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エビデンスのないデタラメをどうしたらよいのだろう? あの人も悩むくらい考えていた


ことの発端

加藤「ことの発端は、田嶋陽子の講演が主催者の品川区によって中止されたできごとです」

 東京都品川区内で開催される予定だった「男女共同参画推進フォーラム2023」が中止されました。講演予定だった田嶋陽子がテレビ番組で、東京電力福島第一原発の処理水放出を巡って不適切な発言をしていたことを、主催する区が問題視したからです。
 田嶋は、「そこまで言って委員会NP」(読売テレビ)に出演した際、処理水が海洋放出されると「魚の形態が変わってくるんじゃないのか」と発言しました。来日したIAEA(国際原子力機関)のグロッシー事務局長を、「IAEAは原発ありでやっていることだから」としたうえで「来た人だって顔色悪かったじゃん」と言い、「全然元気なくて、こんなになってた」と幽霊のように胸の前に手を垂らす仕草をしました。
 また開催中止を受け、「政府の意に沿わない発言をしたことをもって、講師を断るのは言論・表現の自由を否定するものと言わざるをえない」と区民の一部から決定を撤回するよう求める声があがっています。
(中略)
補足/田嶋陽子の講演が中止された理由を、筆者を含む品川区への2件の問い合わせへの回答として文中に示しましたが、さらに人種差別的発言があったためとする証言が浮上しました。

講演中止となった田嶋陽子氏 放射線デマをめぐる福島差別と言論の自由 前書きより

原岡「これは、民間が田嶋の講演会をやろうとしていて自治体が中止させたら言論の自由の侵害行為で違法だけど、主催していた品川区が諸般の事情で中止したことだから問題ないという解釈でいいのですか」
加藤「大きな枠組みとして、そうです。品川区は、番組内で田嶋が発言した内容を、人権を扱うフォーラムにふさわしくないと判断しました。田嶋も了承したということです」
原岡「とうぜんだと思う反面、ちょっと複雑な気持ちだったりします」
加藤「そうそう。エビデンスのないデタラメをテレビでしゃべって、ふさわしくない人選と判断されたのはいい。だけど……」
原岡「『エビデンスのないデタラメ』というのは判断の基準ですよね。これは大切です。でも、エビデンスに基づいて被曝の不安を取り除こうとしたり、本当の福島を伝えようとしたとき、発言の機会を奪われる経験をいろいろな人がしました。こういうとき、どうしようもなかった」
加藤「田嶋の顛末だけの話ではなくなっているよね。さらに、そうは言っても言論の自由とのかねあいが気になってしまう。まず実例で考えてみようよ」

医療問題でも感じたこと

原岡「私がツイッターとnoteで更新担当をしていたとき、ニセ医療問題を扱いました。デタラメな治療法が本になって大量に売られていたり、講演会で広められていました。反ワクチンも、そうです」
加藤「ニセ医療の書籍をどうにかしなければいけないと、みんな言っている。だけど、どうにもできない。陰謀論の書籍や講演会も同じです」
原岡「取材をしてみると、体調を悪化させたり、亡くなっている人がかなりいることがわかりました。ニセ医療の医師を頼って亡くなられた乳がん患者は、最後まで効果のないサプリを頼っていました。悲惨でした」
加藤「ニセ医療の本や講演は、エビデンスのある話とない話を巧妙に混ぜていたね。肝心なところで『ぜったい治る』と言い切らない、うまく逃げた宣伝文句をつくりあげていました。こういう実態に触れると、『エビデンスのないデタラメ』を基準にしても、うまく排除できない絶望を感じた」
原岡「医師には裁量権があって、医師の判断で治療を行うというのもあります」
加藤「体調がよくなっている患者が何人もいると言いきった、ニセ医療の医師もいた」
原岡「あれはプラセボ効果ですよ。ひどくなった人は途中で治療をやめていったり、やばそうなときは大学病院に紹介状を書いて追い出したりしてました。標準治療の先生が、『あんなひどい紹介状は見たことがない』と呆れ果てていたのが印象的でした」

