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2015年9月 シカゴでの皆既月食撮影

 月が地球の影に隠される月食。月の一部に影がかかるのが部分月食、月の全てに影がかかるのが皆既月食です。月食自体は、だいたい年に一度は地球上のどこかで起きる天文現象ですが、皆既月食に限るとその半分くらいの頻度になります。なにはともあれ珍しい現象なので、観測欲が湧いてきます。

過去や未来の月食の情報はtimeanddate.comで確認しています。
どのように月食が進むかのアニメーションもあり大変勉強になります。

 月食の開始は20時。とても見やすい時間帯です。撮影地はシカゴ郊外にある湖のほとりです。到着したのは月食がはじまる約30分前。少し出遅れました。辺りにはすでに多くの人が集まっていました。人がいる場所を避けて三脚を立てます。月食は必ず満月のときに起こります。到着してすぐはきれいな満月が見えていましたが、カメラを準備している間に雲がウヨウヨと出てきてしました。

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Nikon D300s + 24mm f2.8
(f8、露光時間1秒、ISO400)

 上の写真のように、月の周りには虹色の「月光冠」が出ていました。これを見たものは幸せになる、と言われていますが、これでは月食が見られません。迷信はどうもウソのようです。集まっていた人もぞろぞろと帰っていってしまいました。私のやる気満々の撮影機材を見て「Good luck!!」と言って立ち去る人もいました。そんなことを言われても、苦笑いしか出ません。

 とりあえず片方のカメラに魚眼レンズをセットし、インターバル自動撮影を仕掛けます。こちらは放置。もう一つのカメラには望遠レンズをセットし、月のクローズアップを狙います。

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Nikon D810 + 70-200mm f4 + x1.4 (280mm)
(f5.6、露光時間1秒、ISO1600)
トリミングあり

 空を覆う雲にがっかりしながらも、雲の隙間から時折覗く月を撮影します。月食はすでに始まっていました。月の左側が暗くなっています。太陽が月に落とす地球の影を見て感じることがありました。普段の生活では、球体と意識することなんてない地球。その影が月に描かれたことで、自分は球体の惑星に生きている、という実感が急に湧いてきた瞬間でした。

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 地球の影が宇宙にできているとすれば上のようなイメージ感じでしょうか。この影が少しずつ月の上を動いているのか、と想像しながら、しばらくぼーっと空を眺めていました。気づけば周りには誰一人いなくなっていました。厚い雲が出てきたので、みんなが諦めるのも無理はありません。

 一人ぼっちになってしまいましたが、月食が終わるまでは留まろうと思い、シャッターを切り続けました。思いが通じたのか、月食がピークを迎える頃にはなんと雲が晴れてくれました。下の写真を見てわかるように、満月の周りには普段は見えるはずのない星たちが見えています。

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Nikon D810 + 70-200mm f4 + x1.4 (280mm)
(f5.6、露光時間1秒、ISO800)
トリミングあり

 月は影に隠れてどれくらい暗くなったのでしょうか。下の左の写真は月食前の月です。カメラの設定値から計算されるEV値と呼ばれる明るさを計算できるのですが、比べると10EVほどの開きがあります。これは大体1000倍も月食中の月の光が弱いことを示しています。そして、月食中の月は深いオレンジ色に見えます。(ホワイトバランスは同じです。月食中の月は露出を現像ソフトで+1.2EVしています。)太陽から月へ向かう光の成分のうち、赤やオレンジの光のみが地球を回り込んで月に到達するため、このような色に見えるのだそうです。

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 ピークを迎えた皆既月食は終わりに向かいます。下の写真は200秒ごとの月を並べて作った写真です。地球の影が月から少しずつ外れて行き、明るい部分が大きくなっていきます。月の明るい部分の形は、通常の月の満ち欠けとは明らかに違う形をしています。このような形の月が見られるのは月食ならではです。

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Nikon D810 + 70-200mm f4 + x1.4 (145mm)
(f8、露光時間1秒、ISO800)
撮影間隔200秒、比較明合成

 月食が終わる間際に、また雲が現れだしました。流れ去る雲で開幕し、流れ来る雲で閉幕した1時間ほどの天体ショーでした。月食中だけ晴れてくれた空。冒頭の「月光冠」の迷信はやはり本当だったようです。

撮影中のタイムラプス動画はこちら

 下は、タイムラプス動画に使用した写真を合成して作成した月食の様子です。明るい満月が次第に赤く変化し、また明るい満月に戻っていく、月食の月の変化がうまく表現できたのではないかと思います。

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Nikon D300s + 10.5mm f2.8
(f8、露光時間30秒、ISO200)
歪み補正、撮影間隔170秒、比較明合成

 今回、月食中にどれくらい月が移動するか読めず、超広角の魚眼レンズで撮ったので、月がかなり小さくなってしまいました。トリミングした下の写真のように大きく写せるようになるには、もっと経験と予備知識が必要ですね。

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シカゴの秋はあっという間に終わり、雲が多くて寒く、長い長い冬に入っていきます。次回は真冬のシカゴ、氷点下10度の中、ダウンタウンで撮影に臨んだ話です。








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