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コロナ期の地図

快晴!
花粉もよく飛んでいた本日、またしても近所のミカン山を探検してきた。
歩いて10分ほどのところに、まだまだ未踏のダンジョンが存在している嬉しさよ。
地図アプリを見ても道など表示されないため、実際に歩いて欠けているところを繋いで行くしかない。
この作業がとんでもなく楽しい。
獣道のような細い山道を自分だけの地図に落としていく。

山には、まだ空っぽのミツバチの巣箱が置いてあったり

誰も収穫しないキクラゲが木肌の上で、乾燥していたりする。

こんなプチ探検をしていると、4年前の春を思い出す。
あの年の春はコロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言が出て、学校も幼稚園も保育園も軒並み休みとなり、人が集まる公園の遊具には「使用禁止」のテープが張られていた。
車でしか行けない遠くの公園は駐車場が閉鎖されており、それでも頑張って外で遊んでいると「誰もがみんな保菌者の疑いがあるんだから、うろうろするな」という世間の視線が痛かった。
こんな状態で、じゃあいったいどこで遊べばいいんだろうか、と母ちゃんたちは困惑していた。
そう、あれは困惑だと思う。
恐怖も少しはあったと思うけれど、「こんな元気な子どもたちを、ずっと家の中に閉じ込めておかなくてはいけないの?無理無理!」と頭を抱えていたように見えた。
少なくとも、私の周りの「外遊びで子どもを育ててきた母ちゃんたち」は、そう思っていたはずだ。

何とかしたい、何とかしなくてはという気持ちはあったけれど、私が率いる群れから感染者が出た場合、矢面に立って非難を浴びる覚悟はまるでなかった。

そこで、考えたのが「誰も来ない山で遊ぶためのお守りになる地図」だった。

相模原は、多摩丘陵の端っこ。
車や自転車でちょっと足を延ばせば、探検しがいのある起伏にとんだ丘陵地がたくさんある。
そこは山に不慣れな子連れの母ちゃんが、単独で踏み込むにはちょっと勇気が必要な場所だったが、紙の地図(全体把握)、目印(現在地把握)、GoogleMapに目印をプロットしたもの(ナビ機能)がセットになっていれば、おそらく誰でも行って帰ってくることが可能になるはずだ。
何度も地図を見ながら往復していれば、やがて地図無しでも迷わず遊べる山になるだろう。
なにしろ、超方向音痴の私が迷わないように作る地図なので、私より優秀な母ちゃんたちが、これで迷うはずがない。

そう思いついてからは、GoogleMapの機能を勉強し、毎日4万歩ほど丘陵地を歩き回り、目印の写真を撮って地図にプロットし、写真だけではわかりにくいところに簡単な説明文を付け加えるという作業を繰り返した。
そうして完成した紙の地図がこちら。

これだけでは伝わらないと思うが、ここはかなり遊び甲斐のあるエリアで、おそらく親子が一日で全部回り切れないほどに広い。
複数の谷戸とそれをつなぐ山道が存在しているが、道として確実に機能しているのは赤いルートだけ、緑のルートは通る人がいなくなれば消える運命にある獣道だ。
こんな探検、楽しくないわけがない。
穴場なので「外で遊ばせるな」と責める人に会うことも少ないだろう。

1セット3000円で販売したところ、あっという間に予定数が完売した。
外遊びに飢えていた母ちゃんと子どもたちは、自分のお気に入りの場所を見つけて、遊びこんでくれたことだろう。
時々、私が近くをバイクで通ると、すれ違う車の窓から「ぢーこ!」と声がかかり、子供が手を振ってくれたりした。
地図を使ってくれているんだな、楽しく遊べたんだな、と嬉しくなった。

さて、この地図。
「子どもが外で遊ぶ体験を奪ってはいけない」という使命感で作っていたのだが、実はもう一つ裏テーマがある。
それは、「不要な恐れを持たない心を育てる」ということだった。
「知らない場所を、ワクワク楽しむ。いろいろあっても、最後は結局何とかなる」という体験をたくさんしてほしいと思ったのだ。
未知に対する成功体験、とでもいえばいいのだろうか。
「山道で迷って怖かったけど、地図があったから帰ってこられた」なんて経験ができていたなら最高だ。

知らないことを過剰に怖いと思っていると、新しいことに挑戦する気持ちが損なわれる。
1人で行きたいところに行くこともできないし、おまけに、知らない人に対しても壁を作りがちになる。
小さいころから「何かあってもきっと大丈夫」という体験を積み重ねることで、未知を恐怖と思わず楽しめるようになってほしい、とビビりの私は思ったのである。

たかだか数か月の探検の日々で、それらが育つものなのかどうかはわからない。
また、彼らの掴んだものは、彼ら自身の手柄であって、私の手柄でないこともよく知っている。
それでも思うのだ。
私の群れの子どもたちは、不要な恐れと無縁な成長を遂げてくれているだろうか、日々を楽しいと思いながら過ごしてくれているだろうか、と。

だとしたら、こんなに嬉しいことはないのだが。

**連続投稿779日目**

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