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あの人はなぜワクチンデマを信じるようになったのか

著者:X、ハラオカヒサ

あの人が陰謀論を語りはじめた

ツイッターのほかnoteにも直近のものから以下のように陰謀論とデマについて記事を書いてきた。

そして親が、兄弟姉妹が、友だちが、同僚が陰謀論を得々と語りはじめ、ワクチンなんて打たないと言い張っているという話があまりにも多く、このような体験をしている人がアカウントをフォローしたり記事を読んでくれている。

こうした陰謀論に染まったりデマを頑なに信じて軌道修正が不可能になった人たちはコロナ禍が終焉したら元通りのあの人に戻るのだろうか。

原発事故後の陰謀論やデマの虜になった人々と数多く接してきた経験から、少なくとも10年では元通りのあの人に戻っていないうえに、コロナ禍で陰謀論とデマを積極的に吸収して拡散さえしていると顛末を報告することができる。

だからこそ陰謀論やデマを遠ざけなければならないし、既に虜になっている人がどのような状態に置かれているのか知る必要がある。知ることで、もしかしたら元通りのあの人に少しでも軌道修正できるかもしれない。

デマと対峙するときデマの正体、デマを吹聴する人の正体がわからなければ対処のしようがない。回り道になるとしても「現代のデマとは何か」から説明していくことにする。

陰謀論とデマは自然発生しない

冒頭で紹介した以下の記事で説明したが──

──「豊川信用金庫事件」のようにふとした会話から自然発生した流言が取り返しのつかないデマになる例より、現代では出所が明らかか明らかなように偽られ権威付けされたソースを根拠にデマが発生すると思ったほうがよい。

被曝デマ(健康に危機が迫っているとしたり風評被害を起こしたデマ)のうち有名なものに「鼻血」が出るというものがあった。なぜ鼻血がデマのテーマとして取り上げられたか諸説あるが、2011年3月末から4月にかけて古くからのデマアカウントや反原発派のアカウントが福島県や関東で鼻血を流す人が増えていると言い始めている。

しかし、この段階では専門家だけでなく地域在住の人々から否定されデマとして拡散されるまえに消滅している。

「南相馬では水が光る」という奇想天外な嘘もあったが、これもたちまちま消えた。規格外の変形したトマトやイチゴや帯化した植物を奇形と騒ぐ声も、あんがい早々に否定されている。

では、一旦消滅したはずの「鼻血」が、2014年の『美味しんぼ』「福島の真実」編まで尾を引いたのはなぜだろう。

鼻血デマが復活し根強く残った理由はただひとつだ。2011年5月19日週刊文春の肥田舜太郎の記事が伏線としてあり、6月16日東京新聞の記事で「事実」とされ、12月2日朝日新聞「プロメテウスの罠」に大量の鼻血を流す町田市在住の少年の話(ここにも肥田舜太郎が登場する)が掲載されたことによって不動のデマと化したのだった。

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肥田舜太郎医師、週刊文春、東京新聞、朝日新聞と列記された名前と、初期に鼻血デマを流した東海アマという男とどちらは人々は信用するだろうか。鼻血デマが拡散力と浸透力を獲得するには「権威」が必要だったのだ。

木下黄太というジャーナリストがツイッターで「鼻血が出る」と発言しても、すぐ否定されて話題が立ち消えたところをみるとこの程度の肩書きだけでは権威にならないとも、そもそも鼻血そのものが現実味のない嘘っぽい話題だったとも言えるのではないか。

権威を背景にしたデマはなかなか消えない。鼻血デマの勢いが衰え息の根を止められたきっかけは、2014年の『美味しんぼ』「福島の真実」編だった。このとき「福島の真実」の真実が汚染された土地とされたらたまったものではないと反論の声が多数あがりデマを圧倒したが、なにより数多くの人が被曝が原因と思われる鼻血を流す現象の嘘臭さに気づいていたのが大きい。

また鼻血デマを漫画化して批判を浴びたことによって、同作は中断したまま再開されることがなかった。それまで幾多の大げさ過ぎる表現やまぎらわしい表現がまかり通ってきたが、今後は許されないとはっきりした。つまりマスメディアが損得を考えて鼻血デマを掲載しなくなるきっかけになった。

