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料理で負った呪いを解くために料理をする

子供の頃から料理が好きでした。大好きなはずでした。
実家にいた頃はネットで見つけたレシピを試したり、ちょっと凝った料理も作っていました。一人暮らしを始めてからも自炊を続けていました。

ですが、ある日を境に料理が苦手になりました。

きっかけは賞味期限切れの豆腐を食べてしまい、激しい食中毒を起こしたからです。

しかも、よりによってスポーツドリンクを常備していませんでした。
当時は一人暮らしだったため、余計に死を身近に感じました。
ぬるま湯に塩と砂糖とレモン汁を溶かして飲んで、なんとか脱水は避けられました。

あれ以来、賞味期限を厳守するようになりました。
そして、死を身近に感じた食中毒により料理に対して恐怖心を覚えてしまいました。

今はキッチンに立つだけでも少し緊張します。
肉料理を作った日には火が通っているか不安で、焼きすぎてお肉が硬くなるのが当たり前になりました。

大丈夫だと思いつつも、それでも少し怯えながら自分の料理を食べています。当たらなかった日はホッとしています。

そのため冬は基本的に毎日鍋です。
休みの日にお肉と野菜を小分けにして冷凍して、食べるときに鍋の素と一緒に煮る。これだけで栄養は取れるので完璧。

本音は鍋が食べたいと言うより「しっかり火を通せるから」という安心感で鍋を選んでいました。

でも、今年になってから鍋では満たされなくなりました。

そんなに食べたくないのに鍋を食べた日は、なんだか食事というより作業に感じました。

料理を楽しんでいたあの頃みたいに、ちゃんと自炊したいのかな。とモヤモヤしている所でこちらの記事に出会いました。

モヤモヤしている所で出会ったnoteの記事

全部うんうん頷きながら読んでいました。特にわかる!となったのはこの箇所です。

自分好みの味が出てくる惣菜屋さんがあれば最高なのに、といつも思っている。

ほんとうは自炊したかったのかもしれない話

外食やスーパーのお惣菜は美味しいし、衛生管理が万全なので安心して食べられます。でも、自分好みの味かと聞かれたら違います。食べればおいしいけど、なんか合わない。

お惣菜は週末に買うというマイルールを決めています。
週末の仕事で疲れが溜まった状態でスーパーに行き、これでいいやと思うものを何となく手に取って食べる。食べたかったものを買って食べた時は満足感はあります。

でも、食べたいものが決まらない時に何となく手に取ったお惣菜はあまりおいしくないことがほとんどです。


自炊とは何なのかを学ぶ

やはり自分好みの味を食べるには自炊するに限る。最近の物価高を見ても外食ばっかりもいられない。

なにより料理が好きだったあの頃に戻りたい。

そう思い、記事で紹介されていた本を手に取ってみました。

著者のもとに寄せられた「自分のために料理が作れない」人々の声。
「誰かのためにだったら料理をつくれるけど、自分のためとなると面倒で、適当になってしまう」

そんな自分のために料理ができないと感じている世帯も年齢もばらばらな6名の参加者を、著者が3ヶ月間「自炊コーチ」!

その後、精神科医の星野概念さんと共に、気持ちの変化や発見などについてインタビューすることで、「何が起こっているのか」が明らかになる。

自分のために料理を作る:自炊からはじまる「ケア」の話

料理だけでなく、日常生活のヒントがたくさん書かれていました。
なるほど、と特に感じた3点をピックアップします。

1.おいしさの9割は安心でできている

この本の重要な部分であり、私の最大の課題になる部分でした。
私はいまだに怯えながら料理をしています。
ちゃんと火を通したのを確認しても、まだ怖いことがあります。

野菜の生食も種類によっては怖い。作り置きなんて今はもっと怖い。
そんな状態で食べた料理は味がしません。

確かに、今まで安心感を持って料理を作ってこなかったことに気づきました。

なら安心感を持つにはどうしたらいいのでしょうか?

それは料理の回数をこなし、知識を吸収していくこと。

料理の本を読んで学ぶ、YouTubeなどの動画サイトでもオッケー。

単純ではありますが、それが近道だと感じました。
結局は蓄えた知識と経験に勝るものはありません。

2.健康的な身体づくりは「絶対損しない投資」のようなもの

20代前半の私は健康をおろそかにしていました。
食べたいものはほとんどハイカロリー、夜更かし大好きと不摂生な生活でした。
そのせいか、今は自律神経が乱れて思うように身体が動かない日があります。

