見出し画像

30代に何が? 反ワクチンの世代

世代は社会や文化的背景で特徴づけられます。30代から40代にかけての層がコロナ禍の反ワクチン運動で目立ったとする証言やデータがあります。

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

(2021.10.20 誤記訂正 / ある候補の得票率にみる反ワクチンの項、一箇所)

運動の中から見た年齢層

それは反ワクチン活動から離脱した人が発した一言だった。

(デモや講演会の参加者について)
「30代。40代でも若めの人。ノリがいい年代で子供のワクチンに神経質になっているのかもしれないですね。年齢高めの女性も多いです」

あくまでも彼の印象だが、アクティブに活動していた人々の年齢層を次の図のように感じたと言う。

世代


「リーダー格だと平塚正幸は39歳、池田としえは60歳くらいだったはずです」

このあと彼は「あの人は何歳くらいだった」と反ワクチンの活動で知り合った人々の例を挙げて行った。

反ワクチンの主張で目立っているU医師は46歳。「ちょっと上かな」……と思ったが、いままでに対面して話を聞いたりメールなどで知り得た反ワクチン派の世代を振り返ると、上掲の図でグラデーションを描いている年齢層に似ているのに気づいた。

彼の証言も筆者の印象もデータに裏付けられたものではない。もちろん様々な年齢の人々にワクチン忌避がある。だから彼の証言と筆者の実感はひとまず封印することにした。


ある候補の得票率にみる反ワクチン

画像1

2020年10月17日、佐賀市長選の結果が判明した。

この選挙では細川ひろし氏(61歳)の主張が市民からどの程度支持されるか注目を集めたのは、彼が標準医療からはずれた主張をしワクチン接種の即時中止を訴えたからだった。つまり得票率から市民の標準医療やワクチンへの信頼度を知る手がかりが得られることになる。

細川氏の年代別得票率を見ると30代と40代に標準医療に疑いを持ち反ワクチンを支持する人が多いのがわかる。これは反ワクチンを主張する人々に30代に多いと言われていたのと同傾向であり、前述の元活動家の証言とも一致している。


接種意向調査から世代を考える

まず東京都の「新型コロナウイルス感染症対策(ワクチン)に関する意識調査」を見てみたい。
(2021年7月15日~7月19日 / 性・年齢構成を東京都の人口比率に合わせた割当抽出)

都が分析している通り、7月時点で10代女性と30代女性の接種意欲が低く、これはワクチン不妊デマの影響が強いものと思われる。この結果にあわせて筆者が注目したのは、30代男性の「わからない」の比率の多さだ。

接種意向東京X


この調査は過去から継続されているものでないため、他の調査から世代別の接種意向がどのように変化しているかを検討したいと思う。

都の調査の5ヶ月前にあたる2月、「コロナワクチンに関する意識調査」では20代がもっとも接種意向が低くかった。
(2021年2月19日~2021年2月22日 / 回答数・率 1,200人・74.8% / リーディングテック株式会社)

年齢別


都の調査の2ヶ月前の5月、「新型コロナワクチン接種に関する意識調査」では20代の接種意向が伸び、30代は依然として接種に消極的な人が多かった。
(2021年5月18日〜5月19日 / 有効回答数:1,438 / PIAZZA株式会社)

画像6


20代の接種意向に積極性が出ているのは前述の通りだが、接種対象年齢となった10代は接種にかなり前向きなのが次の調査結果に表れている。

都の調査の1ヶ月半後の9月に実施された「LINEユーザーを対象にしたスマートフォンWeb調査 」では、10代の8割に接種済み含め接種意向があった。
(調査対象:日本全国の15歳~69歳の男女 / 実施時期:2021年9月8日実施 / 有効回収数10,454名)

画像8


佐賀市長選の結果だけでなく、30代をピークに反ワクチンの傾向が表れているのがわかる。この世代にいったい何があったのだろうか。

(30代の接種意向について)
「言われているより、打ちたくない人がもっといそうな気がするんですよ。デモとかオフ会とか、顔見知りだった人たちとかの割合からの感覚なんですが。そういう人たちばっかり集まってたというのがあったとしてもです」


忌避世代を生み出したもの

新型コロナ肺炎ワクチンが不安視された理由として、荒唐無稽な説のほか女性が不妊化するというデマがあった。これが東京都の調査で10代と30代の女性が強く忌避に傾いていた原因ではないかと推察される。