それでも「鼻血」を擁護する著名人がいて、デマを信じ切った人々がいまだに福島県や関東の人は鼻血を流していると言い続けているあたりに嫌なしつこさがある。

青木理の美味しんぼ擁護論の支離滅裂は典型だろう。どこが馬鹿げているか指摘しておく。

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日本型の忌避感から新型コロナ肺炎へ

過去のデマを復習したので、本題の新型コロナ肺炎ワクチンにまつわるデマへ話を進めよう。

この記事を読んでいるのは日本で暮らしている人がほとんどだろうから、ワクチンデマの日本固有の特質から説明する。

新型コロナ肺炎ワクチンデマの背景はひとつではない。

1.過去から続く反ワクチン(ワクチン忌避)

2. Qアノン陰謀論

3,5G通信規格と新型コロナ肺炎陰謀論

4.欧米製ワクチンの危険性を煽った中露の情報工作(EU説)

5.その他

それぞれ発祥が異なるワクチン忌避が別々に支持されるだけでなく、場合によっては複合しているため、新型コロナ肺炎ワクチンデマ(陰謀論)を一言で語るのは難しい。

これらの中で日本国内の忌避気分の土台になっているのは[過去から続く反ワクチン(ワクチン忌避)]だろう。

デマや陰謀論を抜きにしても、2020年12月段階調査では接種意向は以下のように高いと言いづらいものだった。
(リーディングテック株式会社は、『コロナワクチンに関する意識調査』)

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本来、思考が柔軟で情報へのアクセスが盛んなはずの若年層ほど「接種を希望しない」のか疑問を抱く人が多いかもしれない。

若年層ほど接種意向が低いのはワクチン行政の変化と関係が深い。

1948年、予防接種法が制定され天然痘以外の感染症でも予防接種が義務化された。
1964年にはじまったインフルエンザワクチン訴訟が80年代まで続き、この間報道はワクチン不要とワクチン危険論を訴え続けた。

新聞A

1994年、強制予防接種が緩和され定期ワクチン接種は義務から勧奨にとどめられた。1964年からの30年で薬害を生むワクチン、効果がないワクチン、恐ろしいワクチンという印象が年々強くなっていった。

これはHPVワクチン忌避にもあらわれ、報道との相乗効果で接種率が低迷し他の先進国と比較にならないほど多数の子宮頸がん患者を生み出した。

新聞B

1994年前後から現在に至るまでのワクチン接種経験が少ない世代は、それ以前のワクチンの効果を感じられた世代とは意識が異なっていて当然だろう。

また1990年代から2000年代に自閉症児の問題が取り上げられる機会が増え、ワクチンと一緒に体内にエチル水銀が入ることによって自閉症が生じるという言説が広がった。

こうした時代を過ごした人々にとって、ワクチンは体内に異物を入れ、予防効果がないにもかかわらず、悪い影響ばかり与えるものと思う傾向が生まれた。

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これが日本でのワクチン忌避の土台であり、さらに別の陰謀論が重なりあう場合も多い。

また1960年代から現在に至る反ワクチン運動が理論から人脈まで膨大な蓄積があり、なかでも識者、学者、政治家からマスメディアにまで広がる人的ネットワークの存在は無視できない影響力を持っている。

なお前掲の調査結果を見てもわかるように、ワクチンは権力者の陰謀と考える人は1.1%だった。つまりワクチンデマを信じている人の圧倒的多数はワクチン害悪論を理由にしているということだ。もし、身近な人が権力者の陰謀と言っているならかなり重症ということになる。

いずれにしろ、間違いがはっきりしていようと、どれだけワクチン忌避によって健康を損ねたり亡くなった被害者がいようとも、2020年代の日本ではワクチンに疑いを持つことは「普通」くらいに理解したほうがよい。

権威をめぐる活動家とメディアの関与

2021年5月15日から16日にかけて「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」のホームページにQアノンに影響を受けた陰謀論そのものといった文章が掲載されていたことと、ページが削除されたことが話題になった。

