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ミステリー小説家ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件4.万全

 ぜひご面談をとのことですので、ご準備が整いましたらご案内させていただいてもよろしいでしょうか?

 ええ。ご案内をお願いします。
 バルカ、行こう。

娘の手を取り女性の後に付いてセキュリティゲートの前まで進んだ。そこには肩甲骨ほどまである黒髪ロングヘアの女性が立っている。アジア系の顔立ちで黒い細身のスーツと高いヒールがよく似合っていた。

 こちらの者がご案内させていただきます。

 幸引様、ご案内いたします。このカードでゲートをお通りください。

 分かりました。よろしくお願いします。

2人は受け取ったゲストカードを首から下げると、ゲートに翳した。そのまま通過して黒髪の女性と共に高層階行きのエレベーターへ乗り込んだ。オフィスビル用にしては広めの鉄カゴは高速で上昇し、気圧の変化を感じて間もなく目的階に到達した。扉の向こうは広大なエレベーターホールだ。

 ここで乗り換えていただきます。

 承知しました。

2人は手を繋いで付いて行く。エレベーターを出て右に少し歩くと行き止まりだった。辺りは薄暗く床と壁は黒で統一されている。外は温暖な気候なのだが、ここはヒンヤリとしていて上着を羽織っていてもやや肌寒い。女性は立ち止まり、2人のほうへ振り返った。

 この先のことは他言無用でお願いします。

 もちろんです。守秘義務は必ず守るとお約束しますよ。

ビジネスライクな笑顔はもはや彼の代名詞だろう。よく目の奥が笑っていないと言うが、まさにそんな感じだ。女性はポケットから別のカードを取り出すと壁に翳した。一見カードリーダーや扉らしきものなく、変わらず目の前はただの黒い壁だが、ウィーンと鍵が開く音が辺りに響く。これを合図に女性が壁を手で押すと大人がしゃがんでようやく通れるであろうサイズの扉が開いた。

 狭くて恐縮ですが、こちらからお願いします。

2人の大人はしゃがみながら、1人の子供はそのまま歩いて通過し、向こうに見える大きな扉に向かってさらに足を進めた。到着するとさらに別のカードキーを取り出し壁に翳す。解錠され、女性は左手で扉の取っ手を持って手前に引き、右の手の平を室内へ向け2人を誘導した。

 幸引様、どうぞこちらへお入りください。この後は中にいる社長秘書がご案内いたします。

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