福島の話

加藤「放射線デマ、被曝するというデマに話を戻そう。これらは『原発事故の被害を実際より深刻に見せかけるための嘘』でした。エビデンスのないデタラメです」
原岡「田嶋の『魚の形態』や、IAEAの人が病人や死人のようだというのは、前からある放射線デマの直系デマですよね」
加藤「大袈裟であったり、根も葉もない話。これを原発や処理水放出への批判に使う。やがて真実にされていって、信じ込む人がいた」
原岡「風評が立ったのは『国や東電が悪い』と言うけれど、そんなことはない。風評を立てた人が悪いに決まっている」
加藤「デマの代表が鼻血。週刊文春が掲載した『肥田舜太郎 内部被曝患者6000人を診た医師が警告する』や、東京新聞の『こちら特報部[子に体調異変じわり』がデマに火をつけた発端だけど、規制できたかといえば難しい。根拠薄弱な内容だけど、規制できない。朝日新聞の『プロメテウスの罠[我が子の鼻血、なぜ]』も、鼻血を流したという証言を被曝のせいではないかもしれないと、言い逃れで覆う巧妙なものだった」
原岡「頭にくるけれど、この世にエビデンス警察はないし、取り締まるための法律もありません。公的な機関がいきなり雑誌や新聞の回収を命じたら、それこそ言論の自由の侵害になってしまいます」
加藤「10年前に、どこかの自治体が講演会をやろうとして、いまデマ屋と呼ばれている連中を講師に選んだとする。つまり田嶋の例と同じ状態になったとき、はたして主催自治体がデマ屋を排除できたかどうか」
原岡「三春町(福島県中通り中部に位置する自治体)が、科学の装いで不安を煽る小出裕章を呼ぶイベントを後援したのが、今年の1月です」
加藤「これは民間が運営する講演会だった。林智裕さんはじめ多くの人が、小出の講演会を後援しないよう三春町に要請したり、言論で批判した。だけど、どうにもならなかった」
原岡「自治体が常に正しい判断をするとは限らないし、言論で対抗するのでは即効性がありません。自治体が判断を誤ったとき、対抗する言論の側が排除されてしまうかもしれない。即効性がないから、批判がまったく追いつかないことだってあります。田嶋のできごとから、ずっと悩むように考えていたのが、この問題です」
加藤「デマと対抗言論の総量を比較するのは難しいけれど、デマを打ち消す声が少なかったわけではないと思う。でも、メディアが加担した鼻血とか、刺激的で危機感を煽る話のほうが浸透してしまう。この結果が、目も当てられない風評被害だった」

何が変わるのか
変わったのか

原岡「これって、『風評加害の発生回路(情報災害の発生回路)(図1)』をシャットダウンさせる、特効薬がなかったのと同じですね。でも品川区の例で、何かが変わりそう」

図1

加藤「(ラップトップPCで回路図を開いて)研究集会で初めて『回路』を発表したとき、開沼博准教授から『回路を断つには?』と質問されて、『言論の自由との兼ね合いもあるから着実に対抗言論を打ち出すほかない』と答えました。暴力的なことをしたら、正当性が根幹から崩壊してしまう」
原岡「田嶋のケースは、図の中の[活動・主張]の場が品川区の判断で消えたことになりますね」
加藤「いやいや、そうではないよ」
原岡「ちがうのですか。どうしてだろう」
加藤「図の情報加害の発生回路の中の[政治家・活動家]が田嶋。[活動・主張]が、例の発言。[報道]は『そこまで言って委員会NP』」
原岡「発生回路ができあがっていたんですね」
加藤「次の段階を説明するよ。品川区のフォーラムは、原発関連をテーマにしたものではありません。いくらなんでも田嶋だって『魚の形態』なんて話はしないでしょう。それにフォーラムは中止されて存在しません」
原岡「うん? もう一度、最初に戻って確認させてください。風評被害を招いたり、人種差別的な発言をした田嶋は、人権をテーマにした講演会に不適切とされました……」
加藤「そうです。品川区は田嶋を人権的に不適切としただけですが、同時に暴言を放送した読売テレビの番組も、番組を見て影響された人々も否定されたのです。つまり情報加害の発生回路のすべてが不適切とされことになります。これを、さっきの図に書き加えてみると──(図2)」
原岡「ああ、丸ごと否定されたんだ。あんな発言を垂れ流して視聴率を取ろうとしたのだから、そうなりますね」