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「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」は2013年3月25日に設立された団体で、2021年6月12日現在の代表は松藤美香、副代表は山田真美子、事務局長は東京都日野市議会議員池田利恵だ。2017年11月段階の会員数は603人。厚労省その他にワクチンと重大な有害事象の因果関係を認めることと、副反応被害の原因が心身の反応や機能性身体症状ではないと訴え続けている。

Qアノンに影響を受けた陰謀論は1ヶ月以上掲載されていたと思われ、連絡会のWEBページのトップページ上部にバナーでリンクが貼られていたことと合わせて、単なるいたずらとは考えにくいものがある。

これなどは前項で示した反ワクチン運動を土台としてQアノンの陰謀論その他が融合した例である。

「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」はアクティブな活動によって反ワクチン・薬害系の団体としてメディアへの露出機会が多く、こうした団体が陰謀論に取り込まれているのは問題が大きいと言わざるを得ない。

「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」は反ワクチン、ワクチン忌避の人々には権威である。Qアノンの陰謀論を得々と語りはじめた連絡会に対して失望した支持者も多かっただろうが、連絡会の権威を背景に陰謀論に自信を持った人々もいたはずだ。

「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」はいきなり陰謀論の信者に成り果てたのではなく、以前からホメオパシーに傾倒していることからも非科学的な主張と親和性のある団体だったのだろう。連絡会の支持者がホメオパシー団体に権威を感じ同調し、ホメオパシー団体の支持者が連絡会に権威を見出したことも容易に想像できる。

このような閉じた関係で相互の影響力を高めるだけならまだよいが、過去にはテレビ番組に頻繁に登場していて、番組の権威を借りて支持者を拡大させたのは間違いない。「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」名義で取材を受けるなどしたテレビ番組はわかっているだけでも以下の通りだ。

みんなのニュース 2015年9月17日(木)15:50~19:00 フジテレビ
NEWS23 2014年11月25日(火)22:54~23:53 TBS
情報ライブ ミヤネ屋 2013年6月17日(月)13:55~15:50 日本テレビ
情報ライブ ミヤネ屋 2013年6月17日(月)13:55~15:50 日本テレビ
報道ステーション 2013年5月16日(木)21:54~23:10 テレビ朝日
報道ステーション 2013年5月16日(木)21:54~23:10 テレビ朝日
スーパーJチャンネル 2013年5月16日(木)16:53~19:00 テレビ朝日
スーパーJチャンネル 2013年5月16日(木)16:53~19:00 テレビ朝日

「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」の池田利恵は東京都日野市議会議員だったが、国会議員にもワクチン接種は害ばかりであると言わんばかりの活動をしている者がいる。しかも彼女は医師だ。

あべともこ

阿部知子は「私は反ワクチン論者とやらではありません」とツイッターで発言しているが、ワクチン接種の抑制から忌避につながる発言と活動が顕著だったのは間違いない。

あべともこ発言

主張の前提「子宮頸癌が検診によって防げる癌である」が誤りで、子宮頸がんは検診で発見することができても“防げる”病気ではない。子宮頸がんはマザーキラーの異名を持ち20代から50代の若い世代に発症し、(どれだけ頻繁な検査をしていたとしても)発見が手遅れになる率が高い癌だ。

国会議員かつ医師の立場から非医療従事者を混乱させる情報を流布させ続けるのはデマゴーグ(大衆扇動者)と呼ばれてもしかたないだろう。

1960年代から現在に至る反ワクチン運動が蓄積したものや構築したもの、識者、学者、政治家からマスメディアにまで広がる人的ネットワークとはどのようなものかを、阿部知子が医師としてだけでなく国会議員になり、議員として活動(街宣等)していることからも理解できる。

自然派・スピリチュアル派

2020年代の日本ではワクチンに疑いを持つことは普通くらいに理解したほうがよいと前述した。

高度経済成長が爛熟期へ向かう1970年代半ばから、有吉佐和子の長編小説「複合汚染」に代表されるように国民の意識は鋭く公害問題へ向かうようになり自然食、自然療法、健康食品の流行がはじまる。

こうした自然回帰志向は商業主義と結びついたほか、ヒッピームーブメント残滓のサブカルチャーや、1980年代に宗教的選択肢ともなったニューエイジ思想を背景としたライフスタイルとして日本に定着した。

