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新感覚!解決しないミステリー小説 ロンドの旅Part1ロンドの旅 Chap2プサンの事件

1.遺言

 ここまで豪華絢爛な伝統家屋を拝見したのは初めてです。

瓦葺きの立派な屋根がとても芸術的だ。中は特有の建材を加工しすぎず自然のまま遇らうことで、見た目が美しく、さらに通気性も抜群である。板の間と床暖房がバランスよく組み込まれていて、夏は涼しく冬は暖かく過ごせる構造だという。

 旦那様の家系はこの周辺をおさめていた名家でしたので、敷地の広さや建物の大きさはもちろん、装飾や家財道具、置物に至るまですべてが一流品ですわ。

 そうでしたか。政治家として大きな成功をされていても、ここまでの邸宅に住まうこと
は中々難しいですよね。

 ねえ、例の書斎はどこなの?

世間話を好まない少女は一刻も早く本題に入ろうとしていた。

 もう少しで着きますよ。それにしても、お子さんまで韓国語がお上手なんですね。

 ええ。小さい頃、一通りの言語を教えたらすぐ習得しまして。我が娘ながら、有能なものです。話は変わりますが、これだけお広いと日々のお手入れが大変ですね。

 はい。もう何十年も毎日やっていますので、慣れましたけどね。…着きました。こちらが書斎でございます。

中に入ると被害者が愛用していたというデスクの上に置かれたビジネスバッグが目に入った。四方の壁は本棚で埋め尽くされ、書物が隙間なく詰まっている。

 これまた壮観ですね。一生書物には困らなそうだ。

 旦那様は幼少からよく書斎にこもっていて、ここにあるものは一通り読破されたと仰っていました。

 ほう。それは素晴らしい。しかもジャンルごとによく整理されてますね。…おぉ、これは僕が読みたかったやつだ。これも…。

広々とした部屋を壁に沿って歩き、興味のあるタイトルがあると立ち止まった。

 ねえ!何しに来たの?!

 メライ、ごめんごめん、そんなに大声を上げなくてもいいじゃないか。

 ふん。…ところで、ご家族は1人もいないのね、皆さん忙しいのかしら。

 ええ…。旦那様は仕事熱心で、あまりご家族との交流はあまりされない方でした。奥様も、独立されたお子様たちも、葬儀では涙一つなく淡々としている印象でした。私からはあまりこんなことを話すべきではないのですが。

 ただ、あなたは信頼されていたようですね。依頼文には、あなたに聞けばすべて分かるとしか書いていません。

 旦那様が幼少の頃から仕えていましたから。歳も近いですし、使用人の身分に相応しくない表現ですが、馬が合うといいますか、昔はよく取り留めないことを話していましたよ。

 そうですか。今回のことは、お気の毒でした。

 …旦那様からいただいた最期の仕事でもありますから、私に協力できることがあればなんでも言ってください。

 ありがとうございます。心強いです。では、早速ですが、事件の概要をできるだけ詳しく教えてください。

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