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“コロナ脳” と馬鹿にする人と地域、蔓延の関係

著者:加藤文宏(Kヒロ)、ハラオカヒサ

キーワード“コロナ脳”の誕生

コロナ脳という言葉が生まれた瞬間を紹介しようと思う。

“コロナ脳”がWEB上で使われた初出を探ると2020年1月24日にツイートされた例と、1月28日29日の例が見つかった。(日付を区切ってWEB検索しし、さらにSNS内を検索して精査した)

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1月24日/コロナウイルスにはコロナビールをぶつけるようなコロナ脳はやめろ]ダジャレの域を出ないうえに、独り言といってよいツイートだった。[いいね]を1つ獲得しているが広がりを得たとは言えない。

1月28日/放射能とは訳が違うことをまだご理解していない すでに国民はコロナ脳になってパニックを起こしているのだ]
1月29日/コロナ脳と放射脳は同じ人種]
これら2件は原発事故をきっかけにパニック陥った放射脳とコロナ脳の関係に言及されている。両ツイートともにわずかではあるがリツイートされている。1月29日にツイートしたアカウントは、その後しばしば“コロナ脳”という言葉を使い続けている。

1月28日にパニックを揶揄する言葉=“コロナ脳”が誕生したと言ってよいだろう。

これらがツイートされた2020年1月を振り返ってみたい。

1月19日、春節がはじまり中国で帰省ラッシュと旅行で移動する人が大量に発生。
1月20日、中国人観光客が都市部のドラッグストアでマスクを大量買いしている様子が目撃される。
1月21日、WHOがヒトヒト感染に言及。1月29日、武漢からチャーター機で帰国した邦人が館山のホテル三日月に隔離収容される。
1月30日、WHOが国際緊急事態を宣言。
こうしたなか1月20日以降、日本国内でマスクと消毒薬を求める人が日に日に増え、月末までに品不足が深刻になっていった。

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1月28日29日にツイートされた“コロナ脳”とは、ほぼ唯一の防御策とされたマスクと消毒薬を必死に買い求めたり、正体不明のウイルスに怯えパニックに陥っている人のことだったのは間違いない。

誰が“コロナ脳”と言ったのか

“コロナ脳”はWEB上で2020年1月半ばから末発生した。

発生源は、(現段階では)冒頭で紹介したように1月29日のツイートとする。

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2月になるとツイッターのアクティブに発言するアカウントが使用するようになり、“コロナ脳”の定義が確立して、共通認識のもと使う土台ができた(確立)。

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この段階ではRT数は多くなく、2月26日のツイートにあるように「次のトレンドはコロナ脳。これ来るよ。」といった状態だった。

3月にはこれまで以上に“コロナ脳”が使われ(拡散)、
4月には緊急事態宣言の発令もあり“コロナ脳”=過度に怖がる人という意味だけでなく、
[行動を自粛して経済を停滞させる人]という批判的な意味が連れ加えられた。

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スクリーンショットは4月末のツイッターでの様子だが、当時永江一石が盛んに“コロナ脳”を使い、永江に同調する人々がRTを繰り返している。

このとき「自粛をすると経済が滅びる」とする論調が支配的だ。誕生当初は不安や恐怖でパニックに陥っている人の意味だった“コロナ脳”が、[行動を自粛して経済を停滞させる人]を言い表すように変化したが、こうした論調に誘導していたのが経営者や投資家、コンサルタントなどを名乗る人々だったのは興味深い。

“コロナ脳”が使われるようになった経緯を調べていると気になることがあった。

前述のように経営者や投資家、コンサルタントなどが[行動を自粛して経済を停滞させる人]を“コロナ脳”と呼んで行動の自粛を揶揄しながら批判しているのをみると都市部から発信された情報のように思える。

だが、こうしたインフルエンサーに反応している人々は必ずしも都市型の人でなく、むしろ地方在住者のように見受けられた。地方在住者ほど“コロナ脳”という言葉に惹かれて使い出した印象だった。

