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アドベントカレンダー12月10日 お題「ふくろう・豆腐」BY真美さん

【ヨメの視点】

初めて夫の実家にご挨拶に伺う時、手土産には悩みました。
義父も義母も、食に対する意識が高い人たちで、添加物が入っているものは、絶対召し上がらないそうなんです。
私は、子どものころから、そういう食品にまみれて生きてきたので、お二人が気に入りそうなお土産の見当がつきません。

時間もないし、仕方ないので、夫にいつも食べている、ひいきのお店を聞いて、そこでお菓子を選んで買おうと考えました。
でも、そもそも、外でお菓子を買ってもらったことがない、と夫は言うんですね。
全て、義母の手作りだった、と。
お中元やお歳暮でいただくお菓子も、成分表示をチェックして、これはダメとなったら、子ども会のバザーに出したりしてたそうです。
徹底してるんですね。

そんなわけで、お菓子は、選びようがなくって、じゃあ、せめて、2人の趣味に関係するものを選んだら、喜んでもらえるんじゃないかと思ったんです。

「うちの親の趣味?」
「なんでもいいのよ。コレクションしているものとか。よそのおうちでは、あまり見なかったけど、うちにはたくさんあるなって思ったものとか?」
「そうなると、本だねえ」
「どんな本?」
「あらゆるジャンルの本。生物、化学、物理、地学、哲学、宗教、政治、経済、民俗学、料理、裁縫、園芸、小説、詩集、画集……ざっと思いつくだけで、これくらいのジャンルは網羅していたような。トイレにも本棚があったからなあ」
「すごいわねえ。でもそれだけ読書家だと、私が選んだ本なんて、面白いと思っていただけないかもしれないわね」
「そうだね、ポリシーに合わないものをもらうのが、とにかく好きじゃない人たちだから、本は、特にやめた方がいいかもしれない」
「ほかに、何か趣味のようなものはないの?」
「うーん。ふくろうの置物を集めてるんじゃないかな。少なくとも、家に結構な数のふくろうの置物があったはずだよ」
「ふくろう? 鳥の?」
「そう。縁起ものらしいんだよね。不苦労の当て字で、苦労をしない人生を送れるとか、福老っ当て字で、幸せに老いることができるとか」
「そうなのね。ふくろうかぁ。今から見つけられるかなあ。探してみるわ」

当時、私が住んでいたところは古い城下町で、古民具を扱うお店も多かったんです。
それで、そういうお店をまわれば、見つかるかしらと思って、気軽に考えていました。
でも、なんていうんでしょうか、あまり流通してない品物って、作っている人が限られるようで、どのお店にも、似たようなふくろうの置物しかないんですよ。
ちりめん細工とか、木彫りとか。

そんな中、すっごく珍しい、信楽焼のふくろうを見つけまして、これだ!と思ってその場で、購入しました。
高さ1mくらいあったので、ちょっと持っていくのが大変そうだな、って思いましたけど、意識が高いお母様みたいですし、ありふれたものより、珍しいものが喜ばれるんじゃないかと思ったんです。

【シュウトメの視点】

贅沢は敵だって言われて育ちましたし、実家の家風も質素倹約を旨としていましたから、とにかく、今も無駄使いが許せません。

お金を出せば買える大量生産の食品は、どうしてもいろいろな薬品が使われているでしょう?
私に言わせれば、あんなのは食品じゃないですから、みすみすお金をどぶに捨てるようなものですわよね。

あなただって、大事な子どもに、よくわからないものを食べさせたくはありませんでしょう?
息子が生まれてしばらくは、私ども、畑を借りて野菜を作っていたんですよ。
安心な食べ物で育ててやりたくて。

無農薬の農家さんをご紹介いただいてからは、お願いして届けていただくようにしましたけれど、こどもの命を守るためにできることは何でもするのは、親の務めです。
私たち、ご紹介いただいた農家さんの畑が本当に安全なのか、土の残留農薬チェックにも伺いましたわ。
生協もいいですけど、やっぱり、自分で確認することは大事ですわよね。

