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真夜中のピッチャー

――さて、自分語りでも始めようか。

前回は漫然と小説を書きたかった少女の話をしてしまったが、今は今でライターとして充実した生活を送っている。

相変わらず小説の執筆ではゲシュタルト崩壊を起こしているが、仕事としての執筆活動は問題ない。だからこそ、気が焦らなくて困っている。

「まあ、そのうち書けるだろう」なんて思い始めて、ここで目的もなく文字を綴っているわけだ。

さて、そろそろ自分語りでも始めようか。

実は、私はなりたくてライターになったわけではない。

こういうとライターになりたくてなった人たちに怒られそうだが、事実だから仕方がない。私はもともとライターに興味はなかった。

もともとは病院で働いていて、副業でブロガーをしていた。そして、もともともとは大学の研究センターで実験補助の仕事をしていた。

なんとも統一感のない人生である。

医療者だった私が、なんでまたライターになったのかというと、病気になったからだ。病気になって病院で働けなくなったから、仕方なくライターになった。

あるとき病気になって働けなくなって仕事を辞めた私は、実家に住まわせてもらうことになった。職場の寮に住んでいたから、そのまま住み続けることはできなかったのだ。

実家に帰ったものの、特にすることもなく暇を持て余した私は、少しかじっていたライティングを駆使して仕事を取り始めた。

家でできる仕事がライターだった。ただそれだけ。

でも不思議なもので、私がライターを初めて1年以上経った。

なんとなくで始めたものが、いつの間にか本気になっていた。そんな経験は誰しもが持っているのではないだろうか。

なんとなく始めて、なんとなく開業届を出して、なんとなく1年が過ぎた。

毎日毎日文字を紡ぎ出し、連休も取らずに小さな機械の前で文字をタイプしている。

真夜中の静かな夜に、カチカチと響くキーボードの音。眠気覚ましに、と淹れたコーヒーはとっくに冷めている。

私はそんな夜が好きだ。

締切に追われるなんて、自分が大文豪にでもなった気分だ。最高だ。

書いているのは小説ではないが、小説家みたいな生活をしている。

ストライクゾーンを狙ったつもりが手が滑ってカーブになり、バッターが空振りした。まさにそんな感じだ。

そんなわけで、私は今日も原稿に追われている。

ライターという仕事も、そう悪くはない。


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