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新感覚!解決しないミステリー小説 ロンドの旅Part1ロンドの旅 Chap1ニューヨークの事件

3.自署

これで私の知っていることは全部よ。

 ありがとうございました。

 …あさごはん

初めて口を開いた。

 バルカ、やるじゃない

負けるものかと、かぶせ気味で割って入った。

 ねえ、警察は朝ごはんについて何か言ってた?

 朝ごはん?

また理解が追いついていない様子だ。

 死亡推定時刻が10時ごろってことは、朝は生きていたっとことだし、あなたは間違いなく家から出かけて行く彼を見送ったのよね。つまり、ルーティンで、朝ごはんは必ず食べているはず。それなのに、なぜ最後の食事は夜なのかしら?

 あ…たしかにそうね。そう言えばルーティンのことは警察に話してなかったわ。

 なんで?

 特に理由はないけど…そんなに重要なことなのかしら。

 そうね、たぶん重要。

 たぶん?

 いまの話だけじゃ確証はないって意味。ちなみに、その日だけ十数年のルーティンをしなかった理由があるはずだわ。

 理由…その理由が事件に関係あるってこと?

 まだ推測だけど、関係は深いと思うわ。朝ごはんのルーティンは、コーヒーも込みよね?

 そうね。必ず決まったお店のパンとコーヒーがセットだった。出張でも旅先でも、冷凍したり、食器を持参したりして色々工夫してたわね。自宅だったらコーヒーは必ず豆から挽いていたわ。

 そこまでのこだわりがあるのになぜ食べなかったのか…もう分かるわよね。

 …! なるほど。コーヒーね。

 そう。十数年ぶりに朝ごはんを食べない日に、毎日使っていたソーサーを新調した。これは偶然とは思えないわ。少し様子がおかしいとも言っていたし。そして気になるのは、破片…ね

父親は微笑を浮かべながら2人のやり取り静観していた。一方、少女は眠っているかのように目を閉じてじっとしている。

 ほかの遺留品もそうだけど、破片はいま警察が調べていて、私の手元には何もないわ。

 ねえ、もしかしてその破片って割れたソーサーの一部じゃないかしら?つまり、大事に使っていたソーサーが何かの理由で破損してしまい、その日はルーティンをやめた。

 まさか…そんな…

 何か心当たりがおありのようですね。

久しぶりに口を開けた。

 ええ…。理由は分からないけど、夫が愛用していたソーサーを犯人が持っていった可能性が高いってことよね。

 はい。
 うん。

 しばらくの沈黙を破り、一言だけつぶやいた。

 あのソーサーには確か…

 同時にスマートフォンを取り出し、画像データの検索を始めた。夫とクラウドで共有していたため、ここ数年間の写真を確認することができるようだ。

 あったわ、これね。

 それはソーサーの裏側の画像だった。溝の部分に何やらサインらしきものが書かれている。その画面を映したまま、テーブルの上に置いた。

 それは…誰かのサインですか?

 そうよ。この国で有名なワインソムリエの、ね。夫は彼の大ファンだったの。仕事で関わったことがあって、その縁で自宅へお招きしてね。その時に書いてもらったのよ。毎日使えるものがいいって言ってね…たしか、それから朝食のルーティンが始まったような気もするわ。

 当時を懐かしんでいるような雰囲気を醸しながら、経緯を説明した。

 ほう、それは興味深いですね。メライ、バルカ、これからどうしようか?

 ワインソムリエのファンがサイン入りのソーサー欲しさに殺害した…とか、あとは。。

 そむりえ

 そうだね。メライの言うとおりだけど、引っかかるところは多い。もし仮説があってるとしたら、ソーサーがバッグの中に入っていたことを犯人はどうやって知ったのか?そもそも、なぜ持ち去ったのか?ただ、これ以上の手がかりはいまの僕らにはなさそうだ。思い切って、彼に会って話を聞くことも必要なのかも知れないね。

 ちょっと待って。あなたたちは知らないかも知れないけど、超有名人の彼にはそう簡単には会えないはずよ。

 …そういうときは、「親会社」にお願いしてみます。

左手の人差し指を立て、少しドヤっとしながら自信満々な笑みを見せた。

 親会社?

 ええ。実は弊社は完全子会社でして。親会社に全面的にサポートをしてもらってるんですよ。

 へー…もし本当に会えるならすごいことね。私も話を聞いてみたいわ。警察もノーマークな彼が何かを知っているのか。

 わかりました。それでは今日はこれで失礼し、後日ご連絡差し上げます。

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