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ネジ

彼が帰ってきた。
とても長い旅であった。
どこへ行っていたのかは知らない。
何処であろうと気にすることではない。

彼がアパートを借りた。
もう旅には出ないのだろう。

私は、引越しを手伝った。

彼の宝ものたちを飾った。
どこかの喫茶店のコースター。
町のチラシ。押し花。

どこで撮ったのかも分からない写真。
それを大きく引き伸ばし、額に入れて。

「鋲でなくて大丈夫かしら」
少し、不思議がって聞いた。

「いいんだ。もうしばらくここにいるから」
少し、悲しく嬉しそうに彼は言った。


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