WEB上の流行や流行語は首都圏と京阪神を中心にした広がりをつくるか、都道府県別の偏りがないのが普通だが、“コロナ脳”にかぎってはかなり偏りがある雰囲気だった。

たとえば“コロナ脳”の元ネタである“放射脳”の人気と関心は首都圏と大阪に大幅に偏っている。

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いっぽう“ウマ娘 プリティーダービー”は全国満遍なく高いスコアを示している。ウマ娘の人気や関心が特定の地域に偏っていない状態で、全国満遍なく情報や画像などを求めているのがわかる。

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上記2例が、まさにSNSで話題になっていて皆が発言している状態を示している。

いっぽう“コロナ脳”は首都圏や京阪神の都市部を除いた地方に使用者が多いのではないか、という気がした。あるいは田舎というほどでもない郊外または周辺部で共感されている様子だった。

そこでキーワード“コロナ脳”がどの地域で人気があったかGoogle Trendsで小区域別インタレストを調べたみた。

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[発生]

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発生地が首都圏以外の地域ではないかと類推される。もしくは首都圏や京阪神の都市部在住の誰かが発案してWEB上で使ったが近隣の住民には共感されず、他の地域の人々には共感されたのかしれない。

[確立]

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言葉の意味が確立されると首都圏の動向に動きが現れた。[発生]時に人気が高かった山口県が圏外に消えたが、中京圏で人気が盛り上がっている。

[拡散]

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中京圏は愛知県を除いて圏外に消えたが、残った愛知県で人気が大きく伸びた。関西で人気があがりはじめた。ここまでの動向から、“コロナ脳”は愛知県で生まれ、一人または(この1名の周辺にいる)数人が繰り返し使い続けていた可能性がとても高い。

いずれにしろ“コロナ脳”は、首都圏や京阪神の都市部で共感され広がった言葉ではなく、それ以外の地方で共感され、使われる頻度をあげていった言葉と考えられる。

2020年上半期下半期2021年上半期に区分して、キーワード“コロナ脳”の各地方での人気の推移をみてみよう。

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いずれの時期も総じて首都圏と京阪神の都市部(緑色の帯)より、その他の地方でキーワード“コロナ脳”は気に入られているようだ。

そして、“コロナ脳”は感染者が増え社会に緊張度が増し、マスクの着用や防疫のための自粛が叫ばれたり、身を守る行動を取る人が増えると揶揄するために盛んに使われ、使われるため人気や関心が増す。


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このようななか、2021年上半期に首都圏で人気が低下しているのは、2020年11月から2021年初頭にかけての猛威と関係があるかもしれない。“コロナ脳”などと言っていられなくなったのではないか。

“コロナ脳”はローカル発祥・共感型の言葉である

2020年4月に“コロナ脳”は「新型コロナ肺炎を過剰に恐れる人、恐れるが故にパニック陥っている人」というよりも、「新型コロナ肺炎はたいした感染症でもないのに大げさに身を守ろうとしている人」や「その人の大げさな行動で経済が回らなくなっている弊害」を意味をする言葉になった。

クラスターの発生や医療の逼迫は、まず北海道で発生し、次に東京から首都圏に広がった。その後は他の都市圏で感染者を増やし、これら地域に自粛が要請された。

こうした切迫した状況にない地域にはマスク、手洗い、自粛、その他防疫は大げさで馬鹿げているように見えるのかもしれない。また都市部の人たちと同じように防御する、同じ地域の人々は経済活動を止める愚か者ということになる。

“コロナ脳”という揶揄に共感が抱く人が多い地域として気になるのが、北海道沖縄の動向だ。

北海道は“コロナ脳”という言葉の発生初期から関心が続いている。

北海道は“コロナはただの風邪”が定型句としてつかわれはじめた地域と思われる。“コロナはただの風邪”が生まれた事情については以下の記事で実例をあげて経緯を説明した。

