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クールの誕生

そのレコードは俺の人生を変えた。
スピードを持って回転しながら飛んできたレコードは鋭利な刃物みたいになってズルリという音と共に俺の腹をえぐった。
今お腹の途中のとこでそのレコードが停まっている。
立ってられないのでその場で寝っ転がることにした。
勝手にボッピュボッピュと噴き出す血。
逆に冷静になるくらい痛いから意識がはっきりしててツラい。
苦痛が瞬間ごとに襲ってくる。
朝日が昇ってる方向だったから東から飛んできたんだろう。
まさか早起きして表に出た途端こんなことになるとは。
誰が投げたのか。
何で投げたのか。
どうやったらレコードをここまで回転させれるのか。
黒い血をむちゃくちゃに吐いた。
理由の分からないまま死ぬことになるのか。
なんてことで死んじゃうんだろう。
友達に笑われる。
そのことがめっちゃ嫌だ。
一体何のレコードで殺されるのか?
お腹のレコードを見た。
視界の上のほうからベタベタと血が流れてきて見えるものすべてが真っ赤に染まっちゃてて何もわからなかった。
もういいか。
もういいのか?
いや、まだなんか出来ないか。
聴けばいいんだ。
レコードプレイヤーで聴けばいいんだ。
何か納得出来るかもしれない。
もう目は頼りにならないから這い蹲り、手探りで自分の家であろうところに戻りレコードプレイヤーであろうものに腹からそっと取り出したレコードを乗せて針を落とした。
そして聴いた。
何のレコードかわからない。
歌らしきものがあるけど日本語なのか外国語なのかもわからない。
何なんだろう。
だけどしばらく聴いていると自然に涙が流れた。
めちゃくちゃに感動してる自分がいる。
今、やっと音楽というものを感じれた気がする。
豊かな感覚の世界。
コミュニケーションの最高峰。
人間の創り出す夢の憶え。
なんだか何なんだろう、もう死ぬけどもう死んでもいいと思えた。
肉体は入れ物で体験を入れるものでしかないのだとしたら今満ちた。
もう苦痛も感じない。
背中から死んでいく、ゾワゾワ、ゾゾワゾワと。
肉体が自分のもので無くなっていく。
頭の中でバッタが飛んだ。
インクが溢れたように真っ黒になっていく。
その黒い海に沈んでいく。
耳がかゆいから掻きたいけどどうやって腕を動かしてたのか忘れた。
眠い。
もっとクールに生きたかった。
もういいか。
レコードが終わったのか感覚が無くなったのかどっちかわからないけど音楽が止まった。

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