今度、息子が結婚するそうですが、私が育てたあの子ですから、きっと、ちゃんとしたお嬢さんを連れてくるに違いないと思って、楽しみにしているんです。
ええ、もちろん、腕によりをかけておもてなしするつもりですわ。

【ヨメの視点】

うーん、ちょっと、考え方が合わなそうっていうか、これから苦労しそうだなってかんじはしましたね。
私、食べ物の中で一番苦手なのが、湯豆腐なんですよ。
食べた気、しなくないですか?
味も、ポン酢の味だけだし。
お豆は畑のお肉っていうけど、だったら、本物のお肉の方がずっといいです。
まさか、結婚のご挨拶に行って、湯豆腐が出るとは思わなかったです。
嫌われてるのかな、って思いました。

え?
あのポン酢も、お豆腐も、全部お母さまの手作りだったんですか?
しかも、無農薬の大豆に、にがりも取り寄せて自作?
うーん。
それを伺っても、やっぱり、嬉しくないですね。

私は、少なくとも、お母様の趣味を伺って、喜びそうなものを探すのに時間をかけたじゃないですか。
私の好みは、一切気にせず、自己満足で手作りのお豆腐を出されても、あんまり私のことを考えてくれた、って気にはならないですよねえ。

【シュウトメの視点】

もう、がっかりですよ。
どんな素晴らしいお嬢さんを連れてくるかと思ってたら、何なのあの娘は。
せっかく湯豆腐を用意したのに、食べ方は汚いし、あんなに嫌そうに食べるなら、食べさせるんじゃなかったわ。

それにたぶん、市販のお豆腐との味の違いもよくわかってなかったんじゃないかしら。
舌が貧乏なのね。

しかも、あの大きな焼き物、何なのかしら、一体。

え?
ふくろうをあつめてるんじゃないのか、って?
とんでもないわ。
ふくろうを集めてたのは、息子よ。
あの子、自分が欲しがったのを忘れてるのね。

私は置物なんて、絶対買わないわ。
場所ばかりとって、無駄じゃないの。
じゃあ、なんで、あんなにふくろうがあるのか、ですって?

昔、駅の近くによく露天商が来ていてね。
売れそうにない雑貨を、20円くらいでたたき売りしていたのよ。
あの子が、まだお話しできないくらい赤ちゃんだったころ、ちっちゃい手で指さしながら
「ほーほー!ほーほー!」
って言うのがかわいくて、つい
「じゃあ、一番ちっちゃいのをひとつだけよ」
って買ってただけなのよ。
私が無駄使いをしたのは、後にも先にもあの頃だけだわ。

それにしても、木彫りならまだ燃えるゴミに出せるけど、あんな大きな瀬戸物って、本当にもう、どうしたらいいのか。
ああ、もう無駄!

【息子の視点】

妻が湯豆腐が嫌いなことは知っていたので、母には「彼女の好物は湯豆腐だ」って伝えました。
ふくろうのことだって、まあ、親の趣味じゃないだろうなとはわかってましたよ。
まさか、僕が欲しがったとは、さすがに覚えてなかったですけど。

なんでそんなことを、って?
どうやっても、合わなそうな2人を、無理に付き合わせる必要ないと思いまして。
だって、考えてみてくださいよ。
間に挟まれて苦労するのは僕なんですよ。
どっちの味方をしたって、角が立つじゃないですか。
最初から物別れに終わっていれば、そのあと、お互いに連絡とろうとはしないでしょう?

ライフハックですよ、ライフハック。
結婚するのは、僕と妻であって、それ以外の付き合いに思い煩う必要はないですからね。
え?
実名で記事にしていいか、って?
ダメに決まってるじゃないですか。
僕はこれでも平和主義者なんですから。

<おわり>

**連続投稿312日目**

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