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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件3.配慮

一般的には非公開でも、"星システム"はしっかりユールマラの事件を認識し、星の数が判定された。これも"上"のコネクションによるものだろうか。2人は長旅の疲れを癒すと、行動を起こした。"上"のコネクションはしばらく使えない。馴染みがなく知り合いは誰一人いない異国の地での捜査および捜索は心細くもあるが、彼らは類い稀なる優れた知恵と極めて豊富な知識、そして一通りの言語や武術などを使いこなす多数のスキルを持ち合わせている。

 さぁて、そろそろ行こうか。少しのんびりし過ぎたかな?

 …。

幼い我が子の体調や精神面を最優先に考え、本来は到着すると同時に動き始めたいところであったがそうはせず、浜辺や街を歩き当地の食事を堪能し、きちんと睡眠をとった。深刻な雰囲気はできるだけ出さず、我が子のストレスを最小限にするよう努めた。ただ、彼の頭はこれからのプランの組み立てのため、常にフル回転である。まずは事件の詳細を知るであろう人物とのコンタクトを図りたい。警察からの情報収集が難しいことは明らかであるため、職場か家族を当たるか…。いずれにせよ、公表されていない事件のことを知っている理由をきちんと説明できなければ、犯人の関係者と疑われ警察に通報されるリスクがあることは間違いない。もちろん"上"のことを話すわけにはいかないので、納得感がある別の言い訳を模索していた。

 やはり、家族よりこっちの方が話を聞きやすいかな。アポなしで会ってくれるか分からないけど、行くしかない。

そう呟くと2人はこの観光地にいくつか聳える高層ビルの中の1棟へ入った。ロビーは開けていて、中心には降り口が見えないほど長いエスカレーターが昇りと降り1台ずつ並んで設置されていた。搭乗すると被害者の所属事務所総合受付がある3階まで輸送してくれるようだ。彼らは即座にそれに乗り込んだ。

 SNS事業でだいぶ儲かってるようだね。立派な建物だ。

降りて真っ直ぐに受付へ向かった。3人の美女が横並びで座っている。左と真ん中は接客中だったので右の受付に足を運んだ。金髪でポニーテール、目がまん丸で大きく、瞳は澄んだ青色、まつ毛はマスカラで黒々としている彼女は20代前半と見受けられる。

 いらっしゃいませ。

 こんにちは。僕はこういうものです。社長さんにこの名刺を渡していただければお分かりになると思いますのでお願いできますか?

 かしこまりました。確認いたしますのでそちらにお掛けになってお待ちくださいませ。

 分かりました。

壁際にある同時に何十人もが腰掛けられそうな巨大なソファに座って待つことにした。

 これで社長さんに引っ掛かってくれると手っ取り早いんだけどね…。

いつものとおり、娘は無言で目を瞑り静かにしている。手遊びをすることも、頭や顔を無意識にいじることもなく、まるで美しい人形のようにただじっとしていた。父親は頭の中で今後のプランの組み立てを続けている。そうして30分ほど経過した時、さっきの受付の女性が歩み寄ってきた。

 幸引(こうひき)ロンド様と、お連れ様でございますね?

 はい。

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