戦中世代が自然回帰志向として自然食、健康食品の先頭を走り無添加、玄米食、紅茶キノコ……といったものを生活に取り込んでいったとすると、団塊の世代は大いなる宇宙・自然・生命がつながるとするニューエイジの先頭を走った世代かもしれない。(もちろん全ての人がそうだったという訳ではない)

1980年代から90年代は商品広告や商品名に「自然」「自然派」「ナチュラル」とコピーがつく例が珍しくなく、2000年代になると「オーガニック」など同類の語彙が増えて行く。

生活協同組合/コープの惹句を見てみよう。

“コープ自然派は、生産者と消費者の『顔の見える関係』を大切にし、​自然を守り、自然と共存する暮らしの実現を目指します。”

“忙しい日々の中でも「食」と「暮らし」を大切にしたいあなたに。生協の宅配 コープ自然派なら、オーガニック、しかもお手頃。「安心」「おいしい」「便利」をお届けします!”

自然派と呼ばれる人々は、自然回帰、自然と共存、人間性回復、丁寧な生活……といったものを最上の価値とする人々と言えそうだ。

そしてニューエイジ思想から発展した精神世界の自己探求や精神変容、オカルティズムや霊的存在を追及するスピリチュアリズムに親近感を持つ人たちスピリチュアル派がいる。

団塊の世代以降は多かれ少なかれ自然派やスピリチュアル派の影響下にあると言えそうだ。そして自然派とスピリチュアル派は科学文明と相性が悪い。1994年以降ワクチン行政が大幅に後退したことと合わせて、ワクチン忌避が生まれる土壌になっていると考えられる。

ワクチン忌避

陰謀論やデマに傾倒した人々のなかに高い頻度で自然派、スピリチュアル派と目され人々がいる。本人がはっきり自覚している場合もあれば、発言や生活様式からわかる人、考え方の傾向からうかがえる人までいたが、程度が強い人ほど陰謀論やデマへの傾倒ぶりもまた激しかった(とうぜん例外もある)。

なぜ彼らがワクチン否定論ばかりか陰謀論やデマに傾倒しやすいか次項で考察する。

利用されやすい人々

(ここに挙げる例、特定の属性などは典型的であったり顕著だったりするもので、必ずしも全てがそうなる、全てが間違っているなどと断定するものではない)

権威がつくるデマ、権威の威を借りるデマの発信と伝播経路を整理すると次のようになる。なお、模式図は被曝デマを例とした。

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デマは、それが真か偽か判断できる人たちの間には発生しない。情報が[嘘か真実かわからない人たち]の間にデマが発生する。社会に拡散されて行くデマによって、情報の真偽がわかる人たちの生活のみならず様々な権利が侵害される。こうして社会問題に発展する。

デマ概略

そして現代のデマはメディア、識者、著名人などの権威のもと発信された「不安」「危険」「紛らわしい」情報から生じやすい。

新型コロナ肺炎ワクチンのデマにはある種の定型があり、内容と煽りかたの原型は2021年1月に連続しワクチン不安報道にあるのではないかと感じる。この時期から現在まで報道は危険性や無効性を煽る傾向が強く、ワクチンの有効性や安全性(あるいは正しい副反応情報)を伝えるものがあまりにも目立たない状況にある。

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2月は医療従事者への接種が開始されると副反応報道ばかりが続いた。

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3月に顕著だったのは、こうした報道をベースにしたワクチン不安を煽る医療従事者を騙るアカウントの登場だった。

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陰謀論やデマを信じ込む人には決定的な特徴があった。

・不安なとき、不安がもっとも強くなる情報を正しいと判断する。
・心地よく聞こえる情報が好ましい情報と思う。

このため「不安を解消しようとしている情報は嘘。自分を騙そうとしていると」と考える傾向がある。

「正常性バイアス」という言葉を使い、「あの人たちは正常性バイアスで判断が狂っているから危険性や不安を否定する」と自分の判断を合理化するケースもある。

この傾向については──

──で実例をあげて説明した。

ワクチン接種については、科学的見地から「過剰に不安がる必要はない」「メリットが圧倒的に上回る」と説明されている。

だが「不安を打ち消すアドバイスだから嘘だ」と考える人だけでなく、科学的見地や学者や医師に反感を抱く人がいる。

自然回帰と精神世界の重視を原点にしている自然派、スピリチュアル派の人々の思考パターンが科学、現代医学、国家、企業を嫌悪する傾向にあるのはとうぜんで、これらの人が推奨するものは悪であると結論しがちだ。