では20代の女性にこの傾向がなかったのはなぜだろうか。30代の男性に「わからない」と態度を保留する者が多かったのはなぜだろうか。

あくまでも想像に過ぎないが20代の女性にとっては妊娠や出産より就職や仕事など生活基盤の確立が最重要課題で、将来を漠然と想像する10代と妊娠・出産の問題に直面している30代の違いがあるのかもしれない。

だが、それだけでは説明できそうにない。反ワクチン運動で目立つとされた「年齢が高めの女性たち」は妊娠・出産の当事者ではなく、別の理由や背景からワクチンを忌避しているはずだ。

ワクチン忌避に至る経緯をたどると世界的な潮流と我が国固有の問題があった。

忌避世代


我が国では、1960年代からインフルエンザワクチン、天然痘ワクチンなどの副反応で集団訴訟が立て続けに起きている。

しかも、この間にジフテリア、百日ぜき、破傷風の三種混合ワクチンの副反応が問題視され接種が一時中断されたのち、対象年齢などが見直されたが依然として不信感が残った。

1980年代末から90年代初頭にも麻疹、おたふくかぜ、風疹の三種混合ワクチンを接種した子供に無菌性髄膜炎の副反応が報告され、このワクチンは接種中止になった。

1992年、根拠がないような現象までワクチン接種による副反応と認める判決が東京高裁で出たことがきっかけとして、国のワクチンへの姿勢が消極的になって行った。1994年の改正予防接種法でワクチン接種が義務ではなく努力義務となったのは、この判決の影響が大きい。

こうした30年間に生まれ成長して家庭を持った人々が、現在30代になっている層の親世代だ。そして現在の30代はワクチン接種が努力義務になった時代に生まれたのだった。

このため30代にはワクチン接種を受けていないかあまり受けていない人々がいて、しかも2000年代からのHPVワクチン接種騒動の煽りも受けている。

次に世相を振り返ってみよう。

1960年代から70年代にかけて高度経済成長期のなか物質重視の風潮と公害問題が深刻化していた。1971年には駿河湾の汚染を題材に取った『ゴジラ対ヘドラ』が公開されている。

1970年代半ばになると世界的に物質文明への批判が大きなうねりとなって自然回帰が叫ばれるようになり、日本では自然食品(農薬や添加物を使用しない原料や昔ながらの製法)や健康食品(医薬品ではないが健康になると言われた食品やサプリメント)が持て囃されるようになった。また欧米で先行していた超自然を信じるニューエイジ思想が1980年前後から浸透した。月刊オカルト情報誌『ムー』が1979年に創刊されている。

1980年代半ば、自然回帰志向やニューエイジ思想は[自然派]と[スピリチュアル派]という二つの潮流になって社会に根付いて、後にオーガニック志向とホメオパシーやマクロビのブームを生み出している。また忘れてはならないのは、1980年代中期から1990年代にかけて社会問題化してテロを起こしたオウム真理教の存在だ。

ここまでが親世代の幼少期から青年期だ。そして90年代に生まれた現在30代の人々は生まれたときから自然志向やスピリチュアルといったものがあたりまえに身の回りにあり、反科学、反医療、オカルトに接近しやすかったと言えるだろう。

また親世代は医療の発展によって乳児死亡率が下がるなか生まれた人たちで、現在の30代は死亡率が低くくて当たり前の時代に生まれている。これは乳児だけでなく小児の死亡率にも言え、自然回帰しても死なない時代であり、むしろ科学や医療が健康を損ねると考える人がいても思議ではない状況があった。

乳児死亡率


待たされ世代と情報

時代背景から30代のワクチン忌避を考えたが、彼らが接種までにかなり待たされた世代だったことも考慮しなければならないかもしれない。

我が国の新型コロナ肺炎ワクチンの接種は2020年2月に医療関係者からはじまり4月に高齢者接種へ移行した。順次対象年齢が下って行き、職域接種もはじまったが自治体によっては30代の接種が高齢者の接種から半年過ぎた9月から10月以降になった。

Google trendで検索指数を確認すると、ワクチンに否定的な動向が2021年1月中旬から2月上旬、6月頃、8月下旬から9月上旬にみられる。

ワクチンデモX


2021年1月中旬から2月上旬はワクチン忌避を煽る報道が続出した時期でありデマも多かった。6月頃になると接種対象が高齢者から現役世代に移りはじめ、8月下旬から9月上旬は接種が遅れがちだった大都市圏で現役世代への接種がはじまった時期だ。これらの時期に反ワクチンデマやチラシの配布などが盛んに行われている。

