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ミステリー小説 ロンドの旅 Chap3.東京の事件 7.攻防

会話の途中で目的地に到着した。少女の容体がよくならないため、この日は周辺のホテルで1泊することになった。

 メライ。どんどん顔色が悪くなっているよ。やはり病院で診てもらおう。

 だから平気だって。少し寝ればすぐ治るわ。

 分かった…でも何かあったらすぐに言うんだよ。僕とバルカはあっちの部屋であいつとの話を再開するから、メライはベッドで横になっていてくれ。

 …ええ。

最上階のスイートルーム以外は満室で、3人では使いきれないほどの部屋数とスペースがあった。彼女を寝室のベッドに寝かせ、2人はリビングの大きいソファへ腰をかけた。柔らかすぎず硬すぎず、何とも心地よい感覚だったが、いまはゆっくりしている場合ではない。ポケットに入れていた電話の通話ボタンを押した。

 さて話の続きだ。一刻も早く"上"に謝罪することをおすすめする。もう手遅れかも知れないが…。君がその気なら、僕が間に立ってもいい。

 その必要はない。私はもう離脱した人間だ。

 …離脱か。そんなことで"上"との縁が切れないことぐらい、君なら分かるだろう?

 言ったはずだ。私たちは命を賭けて戦おうとしていると。

 そこまで"上"が憎いか…。

 ロンド、いい加減目を覚ますんだ!いつまでこんなことを続ける?昔のお前なら私たちの先頭に立ち、一緒に戦ったはずだ!!

 …何のことだい?よく…分からないよ。

その時、恩師が言っていた"闇"がまるで全身に纏わりついてるように見えた。いつもの彼からは想像もつかない、凍てつくほど冷めた表情を覗かせている。幼い娘はそれでも動じることはなく、いつもどおりただ静かに目を瞑っていた。

それからしばらく通話状態のまま、お互い何も喋らず黙り込んだ。元々の才能に加え、この静寂でより聴力が研ぎ澄まされたからなのか、何かに気付いた彼女は、ゆっくりと紙とペンを手に取り文字を書き父親に見せた。

"おおぜい"

彼は無言のまま笑顔で彼女の功績を称えた。そして、ポケットから取り出したもう一台の通信端末を渡した後、同じ紙にサッとメモを書いた。彼女はそれを確認するとポケットへしまい、すぐに端末操作を始めた。

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