30代を目前に控えた今、もっと健康的にしていれば…と後悔しています。

健康のための行動は難しい、面倒くさいと色々感じてしまいます。
栄養があっておいしい料理を食べる、運動する、よく寝る等。

それでも健康のためにどう積んでいくのか、考えて実践に移す行動も大事なのかなと最近は感じています。今は徐々に健康への投資をするようになりました。

3.自分を大事にするための料理

「大人になること」ってまさにこのことだと気付かされた一文に目が止まりました。

大人になることは自分が自分の世話係になること

自分のために料理を作る:自炊から始まる「ケア」の話

子どもの頃は親が世話してくれたけど、大人になったら全て親に任せるわけにはいかなくなります。

私は現在、母と二人暮らしをしています。
それでも身の回りのことは各々でする、食事は自分で用意する決まりを設けています。

そのため、自分で自分の世話をする難しさを日頃から感じています。
以前一人暮らしを経験しているので、その延長線とはいえど常に自分の世話に悩まされます。だから、まだ完全に大人になりきれてないように感じています。


自分のために料理を作って感じたこと

久しぶりにしょうが焼きを作る

急にしょうが焼きが食べたい!と思い、読んでいたら著書にレシピがありました。
今度作ろうと思いながら読んでみると、しょうが焼きのコツが書かれていました。

「野菜は繊維と逆方向に切ると柔らかくなる」
「キャベツに塩をもみ込むとカサが減って食べやすくなる」
「お肉に酒としょうがを漬ける」
「調味料の割合はほとんど1:1」

しょうが焼きは何度か作っているはずなのにこれは知らなかった!

ちなみに私は生キャベツの硬さがそんなに好きではなく、「しょうが焼きにはキャベツ」とはいえどもあまり気が進みませんでした。

私の場合、付け合わせのキャベツ先に切っておいて、お肉と切った玉ねぎをフライパンに適当に入れて炒め、目分量で調味料を回し入れて完成!といった爆速料理です。

でもちょっとした一手間でおいしくなるなら試さない手はないぞと思い、早速作ってみました。

著書のレシピを参考にして作ったしょうが焼き

レシピ通りのロース肉ではなく豚こまで作りました。
先に料理酒としょうがを漬け込んだおかげでお肉は柔らかい。
玉ねぎは繊維と逆に切ることでくたっとして味が染みている。
キャベツも塩揉みして柔らかくなっているので甘辛いしょうが焼きのタレと合う。

今まで作ったしょうが焼きの中で1番おいしい!

いつもはYouTubeを観ながらご飯を食べていましたが、今回は何も観ずにただ黙々と食事に集中できました。それほど今回作ったしょうが焼きはおいしかったのです。

「料理」で縛られていた呪いが「料理」で解けるとき

久しぶりに鍋以外の料理を作って食べたとき、大きい幸せを感じました。

それでも、調理工程で緊張してしまいこれでいいのかと考えながら作っていました。幸せは感じたけれど、やはり食中毒を受けてしまった心の傷はまだ癒えていません。

そこで、著者の山口祐加さんは後書きでこうおっしゃっています。

絶対に自炊してほしい、なんて言えない

自分のために料理を作ろう!と散々書いてきたのに、最後の最後ですみません。でも、この言葉が今の正直な気持ちです。

というのも、この本を制作し始めた頃から仕事やプライベートで出会う方に「どうして自分のために料理を作るのって難しいのでしょうか」と問いかけてきました。その中で、料理にまつわる切ない記憶や癒えない傷、忘れてしまったようで身体が覚えているような何かを抱えている人がいることを、具体的なエピソードを伴って知ることができました。

食事は自分にとっておいしいかどうか以外に、アレルギー、栄養バランス、安全性など、最悪の場合は命に関わってしまう食物を体の中に取り入れる行為です。好きに食べたいものだけ食べればいい、では話がすまないところが、食事のややこしいところです。

自分のために料理を作る:自炊から始まる「ケア」の話

自分のことを言っているのかと少し驚いてしまいました。
死を感じた食中毒の記憶が頭から離れず、呪いとなってしまいました。

呪いからの解放というと大袈裟ですが、「料理」で縛られていた呪いが「料理」で解ける瞬間をいくつも見てきました。

自分のために料理を作る:自炊から始まる「ケア」の話

安全に調理しておいしくできた満足感、この連続が料理の呪いを解く鍵になるのではないかと私は考えています。

しょうが焼きをおいしく作れたおかげで、自炊欲が上がりました。
キッチンに立つのはまだ少し怖いけど、スーパーに行ったり、野菜を切ったり、1週間の献立を考えるのが楽しくなりました。

自炊を再開するきっかけを与えてくれた方々に感謝を申し上げたいです。

このまま自分のペースで料理を続けて、私にかかった呪いが解け、
「料理が好きです!」と胸を張って言える日が来ますように。

今はそう願っています。