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コア営業利益

コア営業利益について開示する企業が増えている。(IFRSでは独自の利益指標の開示は規制されておらず開示の方法は企業の判断に委ねられている。)

純利益などの会計基準に基づく利益と異なる指標で、IFRSを採用する企業での開示が目立つ。IFRS適用会社の内、独自開示をする企業は三割を上回る結果になっている。

例えばキリンホールディングス・アサヒグループホールディングスは独自指標として、「事業利益」(売上収益-売上原価+一般管理費)を開示している。武田薬品工業や三菱ケミカルホールディングスはコア営業利益(営業利益-非経常的な要因による損益・売上収益-売上原価+販売費及び一般管理費)を開示している(日本基準の本業のもうけを表す営業利益に近い)。

会社側が投資家の意思決定に資するための一指標として開示をしているのだが、逆に企業間の比較可能性を害しているという指摘もある。

なぜこのような指標が生まれているのか。

そもそもIFRSを適用する企業の理由について考えてみようと思う。

まずIFRSの特徴としては以下の5点が挙げられる。

① 原則主義

日本基準や米国基準は細則主義を取っているが、IFRSは原則主義を取っている。すなわち、日本基準や米国基準においては会計基準や解釈指針、実務指針などについて非常に細かくルールが定められているのに対し、原則主義のIFRSでは大まかにルールが設定されているだけで、細かな部分は各社や各国の事情に応じて解釈していくことになる。これは、IFRSが従来統合されていなかった各国の会計を統合する国際標準の会計基準であるという性格を反映したもので、それぞれの国で使いやすいよう柔軟に解釈する余地を残したものだと言われている。ただ、それは各社で勝手に解釈していいというものではなく、独自の解釈をした際にはその根拠を明確に示さなければならず、結果として大量の注記がなされる傾向がある。

② 貸借対照表重視

日本基準が損益計算書重視であるのに対し、IFRSは貸借対照表重視(BSアプローチ)だと言われている。つまり、日本基準においては一定期間の損益の明示が重視されるが、IFRSは将来キャッシュフローの現在価値を示すことを重視しており、投資家などに対してどのような情報を正確に公開すべきかについての基本的な考え方が異なる。

③ 合併・買収時の利点

合併や買収に積極的な企業に特有のメリットがある。日本基準とIFRSでは、企業の買収価格と帳簿上の価格の差である「のれん」についての扱いが異なる。日本基準では毎年一定額を償却して費用計上しなければならないから、決算での利益の目減りが避けられない。他方のIFRSでは企業価値が大きく減らない限り、この「のれん」が償却されず、費用として計上されない(減損テストの対象)。そのため、買収や合併を繰り返している企業の場合は、決算で利益をより多く示すことができるようになる。

研究開発費の資産計上

研究開発費について、日本基準では原則として費用処理されるが、IFRSでは、研究開発活動を研究活動と開発活動に区分し、研究活動に係る支出は発生時に費用処理され、開発活動に係る支出は、6要件(割愛)を満たしたものを抽出し資産計上することになる。

6要件を満たす場合には、資産計上しなければならないため、研究開発活動に係る支出が重要な企業がIFRSを適用する場合には、6要件の具備に関する客観的な証拠を入手し得る体制づくりが必要になる。製薬企業がIFRSを採用している割合が高いのはこの特徴があるからだろう。(新薬の開発にしのぎを削っており、研究開発費は巨額かつ増加傾向にあるからその分資産計上できることにメリットがあるからだ。)

⑤ 海外企業や投資家への説明の簡素化のメリット

日本基準との相違がある中、IFRSという国際的な物差しでIFRS適用の国・地域で財務諸表を公開している海企業と簡単に比較してもらえるので、いわゆる「外国人投資家」を呼び込むために、IFRSに移行した企業も多い。海外機関投資家からは、欧米企業・中国企業と日本企業を簡単に比較できるからだ。

IFRSの特徴に触れてきたが、
IFRS導入時において、「統一基準採用による投資家の利便性向上・国際間での比較可能性・連結会社内の統一基準により業績管理を容易に。」との名のもとに各企業は導入をしてきているわけだが、なぜ各IFRS適用企業は独自の開示項目を設け開示を行うのだろうか。

原因としては下記点が考えられる。
IFRSには特別損益の項目がない。そのため、一時的な損益も営業利益に反映してしまい、営業利益が本業の実態を映しづらくなるのだ。
そのため中核利益の開示によって本業の状況を投資家に伝える狙いがありこのような開示項目が増加してきているのだ。

だが私は不思議であり、かつ矛盾していると感じてならない。
各企業に投資家に対する財務報告責任があり、この責任こそ一番大事な前提である。
のれんが非償却だから、研究開発費用が資産計上できるから、各企業が報告数値をよく見せるためにIFRSを導入している様にしか見えない。

任意の指標であるコア利益を開示する企業と、開示しない企業。その比較可能性は、どうやって保てばいいのだろうか。今後の動向を見守って行きたい、、

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