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18年かけて、森に飲み込まれるスリランカのリゾート

バワの建築の中でも、ひときわ特別な存在感を放つリゾートがある。バワのデザインしたリゾートのうち唯一、内陸に建てられた〈ヘリタンスカンダラマ〉だ。

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ホテルが建設されたのは1994年。工事が終わった後、バワはこう言ったそうです。

このホテルは、まだ完成していない。18年後、建物が森に覆われた時、このホテルは完成するのだ。

さらに、バワはこう付け加えました。

そして50年後には、ヒョウが部屋の中に入ってこれるようになるだろう。

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建設から24年が経った2018年現在、ホテルの中には野生のリス、猿、小鳥が自由に動き回っていました。この状況を実際に目の当たりにすると、建設から50年がたつ2044年にはヒョウが部屋の中に入ってくるというバワの言葉も、とても現実的に思えます。今でも、部屋の窓を開けていると本当に野生の猿が入ってきてしまうため「朝と夜は、ちゃんと窓は閉めてくださいね」とホテルのスタッフに念を押されるのです。

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ヘリタンスカンダラマは、カンダラマ湖のそばの大きな岩山を抱え込むような形で建てられており、その全長はなんと1kmにも及ぶ。ホテルの廊下に壁はなく、まるで森の中を歩いているような感覚になるのです。

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このホテルの建物には「明るい色」が一切使われていません。建物は黒、白、グレー、濃緑、肌色、など目立たない色のみを基調としたミニマルなデザイン。これも全てバワの「森と一体になる」という目的のために、選ばれた色なのだそう。案内してくれたスタッフが「明るい色は、自然の森の中にあまりないですからね」と付け加える。

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さらに、一般的なホテルと比べるとヘリタンスカンダラマには、照明の数がとても少ない。これも、できるだけ自然の光を取り入れることを目指した結果なのだという。全ては自然と一体になるため、である。

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地域の水資源にも最大の注意を払っており、カンダラマ湖から水を引くことは決してないという。全ての水は、地下水によってまかなっている。さらに、客室で使用された水はリサイクルされたのち、植栽やスタッフ用の施設へ再利用されているそう。この地域では、水をいかに節約するかが重要なのだ。特に乾季は。でないと、この地域の自然が維持できなくなるためだ。この地域の自然が維持できなくなること、それはつまり、このヘリタンスカンダラマ自身の価値の毀損と同義と言える。ここで働くスタッフは皆、そういう共通意識を持って、ここで働いているように感じた。

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また、ヘリタンスカンダラマの所有する土地の広さも半端ではない。なんと、ホテルが所有している土地面積は100ヘクタールにも及ぶ。これも、このカンダラマ湖周辺の自然を保護することが目的。

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隈研吾はバワの建築を「庭の中に散らばった、一種の雑音のようなものである」と形容した。この表現は、バワの思想をとてもうまく表現している。

バワが主張したかったのは、建築というものは結局、自然の中に散らばる人工の構築物、つまりは庭の中の雑音に過ぎないということなのではないだろうか。人間が作り出す建築物などは、自然の大きな流れの中では、小さな雑音にしかすぎない存在であると。

そんなある意味、建築家としては一種の諦めのような感覚を抱きつつ、しかしそれを受け入れることでこのヘリタンスカンダラマのコンセプトは形作られたのではないだろうか。

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有名な建築と言えども、模倣されることでデザインの先進性は消え、年月が経てば物理的にも劣化してゆく。一般的に建築物とは、時間が経つごとに劣化し、次第に価値が減少するものである。それに対し、このヘリタンスカンダラマは、時間が経つごとに森に飲み込まれていくことで、逆に価値が上がっているように設計されている。バワは、建造物は自然に飲み込まれてはいけないという常識を逆手に取り、自然に飲み込まれることで価値が上がる建築を作ったのだ。

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当時のバワにはきっと、森に飲み込まれたヘリタンスカンダラマが既に見えていた。誰よりも先に、それが見えていたのだ。だから、バワは「このホテルは、まだ完成していない。18年後、建物が森に覆われた時、このホテルは完成するのだ」と言い残したのだと思う。

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こんにちは。ベトナムのホーチミンに住んでます。Pizza 4P'sというレストランのサステナビリティ担当です。