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商売

「あなたの情けなさ、私が買います」という言葉と電話番号を記した紙を町内中の電柱に貼りまくったらさっそく電話がかかってきた。
「まずお名前を」そう私が聞くと彼は「…どこか」とだけ答えた。
「どこか?」と返すと彼は「消えたい…」と答えた。
もう彼の独白は始まっていた。
「その話の旨によって値段を決めさしてもらいます。よろしいですか?」と答えると彼は「…聞いてくれるだけで結構です、場合によってはこの世からすぐ消えますから…」と言う。
私は察して「もう百万円の価値はあります。それでも受け取りませんか?」
そう聞くと彼は「な…」と言った。
ふざけていると思われても癪なので「生きてこそ、ですよ?」とあんまり普段言わないことをフワッとした態度で言ってみた。
しばらくして電話口から彼の感じが聞こえてきた。
泣いているのだろうか。
私は煙草に火をつけた。
フーと吹いたら電話が切れた。
切るな。
非通知でかけてきやがって。
泣くなら泣け。
泣いていい。
パンダもダチョウも芸能人も泣いて泣いて泣きまくれ。
だいたいがくだらない。
お金だけはぎりぎり価値がある。
だからあなたの情けなさ、私が買います。

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