密捜査官の二重生活の中、徐々に掛け替えのないものへ変わっていく野球。そしてホッパーズへのテロ攻撃を企てるサイボーグ組織。

三年の期間の中、彼はサイボーグたちの陰謀を暴き、そして事件の裏に隠された真実へと迫っていく。

サクセスの進め方

サクセスモードは『アドベンチャー』『野球』『育成』の3つの要素から成り立っている。1プレイの所要時間は1時間〜1時間半程度。このうち、大半を占めるのはコマンド選択型のアドベンチャーパートだ。

プレイヤーは一週間の行動を選択し、それによって経験点を貯める。貯まった経験点で野球の能力を上げ、試合で活躍し、強い選手を育て上げるのだ。

ただし、しゃにむに練習するだけでは強い選手は作れない。主人公を外出させ、様々な人や出来事と関わることで、やる気や体力を回復させ、多様な能力を得ることができるのだ。練習と外出、この二つをどのように両立していくかがプレイヤーの腕の見せ所だ。

もう一つの顔である秘密捜査官としての任務も、この外出コマンドで行われる。真実を明らかにするには複数の人物との接触が必須であり、それを見極めるのもプレイヤーの仕事となる。

初めのうちはモヤモヤしたまま捜査が終了する結末を迎えがちだが、そのぶん真実へと辿り着いた時の達成感も大きい。これは是非、自らの手で味わってほしい。そして真実へ辿り着く最短ルートを確立すると、浮いた時間を練習に当て、さらに強力な選手を作れるようになっていく。

プレイを繰り返すたびにプレイヤーの経験値が貯まっていく、その感覚もパワポケの魅力の一つである。

ヒロイン候補

サクセスの途中、外出先で仲良くなったり同僚から教えられたりという形で『電話番号』を入手することがある。彼女らがヒロイン候補だ。あくまで候補である。このゲームのヒロインは一人ではない六人いる。もちろん、一度のプレイで交際できるのは一人のみ。そのため候補という呼び方になる。

彼女らは年齢も十代〜数十億歳とバラバラ。中には物語の核心に大きく関わるものもおり、親密になることで物語を違った視点から眺められる。無論、核心に関わらないキャラクターもそれぞれ魅力的な人物であり、一人一人の物語を展開してくれる。

交際は選手の育成面でも大きなメリットがあり、練習の合間の休憩をデートに変えることで、特殊能力の確保とやる気や体力の回復を両立させることができる。さらに、無事に彼女らとハッピーエンドを迎えれば、大きな経験点を貰うことができる。……ハッピーエンドを迎えられれば。

パワポケ8の良い点

何と言ってもストーリーと登場人物が良い。大胆な舞台設定により派手な展開が可能となり、話に引き込まれるものがある。敵役であるサイボーグたちとの対決時はシチュエーションに応じたミニゲームが用意されており、それも臨場感に一役買っている。

主人公は『感情移入しやすく、非常に徹しきれず、見落としも多い』『そもそもこういう仕事に向かない』と上司から断じられるような人物だが、その分親しみやすく好感も持ちやすい。決めるところはビシッと決めてくれるのも大きな魅力である。

チームメイトも個性的な面々が揃っており、お調子者だが時おり含蓄のあることを言ったり、心優しい一面を見せる湯田、実力はあるが異様な目立ちたがりであり、試合で失敗を重ねてしまう芽館などが特に印象深い。

ヒロインや敵役では、独自の美学を持つ同僚の白瀬、家出少女であり、主人公とその知人の女性を含めた3人で擬似的な家族関係となる、ある理由からホッパーズへのテロに固執するサイボーグ組織の面々、そして主人公と大きな共通点を持つ組織のリーダーなどが揃っている。

選手の育成面では、『勉強』コマンドのおかげでキワモノ選手が作りやすいのが個人的に良い点だった。特に投手はボールの投げ方によって球速やコントロール、変化球の取得に必要な経験点が変化するのだが、『勉強』コマンドによる上昇はこの影響を無視するため、アンダースロー(球速が上がりにくい)で最大球速などの選手が作りやすいのだ。

総合的に作れる選手の強さは、可もなく不可もなくと言ったところ。

パワポケ8の微妙な点

ストーリーなどの出来が良い一方で、根幹である野球部分は正直あまり褒められない。とにかくヒットが出ず、点を取るためのランナーが出ない。外野が全員イチローにすら思え、試合中のカメラ範囲もあまり広くない。

サクセス中、ゲームオーバーになる展開が多い。ほとんどはミニゲームの失敗がそのまま死因となるが、危険なことをすると減るパラメータ『寿命』の管理ミスなどでも死亡し、中でも終盤である選択肢に間違えると問答無用で即射殺されるのは語り草である。ただ、緊張感の維持という観点ではキッチリ役割を果たしている。

シリーズ他作品と比べて、の話になるがサクセスの数が少ない。基本的に二本立てが多いシリーズだが、今回は一本のみである。個人的にはその一本が濃密だったので十二分に楽しめたのだが、遊び方の幅が狭まっているという点では見過ごせない欠点でもある。

選手が60人しか登録できない。『保存できない』ではなく『登録できない』のである。要は60人の選手を登録してしまうと、元いた選手を削除しようがしまいが、それ以上登録できなくなってしまう

コナミに問い合わせると修正してもらえたらしいが、発売はもう12年も前のことである。幸いソフトの初期化を行えば直るので、中古で買った場合はまず初期化すると良い。

まとめ

以上で紹介は終わる。このnoteを通じ、パワポケ8の魅力が少しでも伝わったのなら幸いだ。そしてもし興味を持たれたのなら是非とも購入し、その先にある世界を体感して欲しい。

ちなみにDS用ソフトは3DSでも問題なく遊べるので、3DSしか持っていない人も安心だ。

(おしまい)

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