沖縄もまた人気が継続していて“コロナ脳”への関心の高さがはっきり現れている。そして2021年のGWに手に負えない蔓延状況に陥り現在に至っている。

以下の報道が沖縄の状況を端的に示している。

 

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沖縄医師会からのメッセージのうち、マスク、手洗い、三密回避は都道府県で2020年4月から5月に示され最近は常識と化していたものだ。この時期に敢えて強調しなくてはならなかったのだ。

「若者に午後8時以降の外出を控える」ように、会社の上司は若者が意識改革してほしいとも要望している。東京でも3月から4月にかけて路上飲みが問題視されたが、より歯止めが効かず深刻な状態であると耳にした。“コロナ脳”と揶揄される人々と正反対の反自粛行動である。

“コロナ脳”と言った人は4パターン

まとめに入ろうと思う。

“コロナ脳”と言った人、この言葉を使った人は4パターンに分類できる。

パターン1.パニック状態の人を言い表すために“コロナ脳”という言葉を開発した人。
パターン2.“コロナ脳”を使うことで意味を絞り込んで行き確立させ、拡散させていった人。
パターン3.事業の妨げになる自粛行為を否定するため、“コロナ脳”を行動を自粛して経済を停滞させる人の意味へ誘導し、これを使った都市部の人。
パターン4.感染が深刻ではない地方で、都市部に顕著だった自粛行動を奇異に感じ、「経済を停滞させる人々」という言説を間に受けて使いはじめ、自らも反自粛へ傾いた人。

都市部では満員電車の通勤、業務のリモート化など感染の蔓延は切実な問題であったため、“コロナ脳”を嘲笑う風潮は定着しにくいものがあった。国民主権党の平塚正幸と支援者たちは、“コロナはただの風邪”などと主張し“コロナ脳”な人々を笑ったり批判したが、都知事選と千葉県知事選での落選という結果に現れている。

SNS上の発言を気をつけて読むと、反自粛やノーマスクを盛んに訴えたり実力行使している人は都市郊外や更に外側在住で、サラリーマンやOLより自営業と主婦に多いのがわかる。

コロナ脳まとめ

そして地方では反自粛気分が広がり、“コロナ脳”を嘲笑う風潮はSNSでの発言を通じて都市部へのノイズや圧力になった。

猛威を経て

直近(2021年5月から2021年6月2日現在)の北海道と沖縄で“コロナ脳”の人気、関心はどうなっているのだろうか。

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北海道と沖縄で“コロナ脳”の人気、関心があきらかに低下している。また他の都府県でも概ね人気、関心が低いレベルになった。

“コロナ脳”という言葉に関心を抱いたり、“コロナ脳”と発言することで新型コロナ肺炎の感染者が増えるという、あたかも言霊みたいな現象を指摘したいのではない。

新型コロナ肺炎が蔓延したとき生活と経済はどうなるか専門家が説明をしても想像力を働かせることができない人たちがいる。もちろん都市部と地方にかぎらず存在するが、都市部では感染の蔓延と医療の逼迫を目の当たりにしていた。

2021年1月から5月は、首都圏と京阪神だけでなく地方でもこれまでにない感染の蔓延と医療の逼迫を経験した時期だった。もう誰も自粛やウイルスからの自己防衛を“コロナ脳”と笑っていられなくなった。

2021年1月からワクチン接種の話題でもちきりになった。経済を回す=反自粛といった立場や主張がもてはやされる段階ではなくなっていた。その後も反自粛を主張して“コロナ脳”を連呼する人々は多かったし影響を受けた人々は地方だけでなく都市部にもいた。

やがてどうなっていったかはコロナ禍カレンダーで思い出していただきたい。揶揄としての“コロナ脳”が勢いと説得力を失った背景が理解されるだろう。

さて誰が最後まで防疫のための自粛や自衛を馬鹿にし続けるか、必死になって馬鹿にする理由とともに見届けたいところだ。

 

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