図2

加藤「どんどん行きますよ。田嶋は風評被害を招いたり、人種差別的な発言をする、人権を語る資格のない人物とされました。さらに番組と番組の影響を受けた層を含めて回路のすべてが、人権を語る資格のない回路とされたようなものです。風評加害は人権侵害であるし、風評加害は人権問題ということがはっきり示されました」
原岡「でも品川区は、そこまで言ってないですよ」
加藤「言う必要のないことですからね。でも風評加害問題を追及して、社会からなくしていこうと考える側は、このように解釈すればよいと思います。だって、そういうことになるじゃないですか」
原岡「たしかに。これは世の中が思っているよりおおごとですね」
加藤「田嶋はフェミニズムの研究者ですが、人権を語る資格がないとされたのはおおごとです。読売テレビの『そこまで言って委員会NP』だって、そうです。なにより、反原発側ならエビデンスのないデタラメを言ってもかまわないという思い上がりと甘えに、終止符が打たれたのです」
原岡「でも、理解できている人がどれだけいるだろう」
加藤「効いてくるんじゃないですか。察しが良い人は、青くなっているかもしれない。まずフェミニズムを看板にしていた田嶋が、人権を語る資格がない、男女共同参画推進を語る資格がないとされました。なぜ、そうなったかは説明するまでもありません。風評加害者だったからです。そして番組だって、偉そうに社会や政治を語る資格のないものとされた。次は誰が、同じ目を見るか」
原岡「うわっ!……」
加藤「うわっ、てなるできごとなんですよ」

退場してもらうために

原岡「これは、言いふらさないと(笑)」
加藤「キャンセル・カルチャーで機会を奪ったわけではないから堂々と言いふらせます。品川区は田嶋がどんな思想でもかまわないとはっきり言ったうえで、人権侵害の風評加害者に講演させてしまっては趣旨と矛盾するし、責任を持てないからフォーラムごと中止にしただけです。言論の自由の侵害でもありません」
原岡「自滅したデマ屋は多いですが、未だに生き残っていたり、田嶋のように今頃になって言い出すのもいて、こんな人たちは原発問題や復興問題から退場してもらわないと困ります」
加藤「すくなくとも田嶋は退場してもらって、一罰百戒な存在になってもらうほかありません」
原岡「でも、田嶋の発言、男女共同参画推進の講演会、品川区の判断と、条件がそろったのは珍しい。ラッキーだった」
加藤「そうですね。でも、他の自治体に対して前例がつくられました。文化人や学者、政治家にもです。反原発だからと甘えた態度で、エビデンスのないデタラメを言っていると厳しく対処される。しかも人権侵害や差別をする人だとはっきりしてしまう」
原岡「反原発以外で、エビデンスのないデタラメを言う人たちにも、いずれ効いてきそうですね。ただ、そのためには『風評加害の発生回路』を理解して、状況を整理しておかないといけないでしょうね」
加藤「真っ赤な嘘だった草津町のレイプ告発は、このまま当てはまります。真っ赤な嘘を使ってフェミニズムの運動を展開させた、活動家と政治家。この活動から虚像を生み出したメディア。示唆された怒りの対象を攻撃した人々。私は、これらの登場人物を構造図に代入して成り行きを見てきました」
原岡「そうか、草津も情報災害だ」
加藤「すると判断を誤らないだけでなく、その後の展開も易々と予想できる」
原岡「ああ、だから安倍暗殺事件のときも統一教会でも、ブレずに済んだと」
加藤「大衆を扇動したあれもこれも、ね。政治的立ち位置から考えたポジショントークでは振り回されてしまっていたと思う。こうした理解で着実に攻めるほかないのですよ」
原岡「汎用性が高いですね。これが筋道のタテツケってやつですね(笑)」
加藤「宣伝ありがとうございます(笑)。あなたとやってきた活動の到達点だから、自慢しながら言いふらしといてください」

(筋道のタテツケ通信の、木の枝をイメージしたメンバーシップ画像は原岡ひさのが描きました)


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