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劣化

ゴキブリの出ない部屋に住んでいるが、その分なのか、なんなのか、蚊はたくさん入ってくる。
まだ5月だというのに、昨日から蚊が1匹入り込んでいて、気付くと手の指に止まっている。
うちの裏は河原で藪だらけだし、ボウフラが湧くよどみもありそうだし、条件的には、蚊が出てもおかしくはない。
さらに、私は、蚊に刺されても全くかゆくならないたちなので、別に蚊ぐらいいても構わないのであるが、目と耳にうるさい。

何度も言うけれど、刺されても痛くもかゆくないので、私に実害はないのだ。
そーっと足元の方に忍び寄って、こそこそっと血を吸って、気付かぬように去ってくれれば、私だって気にしない。
なのに、
「見て見て!」
と言わんばかりに、眼前を飛び交い、額と眼鏡の隙間から目に飛び込んでくるし、わざわざ本を読んでいる右手の親指に止まって血を吸おうとする。

馬鹿なのだろうか。

手の甲に止まれば、私からは見えないのに。
それより、刈り上げた首筋とか、短パンからのぞく立派な太ももとか、吸おうと思えば、いくらでも広くて目につかない場所はあるのに。

そもそも蚊の奴は、私が自分と同じような生物だとは、認識していないのだろうか。
突如、ばしっとたたきつけられる私の手のひらは、蚊にとっては落石のような自然災害的な何かなのだろうか。

それとも、
「どうか一刻も早く、私を楽にしてほしい」
とでも思っている、自殺願望のある蚊なのだろうか。

そこまで私にやっちゃってほしいならば、一思いに……と昨夜から何度も挑戦しているのだけれど、若いころには一撃必殺で仕留められたスピードと動体視力が、見る影もなく衰え、何度もとり逃がしてしまっている。
一度うまいこと、体の一部を叩くことができたのだが、髪の毛より細い足だけが残り、本体には逃げられてしまった。
そのあとは、姿が見えないのに、あの羽音だけがする。

「くぅぅう!」
と、一時間ほど殺気を放ちながら、部屋の真ん中で奴の襲来を待っていたのだけれど、襲ってくる気配もないので、あきらめてnoteを書こうとパソコンの電源を入れたら、そこにいた。
叩き潰す前に、私の幻ではないことをちゃんと証明したくて、写真を撮っていたら、またいなくなってしまった。
サムネがその時の写真だ。
私がちぎってしまったのは、右後ろ足だったらしい。

それにしても腹立たしいのは、聞こえることだ。
動体視力も、反射神経も劣化しているのに、なぜ、あのモスキート音だけは聞こえてしまうのか。
どうせ劣化するなら、全身、均等に劣化してくれたら気にならないのに。
老化とは、使えるものと、使えないものが混在するから、いろいろ諦めがつかなくて、不快なのだと思う。

**連続投稿460日目**

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