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アドベントカレンダー12月13日 お題「壁紙・再会」BYくるみさん

家内安全、健康長寿、学業成就、子孫繁栄、商売繁盛、子宝祈願。
世の中には、様々な願い事があり、それを叶えてくれる神さまがいる。

そこは「復縁を叶える」ことで有名な神社だった。
喧嘩別れ、自然消滅、一方的に告げられた別れ。
パターンが何であれ、その神社で祈り、あるものを授けてもらえば、100発100中で、願いが叶うというのだ。

あるものとは、壁紙である。
パソコン用、スマホ用、男性用、女性用と分かれており、いずれも、破魔矢やお守りやお札と一緒に、社務所で販売されている。
QRコードを読み取り、神社のサイトから、パスワードと復縁したい相手の名前を入力して、ダウンロードする仕組みになっているらしい。

「壁紙で復縁? なにそれ? 毎日その壁紙を見ながら神様に祈るとか?」
のんのんのん。まったく違う。
その壁紙を使用したスマホや、パソコンに、別れた恋人から連絡が入るのだ。
手段は、メールだったり、電話だったり、その他SNSツールだったりとさまざまだが、確実にひと月以内に連絡が来る、と評判だった。

今の時代、そんなご利益のある電子データなんて、コピーされてネットにあふれていてもおかしくなさそうなものだが、「正規のルート以外で手に入れた壁紙を使うと、とんでもないことが起きる」「不正使用を煽った者にも天罰が下る」という噂も一緒に出回っていて、データの拡散を実行に移す者はいなかった。

舞子の友人も、その壁紙で高校時代の恋人と復縁できた、と嬉しそうに話していた。
職場の先輩もスマホの待ち受けにしてから、別れた彼女から連絡が来たと言っている。
すごいご利益だ。

舞子にも、忘れられない人がいた。
大学時代のサークルの先輩で、半同棲するほど親密な交際をしていたが、先輩が就職するのと同時にすれ違いが始まり、舞子自身はUターンで地元に帰ってきてしまったのだった。

2人の関係に、はっきりとピリオドが打たれたわけではないので、何となくもやもやした気持ちを引きずっている。
それに、就職してから、紹介されて付き合った人も、先輩ほど好きになれなかった。

復縁を望んでいるのか、というと、自分でもよくわからない。
ただ、会って話せば、今のこのもやもやが晴れて、先に進める気がしていた。

「ようし」
覚悟を決めた舞子は週末を利用して、復縁神社を訪ねた。

社務所で巫女さんに1000円払い、QRコードとパスワードの印刷されたお札を購入する。
その場で、読みとって女性用の、薄紫の小花がちりばめられた壁紙をダウンロードした。
ロック画面の壁紙に設定する。

その瞬間、ぴこん、ぴこん、とスマホが鳴り始める。
「え? まさか」
ラインの通知は、先輩の名前。
慌てて画面を開くと、大量のメッセージがラインに届いていた。

舞子は、それを機に先輩と再会し、遠距離ではあるが、もう一度付き合うことになったのだった。
復縁神社さまさまである。

***

当の復縁神社は、ウハウハだった。
種明かしを知れば、仕組みはいたって簡単なのだ。

ダウンロードした壁紙には、神社から遠隔操作できるようなプログラムが仕込まれている。
サイトにアクセスしてきたスマートフォンをクラッキングし、電話帳やSNSのブロックリストを探査するくらい、朝飯前なのだ。
ほぼ9割のカップルは、別れた後、未練を断ち切るために、SNSで相手をブロックしているというデータがある。
中には、時間がたって、相手をブロックしていることすら忘れている人もいる。
サイトに入力された名前の人物を見つけ出し、ブロックを解除してやればそれだけでいい。
お互いに未練があれば、たまに連絡してみたりしているはずだ。
うまくいけば、そこから復縁につながることもあるだろう。

復縁神社の力を目の当たりにしたカップルたちは、復縁したことをSNSで報告せずにはいられない。
何もしなくても、勝手に噂が拡散されていく。
IT時代の神社経営とは、こういうものなのである。

**連続投稿315日目**

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