デマ概略2

自然派とスピリチュアル派に限らないが、情報が[嘘か真実かわからない人たち]=真偽がわからない人たちは、わかったふりをしたり、自分で考えて真理をみつけたふりをしたがる。

特にスピリチュアル派は自分でみつけた真理に最上の価値を見出すため、たとえ誰かに吹き込まれた陰謀論やデマであっても「自分でみつけた」「覚醒した」と解釈する傾向がある。

大衆を扇動したい者や団体は、このような傾向を帯びた人がどのような人で、どこにいるかわかったうえで、
・権威
・不安と危険を煽る情報
・敵対勢力と味方の構図
を揃えて、勧誘をはじめる。

権威が発信した不安情報や紛らわしい情報とデマそのものを、自然派・スピリチュアル派へ橋渡しする。アメリカで様々な人を覚醒させたQアノンの言葉、長年にわたり反ワクチンを訴え続けた団体や人の言葉、報道が伝えた副反応、記事になったあの人の言葉、開発会社の元重役による暴露等々という触れ込みでだ。

反原発運動で政府や東電以外に科学者が吊し上げられて攻撃目標にされたように、ワクチン開発元、医師、研究者などを敵認定する情報が流される。

敵と味方がはっきりすることで、デマを信じる人たちは自分の正しさを確認し、正しさのため敵を倒さなくてはならないと戦いはじめるのも珍しくない。

そこまでやって活動家やデマ拡散者にどのようなメリットがあるのか。

反ワクチンや代替医療の団体なら、潜在的な顧客を発掘し、いますぐ自らが提供・販売するサービスに囲い込むことができる。なかにはPCR検査でこれからも儲けたい人もいるだろう。

また反原発運動のように、支持者を集めて政治的運動に囲い込むかもしれない。

アメリカの反ワクチン業界は12人で年間40億円の儲けを出しているという研究がある。

陰謀論やデマを信じる人にとって、信じること、信じて行動することは「快楽」だ。不安から真理に到達して「快楽」が得られるのだから、そう簡単に離脱したりしないのだ。

デマ概略B

ややこしいのは、反原発・被曝デマにも多数いた愉快犯が反ワクチンにもいることだ。愉快犯がどのような人たちかは 「被曝デマ発信者と騙された自主避難者の悲惨」 で紹介した。読むだけで気分が悪くなるような事例だが、このような者どもがいて陰謀論やデマが浸透しているのを知るうえで一読をお勧めする。

愉快犯は活動家のように世のため人のためと言いながらデマや不安情報を供給し、活動家がやっているようにデマを否定する人々を敵対関係にあるとして挑発する。

デマに呑み込まれている人々にとっては愉快犯には見えず活動家や同志と思えるようだ。しかし愉快犯はデマを信じていても、いなくても社会が混乱することに快楽を感じているに過ぎない。デマを信じる人々にも混乱が生じ不幸が発生することを望んでいるのだ。

何ができるか

陰謀論とからみあったデマを信じている人を軌道修正するのはほぼ無理であると冒頭に書いた。しかし、これ以上陰謀論に深入りさせず、若干なりとも軌道修正させたいと誰もが思うだろう。

まず、ほんとうに陰謀論やデマを信じているのか確かめてみてはどうか。

事例1
デマを根拠にワクチンを接種したくないと言い出した人がいたが、他の人との会話から子供のとき集団接種で副反応を起こした同級生を見て注射嫌いになったのがわかり、注射が怖いと言いたくないうえに説得を拒絶するためデマを利用していたのがわかった。