職域接種を受けられなかった30代はさらに接種を待たされているので、より多くの反ワクチン情報やデマに晒されたと言ってよい。

ワクチンをぜったい接種しないと言い張っていた人物が祖母から厳しく叱責されて接種したあと、次のような発言をしている。

「副反応は腕に重たさを感じたのと少し熱が出たくらいでした。別にワクチンを打ったら世の中まで変わってしまうとは思っていなかったですが……悪いことが続くようなぼんやりした感じがありました」

また別の人物は、

「肩の荷が下りた感じがすごかったです」

と言っている。

不安を煽る情報に囲まれながら待つつらさに耐えきれなくなった人もいたことだろう。


10代、20代は変わった

接種を待たされたといえば、30代より20代や10代のほうが顕著だったはずだ。では10代、20代の意識はどうなのだろうか。

接種対象となる10代、20代の親はワクチン忌避が多い世代とやや重なりあっている。このため家庭内で影響をまったく受けていないとは言い切れない世代だ。そのうえ更に、若年層は感染しても重症化しないと言われ他の世代のために接種しなければならないと思われていたことから接種意向が低かった。

年齢別2


だが前述したとおり10代、20代の意識は2021年の秋までにだいぶ変わった。

筆者が都内の大学に在学する学生を独自に調査した結果では、8月と9月で意識の大きな変化がみられた。サンプル数が少なく局所的な調査のため他の調査と比較するのは無理だが傾向は一致している。
(28名 / 8月3日〜7日、9月3日〜7日、10月5日〜9日 / インターネット上の調査票に回答)

グラフ2X


この調査対象は同年7月にサークル内で「親類の看護師がワクチンを接種してひどいことになった」という話を聞きワクチン忌避者が一時期17名になり、1週間後に10人になっていた。その後、8月 / 8人、9月 / 3人、10月 /  3人と減って最終的に忌避者の割合は1割程度になった。

7月大学生忌避推移


「ワクチンは各自(あなた)のためとして勧められている印象か、社会のためとして勧められている印象か」を継続して質問した結果は以下のようになった。

調査大学意識2X


9月に「ワクチンは自分のために勧められている」と考える人が増えたのは若年層での感染拡大と重症化や後遺症が問題になっただけでなく、8月27日に渋谷の無予約接種会場に長蛇の列ができて同年代の意向が可視化された影響もありそうだ。

こうした変化の背景には、これからの生活への切実な思いがあるのではないか。大学生にとっては学業や就職やレジャーが念頭にあるだろうし、他の10代では修学旅行の解禁、受験といった先々の希望を見据えた合理的な判断があるのだろう。

10代から20代前半はネガティブな情報に対して影響を受けやすいが、ポジティブな情報に対しても反応しやすく容易に意向を変えられるのかもしれない。


30代がつくるこれからの世界

30代(および30代を中心にした層)だけが反ワクチン派ではない。また30代のすべてが反ワクチン傾向があるわけでもない。しかし、この年齢層の特性には特有のものがあった。

反ワクチン・反マスク・ただの風邪を支持しがちな傾向だ。

では反ワクチン・反マスク・ただの風邪を支持した人たちもコロナ禍の収束とともに消え去るのだろうか。

物質重視、公害問題、自然回帰、ニューエイジ、自然派、スピリチュアルな風潮は現在も60代や50代を中心に継承され、その子供世代へ受け継がれている。また自然派、スピリチュアルと極端なものでなくてもオーガニック指向などはごく当たり前に社会の底流をなしていると言ってよく、ここに30代の日常がある。

この世代に特有の傾向は表現を変えながら続くのは間違いない。

機会があれば、反ワクチン・反マスク・ただの風邪の運動に大麻やマルチが深く入り込んでいるとされる問題について考察したいと思う。

──(反原発運動などで大麻、マルチなどが広がった実例を挙げたうえで)反ワクチンや反マスクでも似たようなことがありましたか。
「人が集まれば、そういう人が来ます。勧誘とか怪しいのはむしろこっちのほうでは……宗教も多いですから。参加者によって違いはありますが、素で宗教がかってます。そういう雰囲気なんです」

会って聞いて、調査して、何が起こっているか知る記事を心がけています。サポート以外にもフォローなどお気持ちのままによろしくお願いします。ご依頼ごとなど↓「クリエーターへのお問い合わせ」からどうぞ。