事例2
高齢者がワクチン接種会場へ向かうと、会場のそばで“コロナはただの風邪”とか“ワクチンで死者が出た”と街宣をしている人がいてチラシを渡された。チラシには皮膚がグロテスクに変わり果てた人や発狂しているような人の写真があり、街宣している女性が語った説明も恐ろしいものだったので接種せず家に戻った。後に、接種しなかったことを後悔した。

こうした人は、事例2のように他の人が接種し終えたり、接種しないことで社会的・経済的デメリットがあるのがはっきりすると後悔するものだ。「ほんとうに信じているのか」と聞くよりも、ワクチン接種の実利を伝えたほうがよい。

今後、海外渡航だけでなく国内の移動、施設利用(公的場所のみならず遊興施設まで)で接種証明の提示が必須になる可能性が高い。嫌な言い方ではあるが「人並みに扱われない」状況になるかもしれないのは覚悟しなければならないだろう。

また大げさな話を信じ込んでいる程度の人、たとえば副反応で死ぬ人が多いなどと言っているなら、「世界中でたくさんの人が接種し終えたけど、そんなにたくさん亡くなったの?」と話をふり、もし相手が話にのってきたなら副反応が生じる割合や、死亡例とワクチン接種の因果関係についてゆっくり話をする。

こちらから正しい情報を教えるのではなく、「亡くなった人はどのくらいいるの?」「その割合は(自分が住んでいる自治体)XX市で何人くらいの割合だろう」などと会話のなかで問いかけて、相手が気分を害したら中断する。会話が進むなら、答えを出していく。一回の会話、一日の会話で結論を出そうとせず気長にやるほかない。

意外かもしれないが、駄々をこねるためにデマを利用している人は多い。たとえば「マスクは酸欠になったり、呼吸する際の抵抗が大きくて害になる」と言っている団体や個人が、「マスクのメッシュは粗いから感染予防の役に立たない」と言っている。そして漁網のような網目のマスクをこれ見よがしにつけたりしている。マスクをしたくなかったり自粛をしたくないからケチをつけているだけだ。

この人たちにとって実利とは、自粛せず経済活動をすること、感染拡大を抑えるための設備などに投資せず儲けを出すことなので、ワクチン接種によって経済活動が活発になり利益が出るのなら(何らかの特定の商売以外は)反ワクチンにこだわる必要はないのだ。

しかし明らかに陰謀論を背景にしたデマを信じ込んでいる場合は、デマの発生、扇動している人たちの傾向を把握したうえで、当人を孤立させないよう話を聞いてあげるほかない。

「世界中でたくさんの人が接種し終えたけど、そんなにたくさん亡くなったの?」とか「大接種会場で接種した人がたくさん死んでいる話を聞かないし、腕に磁石がはりついた人もいないね」と言ったとき、陰謀論で繰り返し反論したり怒り出したらかなり重症だろう。

またこのような会話で、相手が信じている陰謀論またはデマの傾向を知ることができる。比率、割合を過剰に捉えているようなものなら認知を修正するのは比較的容易だろうし、政治性がないなら情報源はさほど悪質ではない。政治運動、集金、物品販売、精神的支配を目的にしているのがわかったら、対処に向けて覚悟が必要だ。

ただし自然派・スピリチュアル派であることと陰謀論やデマが密接に結びついていたとしても、この人にとっては生きる原理であり常識そのものだから否定したりやめさせようとしないほうがよいだろう。そもそも、やめさせようとしてやめさせられるものではない。

見捨てられる相手なら関係を断てばよい。見捨てられないなら、孤立させるのだけは避けたい。家庭内等での孤立は、当人を破滅主義的であったり破壊的な言動へ加速させ家族だけでなく他人に危害を加えはじめる可能性がある。

孤立や孤独に対して、陰謀論者やデマ発信元、活動家と運動体は自分を正当に評価してくれるとても魅力的な人物であったり集団なので、ますます間違った考え方に没入する。これが彼らにとって「快楽」なのだ。

また陰謀論やデマを誰かに吹き込んだり、敵対する人を挑発することで得られる反応は気分を高揚させるため、あらたな被害者を生み出しかねない。

ここからはカルト脱退の専門的知識で対応するほかない。そのときあの人がなぜワクチンデマを信じるようになったのか、そもそもどこから唆されたのかわかっていなければどうにもならないのだ。



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